掲載日 : [22-03-30] 照会数 : 6375
2022年度基調…第76回定期中央委員会
【2022年展望】
◆はじめに
新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こって3年目に入ります。沈静化するたびに新たな変異株が発生し、終息する見通しが立っていません。より良いワクチンが行き渡るまで、私たちの生活と行動は今後も制約を受けざるを得ないでしょう。国家間の往来も規制が続き、当分間、私たちは感染対策を維持しながら民団活動を両立させていかざるを得ない状況です。
気象異常による災害も毎年のように発生しています。いつ、どこで不測の災害が起こるかわかりません。家庭訪問やSNSなどの案内・連絡を通じて、管内同胞に災害対策(防災・減災)を喚起し、民団との緊急連絡網を整備しておく必要があります。
最近、韓日関係の悪化により、民団会館等に対する犯罪的事象が発生しています。今後も不穏な動きやヘイト・クライムが起こることが予測されます。人的・物的被害が起こらないよう、監視カメラを設置するなど、不穏な動きに対する警備対策を徹底しておく必要があります。
◆内外情勢
世界の情勢を見ると、民主主義の退潮と専制主義の横暴が憂慮されています。ロシアのウクライナ侵略戦争、米中の緊張関係、軍備の拡張、移民難民問題、人種差別、 貧富の格差など、解決困難な問題が山積みしています。自制と対話と協調が機能しないなら、世界はより混迷の方向に向かう可能性があります。
東アジア情勢は、中国の強権的な動きが東アジアの安全保障の脅威となっています。国際社会に配慮し、抑制的な行動を取るのかどうか、その行動が注視されます。北韓は体制維持のため、核ミサイル開発を継続し、廃棄することはないでしょう。 米国との交渉で国際社会の経済制裁の解除を求めていくでしょうが、非核化をめぐり、打開策は見えていません。
韓半島の平和定着のため、韓国政府が提起している終戦宣言が成立する見込みは 立っていません。南北対話が進展する条件も機運も整っていないのが現状です。韓国の政権交代により北韓がどういう行動を取って来るのか注視されますが、日本にとっては、北韓は安全保障上の不安要因のままです。
◆韓日関係
元徴用工問題に端を発した韓日両国政府の対立と相互不信は解かれていません。尹錫悦新政府に具体的な進展を期待するしかない状況です。歴史修正主義の動きも座視できないものです。韓日関係の悪化は単なる2国間関係の問題に終わるものではありません。東アジアの安全保障とも関連します。徴用工問題、慰安婦問題などの歴史問題に対する立場の違いを早期に乗り越え、両国の政治指導者が一日も早く内外に関係改善を鮮明にすることが願われます。
◆在日同胞社会
在日同胞社会は韓国籍同胞が減少し、日本国籍同胞が増加しています。複数の国籍と複数の民族を持つ3~4世が増加しているのが現実です。彼らの複数のアイデンティティーを認知し、新定住者や非民団団体との交流を促進させ、同胞社会の和合に向かって大きく前進していくことが本団に望まれています。
全国の民団も少子高齢化により、過疎化の方向にあります。同胞が2500名未満の過疎地方が26地方、その内、1000名未満の超過疎地方が13地方になります。過疎地方における同胞社会の液状化が憂慮されています。超過疎地方では財政、人材確保の問題で組織の存続が危ぶまれています。実情に相応した規約の改正、大胆な組織の変革を通じて民団の再生を実践し、果敢に組織の改革を断行していかなければならない状況に来ています。共にそのことを自覚し、同胞社会と民団の将来を見据え、奮起して前進して行きましょう。
【重点方針】
1.組織基盤強化と同胞社会の和合
◆組織の結束と信頼回復
コロナの影響でこの2年間、組織活動が制約された中、昨年は中央大会をめぐる混乱がありました。創団から75年が過ぎた今、少子高齢化や多様化などの要因により、組織が液状化していることは否定できません。あらためて民団の存続意義と必要性が問われています。危機の時こそ、小異を捨てて団結し、対話と協調と実践を通じて、民団の存在意義を高めていく知恵が私たちに求められています。
