掲載日 : [20-12-04] 照会数 : 10894
「ふれあい館」爆破予告 被告に実刑判決
[ 左から師岡康子弁護士、崔江以子さん、桜本1丁目町内会の山口良春会長 ]
【神奈川】日本人と外国人の多文化交流施設「川崎市ふれあい館」(同市川崎区桜本)に今年1月、在日韓国・朝鮮人の虐殺を予告するはがきを送ったなどして威力業務妨害罪に問われた元同市職員、荻原誠一被告(70、川崎区)に対し、横浜地裁川崎支部(江見健一裁判長)は3日、懲役1年(求刑・懲役2年)の実刑判決を言い渡した。
判決によれば、荻原被告は2019年12月末、ふれあい館に「在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう」などと記したはがき1通を送り、同館職員の業務の遂行に支障を生じさせた。続いて1月27日には川崎市の事業所に「在日韓国人の抹殺」と同館の爆破を予告する元同僚宛てのはがきを送った。
このほか、神奈川県内と東京都内の学校のべ9校にも、被告人の元同僚の名前を騙って脅迫状の入った封書を送った。
10月、公判で被害者として意見陳述に立った同館職員の崔江以子さん(47)は「一時的な威力業務妨害に止まらず、在日コリアンの存在そのものを否定するヘイトスピーチであり、差別を動機とする犯罪、ヘイトクライム」と指摘し、厳しい処罰を求めていた。
江見裁判長は「被告人の刑事責任は重い。前科がないなどの事情を考慮しても、刑の執行を猶予すべき事案ではない」と断罪した。川崎市が本件威力業務妨害罪につき告訴していた。
「差別のない地域社会 町内会が実践」
「虐殺のみならず、爆破予告で地元桜本商店街にお客さんが来なくなってしまうのではないか。ふれあい館が迷惑施設と思われてしまうのではないか」。判決公判を受けて崔江以子さんは3日、川崎市役所記者クラブで会見し、「地域に分断が生じてしまわないか心配だった」と述べた。桜本1丁目の山口良春町内会長と意見陳述する崔さんに付き添った弁護士の師岡康子さんが同席した。
崔さんの不安を解消してくれたのが「ふれあい館」を守り続けてきた山口さんだった。山口さんは「ふれあい館があってこそ桜本が成り立っているので恩返し」とばかり、虐殺予告が届いてからは館の周辺を毎日のようにパトロールした。警察に足を運び、市にも告発に向けた意見書を届けた。
崔さんは「差別のない地域社会という実践を地域の人が自らやってくれた」とあらためて感謝の言葉を述べた。
一方、師岡弁護士は「執行猶予が付かなかったのは特定の国籍を持つ者に被害を及ぼしたという悪質性を含んだ判断なのかな。そうであれば、もう少し具体的に差別目的のヘイトクライムだったと踏み込んでほしかった」とコメントした。