掲載日 : [18-09-07] 照会数 : 17580
「人種差別撤廃委員会」日本審査に関する記者会見
8月30日に公表された国連人種差別撤廃委員会の日本政府に対する人種差別撤廃条約の報告書審査結果を受けて、民団人権擁護委員会が記者会見を行った。
9月6日、東京・港区の韓国中央会館で行われた会見では、民団人権擁護委員会の李根茁委員長と趙學植委員がこれまでの陳情活動や今回の人種差別撤廃委員会が出した勧告の内容などについて説明した。
1. 2018年8月30日、国連の人種差別撤廃委員会は、日本政府に対する人種差別撤廃条約の報告書審査についての総括所見を公表した
2014年以来4年ぶりとなる人種差別撤廃委員会による日本政府の審査は今年8月16日及び17日にかけてジュネーブで実施され、民団の人権擁護委員会は審査に向けた情報提供として「日本における在日コリアンへの差別に関する報告書」を提出した他、ジュネーブでの審査に人権擁護委員会委員を派遣するなどの対応を行ってきた。
2.日本政府に対する勧告の冒頭部分においては、委員会から、「前回の総括所見からのいくつかの勧告が実施されないままであることを懸念する」との見解が表明されている。
その上で、包括的な差別禁止法の制定や、国内人権機関の設置、ヘイトスピーチに対する刑事処罰の禁止を定める条約4条(a)(b)項の留保の撤回等前回審査の際にも出された勧告が繰り返し出されている。
ヘイトスピーチとヘイトクライムに関しては、2016年6月に制定されたヘイトスピーチ解消法の制定に歓迎の意を表明しつつも、ヘイトスピーチを伴うデモ・集会やインターネット等でのヘイトスピーチが依然として続いていること、公人によるヘイトスピーチも続いていること、ヘイトクライムが適切に訴追されていないこと等の懸念が示している。その上で、
(1)ヘイトスピーチ法の保護範囲を適切なものとし、民族的マイノリティに属する人が十分な救済を受けられるようヘイトスピーチ解消法を改正すること
(2)被害者の救済へのアクセスを強化するため、ヘイトクライムを含む人種差別の禁止に関する包括的な法律を採択すること
(3)集会中に行われるヘイトスピーチの使用と暴力の扇動を禁止し、加害者に制裁を課すこと
(4)インターネットとメディアにおけるヘイトスピーチと闘うための効果的措置をとること
(5)次回の定期報告書において、メディアに広がる人種差別及び人種主義的暴力の扇動の防止に関する措置の実施および効果について詳細な情報を提供すること
(6)警察官、検察官および裁判官を含む法執行職員に対して、ヘイトクライムとヘイトスピーチ解消法に関する研修を実施すること
(7)政治家およびメディア関係者によるものも含め、私人あるいは公人によるヘイトクライム、人種的ヘイトスピーチおよび憎悪扇動を調査し、適正な制裁を課すこと
(8)被害者の民族的出身及び民族別に細分化した捜査、起訴および有罪に関する統計を次回の定期報告で提供すること
(9)ヘイトクライム、ヘイトスピーチおよび暴力の扇動を撤廃する行動計画を制定すること
(10)ジャーナリスト及び公人の役割と責任に焦点を絞りながら、寛容と多様性尊重を促進する啓発キャンペーンを実施すること等10項目もの勧告を出している。
今回の総括所見において10項目もの勧告が盛り込まれたテーマは他になく、人種差別撤廃委員会が日本におけるヘイトスピーチ・ヘイトクライムの状況が深刻であると認識し、かつ、対策は極めて不十分であると受け止めていることがうかがわれる。
この他、在日コリアンの状況に関して、委員会は、「日本に数世代に渡り居住する在日コリアンが地方選挙において選挙権を行使できるよう確保すること、及び、公権力の行使又は公の意思形成の参画にたずさわる国家公務員に就任できるよう確保すること」との勧告を出している。在日コリアンに地方参政権を付与するよう求める勧告は、全ての国連の人権条約機関を通じて初のことである。植民地時代に有していた日本国籍を一方的に剥奪され、外国籍のまま数世代に渡って日本に居住しながら地方選挙権すら行使できないという在日コリアンの状況は世界的にも類例をみないものであるが、人種差別撤廃委員会はこうした歴史的事情をも考慮して、「数世代に渡り日本に居住する在日コリアンが地方選挙権を行使できないことは人種差別撤廃条約に違反する」との見解を示したものと考えられる。
この他、在日コリアンに関わる問題以外にも、アイヌ、琉球・沖縄、部落差別、難民、技能実習生、人身取引等の問題について多くの勧告が出されている。
3.今回の人種差別撤廃委員会が出した勧告は、世界各国から選出された人種差別問題についての独立した専門家委員が、人種差別撤廃条約に照らした厳正な検討を行った上で委員会の総意として公表したものであり、民団はこれに歓迎の意を表する。
また、民団は、日本政府及び各地方自治体が今回の人種差別撤廃委員会の勧告を真摯に受け止め、勧告を着実に実施していくことを要望するとともに、勧告の日本国内での実現に向けて尽力する所存である。
以上 民団人権擁護委員会