駐日韓国大使館に個人所有の土地を寄贈した故徐甲虎氏の貢献に対し、尹徳敏特命全権大使は12日、大使公邸を故人の雅号「東鳴」にちなんで「東鳴斎」と命名し、記念の懸板式を執り行った。式には遺家族や民団関係者、韓日の国会議員が訪れ、故人の偉業を改めて称えた。
尹大使は「故人が土地を寄贈後、70年間で500回のイベントを開催し、日本を代表する各界VIPや国内外の同胞、外交使節をお招きした。大使として誇らしく思う。故人の愛国心の表れを末永く代々に伝え、この東鳴斎を外交の舞台として活用する。貴重な財産を私たちに残してくれた遺家族に心から感謝する」と謝辞を述べた。
韓国から来日した金碩基・外交統一委員長(韓日議員連盟副会長)は「在日同胞は特別な愛国心をもっている。大使館を含め全国9カ所の公館に土地を寄贈した。ある同胞は『大使館の屋上にたなびく太極旗が見たかった』と語った。私は常に在日1世のその思いを国会議員に話してきた。政府支援金のスタートは、故徐甲虎氏の貢献の精神から来ている。在日同胞が国を愛してくれれば、政府も在日に対してもっと大きな役割を果たす」と語った。
日韓議員連盟の武田良太幹事長は「経済的に成功しながらも故人は母国を忘れず、その思いを大使館に還元した」と敬意を示した上で「日韓は東アジアの平和・安定を担う重要なパートナー。来年は国交正常化60周年、議連の幹事長として日韓のみならず国際社会のリーダーの責任を果たすよう努力する」と強調した。
民団中央本部の金利中団長は「故人の名にある虎は死して皮を残し、人は死して名を残すと言われる。大使公邸に故人の雅号を残し、功績が後世に長く顕彰されることは在日にとっての誇りだ」と喜んだ。
遺家族を代表して故人のひ孫(次女の娘)にあたる高校1年生の阪本杏樹さんが「大使公邸に自分の名前をつけられ、曾祖父も喜んでいると思う。東鳴斎が韓日親善に役立つことを期待する」とはにかんだ。
●徐甲虎氏
1914年、植民地統治下の慶尚南道蔚州郡で出生。29年に渡日。数々の職業で生計を得ながら大阪で阪本紡績、韓国で邦林紡績を創業した。76年に死去。2013年7月、駐日韓国大使館新築にともない、無償で敷地を寄贈した功績が称えられ大使館1階に「東鳴室」が開館した。78年に無窮花章を受章。