尊敬する国民の皆様、独立有功者、並びに御遺族の皆様、海外同胞の皆様、光復76周年を迎えた本日の午後、ついに(独立運動家)洪範図(ホン・ボムド)将軍の御遺骨が祖国に到着いたします。洪範図将軍は、歴史に残る鳳梧洞戦闘と青山里戦闘を勝利に導いた大韓独立軍の司令官を務められ、後日、カザフスタン高麗人同胞の精神的な支えとなられたたお方です。洪将軍の御遺骨返還に向けた韓国政府の外交努力がようやく実を結ぶこととなり、心よりうれしく思っております。物心両面にわたりご協力いただいたカザフスタンのトカエフ大統領および高麗人同胞の皆様方に深い感謝の意を表します。
光復直後の1946年の尹奉吉(ユン・ボンギル)義士と李奉昌(イ・ボンチャン)義士をはじめとし、本日洪範図将軍に至るまで、愛国の士144名の御遺骨が故郷の地に還ってこられました。独立英雄の方々の御遺骨を祖国にお迎えする取り組みを国家とわれわれ後代が当然果たすべき責務かつ栄誉と存じ、最後まで最善を尽くしてまいります。
われわれの先達は、いかなる困難の中にあっても自主独立の夢を諦めることなく、さまざまな地を根拠地としながら、独立運動を展開されました。その強靭(きょうじん)な意志が後代にまで受け継がれ、今もなお国難克服の力となっております。先達の方々と独立有功者、並びに御遺族の皆様に対し、心からの敬意と感謝の意を表します。
国民の皆様、本日の記念式典が開かれるここ、「文化駅ソウル284(イパルサ)」は、日帝強占期においては痛ましい記憶と涙の地でありました。わが国土で生産された物資が収奪され、まさにここから運び出されていきました。苦難の道を選んだ独立の士と土地を失った農民たちがここで祖国との別れを告げ、戦場に駆り出されるいまだ年若い学徒兵と家族たちがここで涙を流しました。ところが、光復を迎えると同時に、駅と広場は夢と希望の場へと変貌しました。満州や沿海州からやってくる列車は故郷に帰還する人々であふれかえりました。釜山、仁川、群山をはじめとする港町も希望に満ちた帰郷者でにぎわいました。光復の感激とあの日の希望は、今もなおわれわれの未来であります。
国民皆が、新しい国を建てようという夢を抱き、胸を熱くしました。全国の親たちは子供の教育に力を入れました。そうして、全国で145万人だった小・中・高校生が、解放後わずか2年で235万人へと、60%以上増加しました。高い教育熱を受けて義務教育が始まり、優秀な人材が大韓民国の成長の原動力となりました。
農産物の生産も大幅に増加しました。日帝の収奪によって伸びずにいた作物生産量が農地改革後、急増しました。1970年代に入ると、植民地時代に比べ3倍近くも増加し、ついに端境期の食糧不足からの脱却を果たしました。
「われわれも豊かになってみようじゃないか」という国民の意志は、1960年代の経済開発5カ年計画を皮切りに、経済・社会開発計画、新経済計画とIT産業の育成、グリーン成長と創造経済まで続き、世界トップ10の経済大国に登りつめる土台となりました。
2017年に3万ドルを突破した一人当たりGDPも、昨年、G7国家を追い越しました。自主国防は、過去100年間韓国が切望していた夢でありました。陸軍は独立軍と光復軍の精神を受け継ぎ、世界最高レベルのK2戦車、K9自走砲、K21装甲車を運用する「先端強軍」への成長を遂げております。日本軍が残して行った警備艇と錆びついた戦艦をもって創設された海軍は、イージス艦を含む駆逐艦9隻、潜水艦19隻など、計150隻以上の艦艇を運用する大洋海軍となりました。1949年、わずか20機の軽飛行機しか備えていなかった空軍は先端超音速戦闘機、KF21を世界で8番目に独自開発し、強力な宇宙空軍へと躍進しております。今や韓国は、総合軍事力で世界第6位となった軍事強国であります。第4次産業革命と宇宙時代の新たな安全保障環境に備えながら、誰もが侮ることのできない防衛力の整備を進めております。
白凡・金九(キム・グ)先生は、「高い文化の力を有する国」を夢見ておられました。今日、韓国の文化芸術は世界を舞台に、その夢を叶えつつあります。BTSは、新曲が前の曲と入れ替わる形で全米シングルチャート1位を守り続けるという史上初の記録を達成しました。映画「パラサイト 半地下の家族」は、カンヌ国際映画祭とアカデミー賞を席巻し、俳優の尹汝貞(ユン・ヨジョン)さんはアカデミー助演女優賞を受賞されました。K―POPと映画のみならず、ゲームやドラマ、ウェブ漫画、アニメをはじめ、さまざまな分野のコンテンツが世界中で人気を博し、昨年の輸出額は初めて100億ドルを突破しました。われわれの文化・芸術が有する高い力量は、現代的かつ大衆的な分野だけにとどまりません。クラシック音楽やバレエのような伝統文化・芸術分野においても、韓国の文化芸術家は卓越した成果を上げています。そのような成果は、伝統と現代を調和させてきた韓国の文化芸術家が持つ創造性と情熱の賜物に他なりません。文化芸術を愛するわれわれ民族の底力と言えるでしょう。