◆後継者養成
組織は人なり、といいます。組織基盤強化に必要なことは、人をつくること(後継者養成)、人を増やすこと(団員拡充)、制度を変えること(実情に合った規約に改める)、基本財政を確保することです。民団は、新定住同胞、日本国籍同胞とこれからの民団をつくり、同胞社会の和合を進めていくという基本方針のもとに諸般の活動を進めていかなければなりません。
その上に立ち、民団75年の歴史を継承する後継者養成、人材確保は喫緊の課題であります。在日同胞指導者ワークショップ、在日同胞リーダー育成スクール、在日同胞地位向上セミナー、また議決・監察機関ワークショップ等を実施して、後継者養成事業を進め、幹部の育成と発掘、また常勤者の養成に尽力します。
◆同胞家庭訪問と団員の拡充
コロナ禍に疲弊した同胞に今最も必要なのは親睦です。行事やイベントで対面して集まる場をつくり、楽しむ場を提供するのが民団の務めです。地道に家庭訪問やSNSを活用した案内・連絡を繰り返し、同胞を慰労、激励、支援し、ネットワークを整備することです。家庭訪問やイベントを通じて、人材の発掘や団員を拡充していくことは、組織基盤強化に直結するものです。中央は、地方・支部との協働による同胞家庭訪問をいつでも準備して参ります。
2.同胞の生活と権益 守護
◆ヘイト根絶
ヘイトスピーチが起こったのは、韓日関係の悪化によります。韓日間の軽率な言動によって、在日同胞が標的となり被害にあってきました。同胞の生存権を脅かし、民族差別と偏見を煽るヘイトは何としても根絶させなければなりません。
2016年に成立したヘイトスピーチ対策法には罰則規定がありません。年1万件の書き込みがあるネット上の差別的言動(ヘイト)をなくすためには法的措置が必要です。2020年7月、川崎市が罰則規定のある差別禁止条例を施行後、民族差別発言に対し、損害賠償を求める訴訟で勝つ事例が増えています。この間の各地の運動の成果を踏まえ、ヘイト根絶に向け罰則規定をつくるよう要望活動を進めていきます。
◆住民投票権と地方参政権獲得
昨年12月、武蔵野市議会で、日本人住民も外国人住民も平等に投票できる住民投票条例案が否決されました。地域の生活に密着した事案の良否を投票する住民投票権すら認めない排他的な姿勢と対応は、日本がいまだ人権後進国であることを浮き彫りにしました。
納税義務を果たし、永い歴史的経緯をもって居住している私たちに、住民として生活している自治体に制度的に参与できる権利があって当然であります。すでに最高裁は1995年に永住者等に地方選挙権を付与しても違憲ではない、付与するかどうかの措置は立法府の判断であると明示しています。
2018年に、国連の人種差別徹底委員会は私たちに付与しないのは差別であると明言し、日本政府に付与するよう勧告しています。私たちは地方参政権運動で長年積み上げてきた成果を学習会などを通じて確認し、日本の根深い差別構造に対してあきらめて黙るのではなく、私たち自身が「おかしい」と声を上げ続けていくことが肝要であります。
◆生活相談センター充実化
民団は民族団体であり、生活者団体であります。同胞が不利益をこうむることのないよう生活と権益を守るための拠り所として民団は存在しています。相続や家族関係、法律問題などで悩んでいる同胞に各種相談サービスを提供し、信頼される民団づくりに一層尽力していきます。
現在全国18箇所に専門相談員を置いた生活相談センターが民団内に設置されています。本年は3箇所の地方センターの開設をめざします。コロナ禍の長期化により、電話・対面相談、オンライン相談、ライン通話相談など、状況に応じて対応し充実化を図っていきます。また専門相談員間のセミナーや学習会も実施していきます。
3.次世代育成
次世代、後継者の育成なくして民団の将来はありません。スローガンだけの育成では何にもなりません。
