掲載日 : [21-01-01] 照会数 : 11657
新たな感覚で青年は事業に挑む<2>ボディペイントスタジオ経営の香川千恵さん
笑顔届けるアート…韓国人の血が騒ぎ
大阪市北区西天満にあるビルの一室でフェイス&ボディアート「Blessing(ブレッシング)」を経営している、日本人の父と在日韓国人の母を持つ香川千恵さん(36、一社在日韓商兵庫理事)は、自ら手掛けるボディペイントで多くの人たちを笑顔にしてきた。作品は、アメリカのフェイス&ボディーアートの専門雑誌「illusion(イリュージョン)」に掲載されるなど、注目を集めている。
ボディペイントは、海外ではハロウィンやクリスマス、スポーツイベントなどの日に、顔や体に絵を描いて楽しむのが一般的になっている。日本では7、8年前に若者を中心に流行り出し、今では多くの人たちが思い思いの絵を描くようになった。
「こういう仕事をしているけど、絵を描くのは下手なんですよ」と笑う。ペイントには下絵はなく、顔や体に直接描いていく一発勝負の世界だ。「お客さまの要望を聞き、自分の感性でペイントするのは性に合っている」と話す。
小さい頃から、髪や顔を触ることが好きで、ヘアメイク専門学校に通った。ある日、大阪市のUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)で見た光景に釘付けになった。
泣いている男児のそばに駆け寄ったスタッフが、スパイダーマンをペイントすると、泣きじゃくっていたその子は「ママを守るんだ」と目をキラキラさせた。「こういう絵の世界があるんだ」と感動し、老若男女問わず、全ての人が笑顔になれると確信した。
2004年から3年間、USJ内のフェイスペイントブースで、マネージャーとして勤務した。実力主義の職場で頑張れば報われると信じて、がむしゃらに走り続けた。アメリカ人の上司のもとでコミュニケーション能力も磨いた。
その後、フリーになるが、当時はボディペイント自体の知名度が低く、周囲から「ペイントでは生活していけない」と反対された。
香川さんは「韓国人の血が騒いだのか、頑張って成功してやる」と、ハングリー精神で突き進んだ。アルバイトをしながら地域の交流広場に出かけては、呼びかけをしながらたくさんの知り合いを作った。紹介が紹介を呼び、少しずつペイントの注文も舞い込んでくるようになった。
事業が軌道に乗るまで2年間を要した。14年、30歳の時にスタジオをオープンした。「ビューティーよりもアートが好き」と香川さん。ボディアートは「年齢や性別に関係なく、本人や周りの人を幸せにできる魔法」だと思うからだ。
ペイントに使う絵具などの材料はアメリカから輸入している。スポンジと筆を使ってこれまでペイントした人数は、10万人を超える。一日に多いときで200人になるときも。一人につき顔半分で2、3分、、顔全部は5分で描き上げる。
マタニティーペイントも手がける。お腹にスポンジと筆をすべらせていくと、その感触が赤ちゃんにも伝わるのか「お腹が動くので、お腹に話しかけながらペイントしていく。こちらまで幸せな気分になる」と目を細めた。
作品が、アメリカのフェイス&ボディーアートの専門雑誌「illusion」に掲載されたことで、さらに仕事に対する意欲がわいている。
ペイントに対するこだわりは、女性のボディにはしなやかなラインを活かし、男性の場合は、骨格を意識しながら角度をつけてペイントしていくこと。その鮮やかな色使いや繊細なラインに、多くの人たちが魅了されている。
現在は、ペイントの他にネックレスやピアスなどアクセサリーの販売も行っている。将来は、洋服の販売にも手を広げるなど、幅広い事業を展開していくことだ。
今後の目標は、アクセサリー販売、フォトスタジオ、ペイントスタジオをビルの各フロアに配置し、トータルで客にアドバイスできるようにしていくこと。
スタジオの社名「Blessing」には「ペイントを通して、お客さまや周りの方たちの心に恵みを与えられますように、という願いをこめた」。「何事も成し遂げる」という強い意志は、香川さんの武器でもある。
(2021.01.01 民団新聞)