国民の皆様、われわれはいついかなる時も新しい夢を抱き続けてきました。夢を失わなかったからこそ、ここまで来られました。独立と自由、人間らしい暮らしを望む夢が、われわれを解放へと導きました。
本年6月、国連貿易開発会議は全会一致で、開発途上国の中からは初めて韓国を先進国に格上げしました。先進国の仲間入りを果たしたわれわれには、
もう一つの夢ができました。品格のある、平和な先進国になりたいという夢、国際社会において自らの役割を果たす国になろうという夢です。われわれはこれまでまだ誰も歩んだことのない道を切り拓いてきました。植民地と第三世界国家から始まり、今や開発途上国の「新しい成功モデル」を築き上げたのです。われわれの成長経験を途上国と共有できることが、韓国ならではの最大の強みとなりました。新型コロナウイルスの激しい挑戦に立ち向かいながら、韓国国民の持つ高い共同体意識の底力を見せつけると同時に、人類が危機を克服する模範を示しました。
われわれには、先達から受け継がれた強靭な「共生と協力の力」があります。植民地支配の屈辱や差別、暴力、搾取を経験したにもかかわらず、われわれの先達は解放された地において、日本人に対する復讐(ふくしゅう)の代わりに包容を選択しました。われわれは夢を叶えるために常に心を一つにしてきました。危機の前ではさらに一丸となりました。互いを支え合い、数多くの危機を機会に変えてきました。共生協力の力があるからこそ、われわれは新しい夢に向かって歩みを続け、今後のポストコロナ時代を先導することになるでしょう。
ろうそく革命の過程で国民みなが描いていた夢は、「国らしい国」「共に豊かに暮らす国」でありました。韓国は週52時間労働制度の導入と最低賃金の引き上げ、ILO基本条約の批准により、労働基本権を拡大しております。雇用保険の拡大、基礎年金の引き上げ、健康保険適用率の向上と認知症国家責任制の推進により、韓国社会の包容性を育んでいます。
コロナ禍についても、他の先進各国に先駆け、安定的に危機を乗り越えています。デルタ株の拡大による第4波にも必ずや打ち勝つ決意であります。
ワクチン接種も目標値に近づいております。10月には全国民の7割が2回目の接種まで完了し、目標接種率をさらに上げていく方針です。
われわれは共に回復し、共に飛躍することでしょう。コロナ禍による小規模事業者の被害に対しては手厚く補償し、良質な雇用の創出と社会的弱者層の雇用機会増加に向け、全力を尽くしてまいります。低所得層への生計支援を拡大することで、格差を縮小させる包容的な回復を目指してまいります。
昨今、新たな世界秩序が形成されつつあります。大韓民国は重要な歴史的分岐点に立ち、先導国家へと発展するチャンスを迎えております。先導型経済はクリエイティブなアイデアが競争力の中核となる経済であり、「人」が中心となって成長する経済であります。
昨年までにユニコーン企業は15社に増加し、今年上半期のベンチャー企業投資額が過去最高を記録するなど、第2のベンチャー・ブームが広がっています。世界首位を誇る造船受注、世界で五指に入る自動車産業、半導体メモリーに加え、システムLSIやバッテリー、バイオ分野においても善戦を続け、輸出額は過去最大を更新しております。政府は経済に革新と共生、包容の価値を取り入れ、より一層強い経済を築いていく所存です。
2025年までに総額220兆ウォンを投資する韓国版ニューディールは、「人」が中心となる「革新的包容国家」へ向かうロードマップであり、新たな飛躍を実現させる国家発展戦略です。政府は、デジタル・ニューディール、グリーン・ニューディールに加え、ヒューマン・ニューディールを韓国版ニューディールの今一つの柱として掲げております。全国民雇用保険、生計給付扶養義務者基準の全面廃止など、社会的セーフティーネットを一層きめ細かく整備するとともに、人材投資を通じて、デジタルシフトとグリーンシフトをけん引してまいります。ソフトウエアと人工知能分野をはじめとする未来の人材育成に取り組み、青年層に良質な雇用を提供する方針です。デジタルシフトとグリーンシフトの過程で取り残される国民がないよう、公正なシフトにも力を注いでまいります。