在日同胞社会は超少子化時代を迎えています。2020年末の統計によると、全国で出生した在日韓国人は700名に満たないものです。1人も在日韓国人が生まれていない県が10県もあります。そういう中で次世代育成を推進していくには、日本籍同胞の子弟を含めた、民族的・国際的な観点からの次世代育成に努めねばなりません。在日が在日の歴史を知らない状況が生じており、在日の歴史、韓日の歴史を伝えるのは民団の責務であります。昨今の歴史修正主義に対し、正しい歴史認識と国際感覚を持った次世代を育成することを根幹に、子どもたちの親睦や学習イベントの《場》をつくり、提供するのが民団の務めであります。隣接地域との共同行事も一層進めていきましょう。
◆オリニジャンボリー
コロナ感染症のため、この2年間中止された「オリニジャンボリー」は、韓国内での開催が困難であることから、日本国内で夏休みに実施する予定です。全国の子どもたちが屈託なく遊び、学び、仲間をつくって元気になるような場を準備していきます。コロナの感染状況に応じて代替事業も用意します。また地域における「オリニ土曜学校」や各種「オリニ交流会」をより充実させていきましょう。
オリニの時から行事を通じて民団との関わりを持つことは、次世代育成・後継者育成の基点ともなるものです。母国に就学、留学を希望する青少年には各種の奨学金制度や各種団体の教育課程が充実しています。その活用も含めて同胞に情報や機会を積極的に提供していきましょう。
4.韓日友好促進
韓日関係が改善される具体的な兆候が見られないのは残念でなりません。韓日関係は在日にとって死活問題であります。民団は韓日友好の架け橋として永年活動して来ました。韓日友好の歴史を壊してはならないし、壊されてはなりません。
元徴用工問題などの歴史認識において、両国間の折り合いがつかないのは今に始まったことではありません。この間積み重なった相互不信を解き、信頼関係を取り戻して、健全な関係を再構築するには、政治指導者の決断が必要不可欠です。また双方が国内を説得する指導力も求められます。私たちの前には成功例として、1998年の韓日共同宣言があります。その精神を踏まえ、新たな共同宣言を出すほどの気概と知恵を両国政府に求めたいと思います。
朝鮮通信使を推進した雨森芳洲は、「互いに欺かず争わず、真実をもって交わること」こそ、平和と友好交流を維持できる要諦であると説き、実践してきました。その精神はいつの時代にも生きています。本団は民間次元で、第4次韓流ブームを活かしながら、韓日親善イベント、フェスタ、友好促進に向けた講演やシンポジウム、10月マダンを実施し、日韓親善協会とともに架け橋としての役割を一層果たしていきます。
5.母国との紐帯強化と韓半島の平和寄与
◆第20代大統領選挙で政権交代
3月9日、第20代大統領選挙の投開票が行われ、「国民の力」の尹錫悅候補が当選しました。本団は、自由民主主義を根幹とする韓国の国家像を再度鮮明にし、和をもって国民を統合する国家づくりに邁進するよう願ってやみません。韓日関係の早期の修復、在日同胞の地位向上、ヘイト根絶や地方参政権の早期の付与など、私たち在日同胞の要望が反映されるよう努めると同時に、母国との紐帯強化に尽力して参ります。
◆韓半島の平和寄与
韓国憲法第4条に明示されている、「大韓民国は統一を指向し、自由民主主義的秩序に立脚した平和的統一政策を樹立しこれを推進する」に依拠し、民団は永年日本の地で、自由民主主義の韓国を守り、祖国の平和統一のために寄与して来ました。北韓の非核化により、南北分断から融和へ向けて、恒久的な平和体制が一日も早く構築されることが私たちの願いです。韓半島で二度と戦争があってはなりません。
今後も民団は、自由民主主義に立脚した平和統一へ向けて寄与してまいります。また北韓の民主化、住民の人権保障は大きな課題です。国連は毎年のように北韓の深刻な人権状況について報告しています。北送された9万3340名の同胞家族(日本人家族6800名含む)の生死確認、家族の安否、自由往来、責任の所在は、私たちにとって忘れてはならない解決すべき課題であります。
◆大同団結し、民団再生の年に
本団は在日同胞社会の代表団体として、同胞の生活と権益を守り、多文化共生社会を実現することが責務であります。時代に相応した民団に変革し、同胞社会、韓日関係を良くしていくことが私たちに与えられた社会的役割であります。ともに力を合わせて本年を団結と民団再生の年にしましょう。