永住権取消(拡大)法案が日本政府から日本国会に提案(提出)され、4月16日に国会(衆議院)で審議入りしました。現在の国会は6月末くらいまでを予定していますので、このまま行くと、この法案は成立する可能性が大きいといえます。そこで、法案の内容と永住者が今後、気をつけねばならないことを御紹介します。
この法案(入管法(出入国管理及び難民認定法)の改正案です)が成立した場合、永住権はいまよりずっと取り消されやすくなります。現在、まさに国会で審議中で、まだハッキリしないところもあるのですが、それでも例えば、在留カードを携帯しないで外出した場合、クルマで(重い)スピード違反をした場合、病気や失業で、税金を払えなくなった場合なども該当するのではないかと想定されています。現在は永住権を日本政府が取り消すことができるのは、もっと重い刑事犯罪を永住者が犯した場合などに限定されています。
しかし、今回、この法案が通った場合には、いまよりも、もっと軽微な事由でも永住権が取り消されかねないわけですから、永住者が気をつけねばならないこととしては、上記のようなことを起こさないよう、いっそう気をつける、となります。
もっとも、上記のようなことを起こさないことは、ふつうだれでも気をつけていることです。問題は、それでも長い人生ではそういうことも起こることがありうる、ということです。それなのに、それに対する「罰」が重すぎるのではないか、ということです。
永住権を取り消されてしまうと、日本から国外追放されることもあり得る、ということになります。もっとも、これも審議中でまだハッキリしないところがありますが、永住権を取り消したからといって、国外追放をするのはよほどの事案に限られるだろう、ふつうなら1年くらいの短いビザ(在留資格)から再出発してもらうことが多いだろう、とか、今回の法案はあくまでも永住権を取り消すことを日本政府が「できる」とするだけのことで、必ず取り消すわけでもない、などと日本政府は説明しているようです。
しかし、永住から1年のビザに変更されてしまうこと自体、大変なことであるのはいうまでもありませんし、永住権が取り消されるか、取り消されたとして、1年のビザへの変更か、国外追放となるか、それは日本政府次第、というわけです。 問題の核心は、外国人は「煮て食おうと焼いて食おうと自由」(池上努・法務省入管局参事官(検事)の『法的地位200の質問』(1965年)に出てくる表現)という発想が日本政府にまたもみられることです。
日本の永住権は、原則(例外はあります)、10年間の在住期間がまず必要で、他の「先進国」と比べると取得のハードルが高いといえます(さらに、例えば、ドイツの場合、永住を超えて、ドイツ国籍を取得する権利が外国籍者に認められており、しかもそのために必要な在住の期間がこれまで8年間だったのを5年間に短縮し、また、複数国籍の制限もなくす法案が可決された、ということです)。
しかも、最近の日本政府の運用では永住権申請のときに、例えば税金の滞納が少しあったりしただけでダメだ、と厳しくチェックしています。
そういう高いハードルを乗り越えてようやく永住権を得たにもかかわらず、永住権を失うような「地雷」の上に永住者を立たせて、ただ、よほどの場合でなければ地雷が爆発することもないから心配しないでよい、というのが日本政府の説明です。
しかし、そういう地雷の上に永住者を立たせること自体が問題です。
民主主義社会ではどの人も対等です。あるときは「管理=統治する」側に回るが、あるときは「管理=統治される」側に回り、立場が固定されない(「治者と被治者の自同性(じどうせい)」)。
しかし、日本政府は外国籍者を管理の対象としてのみとらえて、人権や権利の主体と考えない傾向が強いといわれています。今回の法案でも、永住者は一方的に「管理される」側です。日本国籍者もスピード違反や税金を支払えないことがあります。
それに対しては、罰金刑などの「罰」が用意されています。今回の法案は永住者についてはそれを超える、かつ、永住者やその家族の人生設計自体をゆるがすような「罰」を加えることを日本政府に許すものです。
永住者もまた日本社会の一員です。しかし、日本政府は永住者を日本社会の「仮の客」にすぎないとみているかのようです。
今回の法案は特別永住者は対象にしていません。ただ、特別永住制度をなくすべきだ、という主張も日本社会に根強くあります。今回の法案が通ってしまうと、将来、特別永住、さらには「帰化」者や複数国籍者の日本国籍も取消しの対象とするべきだ、などのような議論につながらないか。杞憂に終わらせる必要があります。