韓国政府が目指す国家均衡発展の夢は、地域均衡ニューディールによって実現されることになるでしょう。地方財政の分権を一層強化するとともに、「東南圏メガシティ」のような超広域協力モデルを成功・拡散させることで、首都圏への集中傾向を是正していかなければなりません。景気回復が速やかで堅調な足取りを見せているものの、依然としてその温もりが行き届いていない地域が多くあります。経済回復の恩恵を満遍なく届け、「共に豊かに暮らす国」への夢が必ずや肌で実感できる現実となるよう努めてまいります。
品格のある先進国への第一歩となるのは、尊重し、配慮する文化であります。差別と排除ではなく、包容と寛容の社会へとさらに一歩前進しなければなりません。社会的弱者を配慮し、互いの立場と考えの相違を認め、尊重するとき、韓国社会は品格のある国、尊敬される先進国へと歩みを進めていけるでしょう。
尊敬する国民の皆様、韓国は先進国へ飛躍を遂げる過程の中、国境を越えた共生と協力を実践してまいりました。開放と通商国家の道を歩み、世界第7位の輸出大国に成長するとともに、世界経済の発展に寄与してまいりました。現政権が発足してからも、RCEPをはじめインドネシア、カンボジア、イスラエルとFTAを締結し、協力の輪を広げてまいりました。
世界が一丸となって対応しなければ、コロナ禍に打ち勝つことはできず、気候危機を克服することもできません。大韓民国は先進国と途上国の共生・協力を導く懸け橋としての役割を果たしていく所存です。
大韓民国が2年連続でG7サミットへの招待を受けたことは、まさに新たな世界秩序の胎動を意味します。開放と協力によって育まれたわれわれの力量をもって、コロナ危機の克服に加え、コロナ禍以降における世界経済再生と平和秩序に積極的に貢献していきたいと存じます。特に、途上国から先進国へと発展した韓国の成長経験とこれまで韓流やK―防疫で培ってきたソフトパワーを土台とし、新しい時代の価値と秩序形成に向け、先頭に立ってまいります。
まず第一に、「ワクチンハブ国家」への飛躍を目指します。韓国は世界第2位のバイオ医薬品生産能力、韓米ワクチン・パートナーシップなどに基づき、人類共同の感染症危機の克服に率先して取り組んでまいります。8月5日に発足した「グローバル・ワクチンハブ推進委員会」が中心となり、ワクチンの原材料・副資材の開発から需給に至るまで、集中支援を実施する計画です。来年の上半期までに韓国製ワクチン第1号の商用化を目指し、政府は企業と共に取り組んでまいります。
第二に、グローバル・サプライチェーンにおいて韓国の役割を一層強化していきたいと考えております。 世界最高の競争力を備えた半導体及びバッテリー産業は、韓国がグローバル・サプライチェーンの安定に貢献し得る分野です。技術格差をさらに拡大させ、グローバル先導基地としての地位を確固たるものにしていく考えです。
第三に、気候危機への対応において韓国が担うべき責任を果たしてまいります。韓国は昨年、「2050カーボンニュートラル宣言」といった新たな道しるべとなる目標を打ち出しました。環境のために自発的な実践活動を行ってきた韓国の国民と、ESG経営に積極的に取り組んできた企業の努力があったからこそ打ち出せた目標でありました。政府は今月5日に発表した「2050カーボンニュートラルシナリオ」を踏まえ、国民の世論を幅広く反映するとともに、実現可能な2030年の削減目標(NDC)を年内にも公約として打ち出し、国際社会の一員としての責任を果たす所存であります。
「2050カーボンニュートラル」は、決して容易ではない目標ですが、だからといって負担としてのみ認識する必要はありません。カーボンニュートラルに向けた世界的な社会的・経済的大転換は、かつて類を見ない新しいイノベーションをもたらし、大量の雇用創出につながるでしょう。韓国が先導国家へと躍進できる絶好の機会でもあるのです。政府はエコカーとバッテリー、水素経済を未来の成長エンジンとして育成し、石炭火力発電を削減しながら、太陽光、洋上風力などの新エネルギー・再生可能エネルギーを拡大してきました。韓国の先進分野を中心に、先導的に低炭素経済への転換を推進してまいります。
国際的な連帯と協力の幅もさらに広げていく方針です。特に、石炭火力発電への依存度が高い途上国のエネルギーシフトに助力し、韓国の「グリーン・ニューディール」経験とグリーン技術を共有していく考えです。
