掲載日 : [20-08-13] 照会数 : 10739
横浜、藤沢も不採択…育鵬社版の歴史・公民教科書
大阪四条畷、河内長野も
2021年度から使用される中学校の教科書採択をめぐって、歴史認識や憲法観をめぐって意見の分かれる育鵬社版歴史・公民教科書を使ってきた東京都の中高一貫・特別支援に続き、藤沢、横浜の各市教育委員会でも他社版を選んだ。大阪では四条畷市と河内長野市が育鵬社版を継続採択しなかった。
同一の教科書を使用する地区としては全国最大の横浜市は4日、これまでの育鵬社版を採択せず、歴史が帝国書院版、公民は東京書籍版を選んだ。来年から市立中学など147校で使用する。学識経験者や校長、保護者ら20人でつくる「市教科書取扱審議会」の答申でも、歴史は帝国書院版、公民は東京書籍版の評価が高かった。
答申の説明を受けて5人の委員が意見交換。採択は教育長を含む6人の無記名投票で行われた。歴史は4人が帝国書院版、2人が育鵬社版を推した。公民は東京書籍版5人、育鵬社版が1人の結果だった。
この日の教育委員会定例会はインターネットで生中継された。横浜市は09年に18区中8区で「新しい歴史教科書をつくる会」系の自由社版の歴史を採択。11、15、19年には全市一致で育鵬社版の歴史と公民を選んでいた。
藤沢市教委も11、15年、中学校の歴史と公民で各中学校が提出した調査書で明らかに評価が低かった育鵬社版を選んできた。今回、採択にあたって市民団体は「教育と政治を切り離して、教員の声を尊重してほしい」と要望する3万8000筆の署名を届けた。
7月31日の7月臨時会。開会にあたって教育長自ら「先生方の貴重な意見を尊重して採択したい」と異例の表明を行った。これは育鵬社版の採択を事実上否定したに等しい。なぜなら現場の教員の意見を集約した教科用図書調査票を見ても育鵬社版の歴史と公民に対する支持は数%にしかすぎなかったからだ。
採択にあたっても育鵬社版に言及した委員は皆無だった。歴史、公民とも現場の教員から支持の高かった東京書籍版が選ばれた。閉会後の市民集会では「9年かかって学習権を侵害する教科書から子どもたちを解放することができた」といった安堵の声が聞かれた。
「子どもと教科書全国ネット21」の鈴木敏夫代表委員・事務局長は育鵬社版教科書の採択減について「政治的意向との決別であり、これは5年間の取り組みのトータルな成果」と次のように指摘した。
「現場の意見、それが直接でなくても調査研究資料や選定審議会の意見を無視できなくなった。それは教育委員会会議の公開、展示会の意見、市民の請願などを通じて現場の意見尊重、子どもにとってどの教科書がふさわしいのかの観点で採択するよう求めてきた運動の勝利である」
鈴木代表委員によれば東京都の中高一貫・特別支援、藤沢市、四条畷市、そして横浜市の歴史教科書の採択減は、大まかにいってこれまでの冊数の45%減で、過半数割れに近づいているという。