掲載日 : [23-11-09] 照会数 : 2429
「北送」賠償請求訴訟 控訴審判決 「移送」の違法行為認め差し戻し
[ 判決文原本を手に弁護団と喜びを分かちあう控訴人の川崎栄子さん ]
東京高裁「勧誘」「留置」と一連一体
「北送」で被った人権侵害に対し、脱北者一人当たり1億円の損害賠償を北韓に求めている民事訴訟「北朝鮮帰国事業損害賠償請求訴訟」の控訴審判決が10月30日、東京高裁で言い渡された。谷口園恵裁判長は「事実とは異なる情報を流布して日本から渡航させ、渡航後は出国の自由を許さず、長期間生活することを余儀なくさせた」とする原告の訴えをほぼ認め、請求の一部却下・一部棄却の判断を下した東京地裁に審理を差し戻した。
「日本裁判所に管轄権」
一審は北韓に渡航させた「勧誘」とその後も引き続き北韓内に留め置いた「留置」という2つの不法行為に分類。勧誘行為については「除斥期間が満了している」として訴えの権利そのものを認めなかった。「留置行為」については北韓国内で行われたものとしてそもそも「日本の裁判所に管轄権はない」との判断だった。
これは原告らが自らの意思で勝手に北韓に渡ったとみなしたに等しい。この結果、川崎栄子さんのように原告の母親が北韓内にいる子どもと再会交流することができずにいる「出国妨害行為」についても訴えの権利を認めなかった。
一方、原告側は「留置行為」はすでに新潟港で北送船に乗り込ませた時点から始まっていると主張。北韓内部で行われたとの判断は「誤認」と指摘した。そのうえで、北韓が原告らを「地上の楽園」とだまして渡航させた「移送」を不法行為から除外した一審の判断を批判しながら「勧誘」、「留置」と一連一体のものと主張していた。
これに対して、谷口裁判長は3つの控訴理由書をもとに「継続的不法行為の客観的事実関係の証明がある」として原告側の訴えをほぼ認めた。さらに、地裁判断を覆し、「本件訴えの全体につき、結果発生地である日本の裁判所に管轄権がある」との新たな判断を示した。
「実質勝訴」喜び 驚き
谷口裁判長は原判決を破棄し、東京地裁に差し戻すと主文を読み上げた。退廷すると、法廷内に拍手が広がった。原告で控訴人の川崎栄子さんと福田健治主任弁護士が抱き合い、涙を流しながら喜びに浸っていた。弁護団からも「ヤーター」の雄たけびが聞こえた。
原告4人と弁護団は同日夕、支援者の待ち構える東京・千代田区の日本プレスセンタービル9階での報告集会に臨んだ。
福田弁護士は「人生そのものが奪われたという原告の主張を真正面から受け止めてくれた。地裁は高裁の判断に縛られる。一つの不法行為で様々な損害が生じたとして北朝鮮への損害賠償を計算するのは確実だ」と「実質、勝訴」を喜んだ。
原告の川崎さんは「命をかけて北を飛び出したかいがあった。幸い日本に帰ってきたことで、この日の結果を見ることができた。いままで生きていてよかった。生きていたからこそ今日の判決を勝ち取ることができた」と安堵の表情を見せた。
同じく原告の一人、石川学さんは「ここまで訴えが受け止められるとは驚きだ。生き地獄たる北朝鮮を脱出したことが正解だと実感できた」と喜びをかみしめていた。