尊敬する国民の皆様、解放翌日の1945年8月16日、民族の指導者、安在鴻(アン・ジェホン)先生は3千万同胞に告ぐ放送演説を行われました。朝鮮建国準備委員会の副委員長でおられた安先生は、敗戦した日本と解放された韓国が、同等かつ互恵的な関係へ進んでいこうと提案されました。植民地民族の被害者意識を超えた、実に大胆かつ包容的な歴史認識と言わざるを得ません。解放により民族意識がかつてないほどに高まっていた時期でありましたが、われわれは閉鎖的または敵対的な民族主義へと流れなかったのであります。
アジアの枠を越え、ひいては世界の平和と人類の幸福を目指すことは、まさに三・一独立運動の精神であります。大韓民国臨時政府と解放された国民が自ら実践してきた偉大なる建国の精神なのです。大韓民国はそのような精神をこれまで変わりなく守り続けてきました。韓日両国は、国交正常化以降、長年にわたり民主主義と市場経済という共通の価値に基づいて、分業と協力による経済成長を共に成し遂げてきました。それが、今後とも両国が共に進んでゆくべき道であります。
韓国政府は両国間の懸案はもとより、コロナ禍や気候危機など、全世界が直面した脅威に共同対応するための対話の門戸を常に開いております。正すべき歴史問題については、国際社会の普遍的な価値と基準に沿った行動と実践をもって解決していく所存です。韓日両国が知恵を集め、困難を共に克服しつつ、隣国としてふさわしい協力の模範を示せることを期待しております。
本年は、南北の国連同時加盟30周年を迎える年です。加盟1年前の1990年、東ドイツと西ドイツは45年間にわたる分断状態に終止符を打ち、統一を果たしました。東西ドイツは信義と善意を示し合いながら信頼を築き上げ、普遍主義、多元主義、共存共栄を目指す「ドイツモデル」を構築しました。さらに、過去に対する真摯な反省により、統一に対する周辺諸国の懸念を乗り越え、世界の普遍的価値と基準をけん引するEUの先導国家となりました。
韓国にとって分断は、成長と繁栄の最も大きな障害であると同時に、恒久的な平和を妨げる頑強な障壁でもあります。ですが、われわれにもこの障壁を取り除くことができます。たとえ統一まではより多くの時間がかかるとしても、南北が共存しながら、韓半島の非核化と恒久的な平和を通じて北東アジア全体の繁栄に寄与する「韓半島モデル」を作り上げることができるはずです。
「北東アジア防疫・保健協力体」は今現在、情報共有、医療防疫物品の共同備蓄、コロナ禍対応人員の共同訓練などの協力事業について議論を進めています。コロナ禍が決して一時的な脅威ではないことが明らかになった昨今、その重要性は一層増していると言えます。協力を拡大していきながら、東アジア生命共同体の一員である北朝鮮も共に参加できるよう努力してまいります。
韓半島の平和を強固に制度化することこそ、南北双方にとって大きな利益となり得るものなのです。特に大韓民国が、いわゆる「コリア・ディスカウント」を払拭し、事実上の島国状態から脱却して大陸につながったとき、莫大(ばくだい)な利益を享受し得ることでしょう。われわれが弛むことなく、絶えず韓半島平和の夢を抱き続ければ、われわれの想像力は韓半島を越え、ユーラシア大陸まで羽ばたくことでしょう。和解と協力に向けた努力を止めさえしなければ、頑強な障壁はやがては崩れ落ち、われわれが想像する以上の新しい希望と繁栄の幕が上がることでしょう。
尊敬する国民の皆様、独立有功者、並びに御遺族の皆様、海外同胞の皆様、われわれは植民地化と戦争による廃墟の中においても、より良い未来に向けた情熱と夢を抱き続けてまいりました。誇らしき発展を遂げた国、隣人が共に豊かに暮らす国、分断を克服し、平和を目指す国に向かって歩みを進めてまいりました。
海外に行くと誰もが実感することでありますが、われわれは自らが思うよりもはるかに高い評価を受けております。国際社会は、経済や防疫、民主主義、文化芸術をはじめ、あらゆる分野において大韓民国が示す力量と成就について驚嘆しております。われわれはもはや過去の大韓民国ではないのです。われわれ自ら誇りを持って新たな夢を描く時期に来ております。その夢に向かって、国民みなが共に歩んでゆくことを願ってやみません。
自由と平和に向けた強靭な意志と共同体への献身、連帯と協力の偉大な遺産を遺してくださった先達の方々に対し、衷心より尊敬の念をささげます。
ご清聴ありがとうございました。