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<寄稿>女性の手仕事による伝統工芸…ポジャギ工房koe主宰・李京玉
李京玉 イ キョンオク ポジャギ作家。ポジャギ工房koe主宰。2001年に来日。日韓の文化交流に役立ちたいと考え、ポジャギを各地の教室にて教える。韓国伝統の配色をベースにした、優しい色合いが特徴。その色彩と伝統にこだわらない感性で共感を得ている。著書は『韓国の手仕事を身近に 暮らしのポジャギ』(NHK出版)、『私のポジャギ』(風讃社)。ホームページhttp://www.korea-e.jp








■□
ポジャギ
ハギレ丁寧に縫いつなぐ…ものの大切さ教えられる


 古くから女性の手によって伝わる手仕事に「チョガッポ」というのがあります。日本では「ポジャギ」という言葉の方がより知られているかもしれません。ポジャギとは、物を包んだり、覆ったりする布のことで、日本で言う風呂敷や袱紗のようなもののことを指します。

 服を仕立てて残ったハギレや着古した衣類のきれいな部分を無駄にしまいと、小さな一切れまでも丁寧に縫いつないでつくる暮らしの布。それが「チョガッポ」なのです。ちなみに「チョガッ」というのは「小さな切れ・欠片」の意味です。

最後まで使い切る

 我が家のリビングにはアンティークのポジャギが一枚飾ってあります。四隅に結び紐がついていることから風呂敷として使われたことがわかります。

 「モシ」という麻布で作られたそれは、長い年月使用されてきたようで、ところどころすり切れて穴が開きそうなところもあれば、すでに破れてしまったところに布を当てて見繕いした部分も数か所あります。

 モシプルという植物の内皮の繊維を手で割き、歯でもっと細く割いて紡いだ糸を用いて手織りされた布。たくさんの手の頑張り・忍耐力の賜物である布を大事に最後まで使い切るという気持ちがひしひしと伝わります。

 ものに不足しなくなった今、ポジャギ作家として、ポジャギを紹介する上、作り方を教える上、忘れてしまいがちな「ものの大切さ」を教えられているようで、あえて古いポジャギをかけるようにしているのです。

 風呂敷としてお膳かけとして覆い布として、暮らしの中のいろいろな場面で日常に使われたポジャギですが、近代化とともに長い間忘れ去られていました。

 そのポジャギが再注目され始めたのは30年ほど前のことです。経済成長に伴い、気持ちの豊かさを取り戻しつつあった時代、人々は「古臭く」「貧乏くさく」見えたそれに「なつかしさ」や、今まで見えてこなかった「素朴な美しさ」を感じたのでしょう。

 ポジャギをつくる技法には数種類の縫い方がありますが、その中に「サムソル」という技法があります。細く折った縫い代同士を抱き合わせて作る技法で、裏地が要らない一重のポジャギを作ることができます。一重のポジャギは光を通し・風にそよぐ軽やかさがあります。そしてその中に大小様々なハギレを組み合わせることで生まれる幾何学的な模様が広がるのです。このような造形からポジャギはよく「布のステンドグラス」ともいわれます。

身近かな存在へと

 その造形の美しさ・古さを感じさせないモダンさで再注目されて30年あまり、現在はファッションやインテリアなど様々なジャンルにアレンジされ、身近な存在となりつつあります。

 例えば、民族衣装の「韓服」の模様に。刺繍や金銀の箔で彩られることが多かったチョゴリの袖やチマの裾にポジャギの模様をあしらったものがよく見受けられるようになりました。

 そしてインテリアにも。ソウルの仁寺洞にあるモダンテイストのカフェでは、ポジャギを思わせるガラスのパーティションが置かれています。柔らかく透き通り、場の空気がふわっと和むような気がしませんか。

 最後はポジャギをアレンジした照明です。ポジャギの幾何学模様に枠を組み合わせ、数種類の薄絹を貼り合わせて作っています。無地の布のシンプルさと大小いろいろな形が織りなす造形が合わさり、さりげなく空間を彩ってくれます。

 夏真っ盛りの今、我が家にはポジャギののれんと風鈴で夏のリビングを飾っています。のれんは前述した「モシ」という麻布を使っています。生成りのモシをベースに5色の布で小さな窓をくり抜き、つまみ縫いやこうもり飾りで気ままに模様をあしらってみました。のれんは和のテイストにも合わせやすいアイテムだと思います。

 そして夏といえば「風鈴」。短冊の部分をポジャギでアレンジ、藍染した薄絹を3〜4枚縫い合わせてみました。清涼感あふれる風鈴に早変わりです。

 小さい作品なので、ポジャギを作ってみたいと思う方には、手始めにお勧めのアイテムかもしれません。まずは身近にある布を使い、チャレンジしてみてください。

 一針一針丁寧に作ったポジャギは単なる布の再利用ということにとどまらず、縁起物としても親しまれてきました。その背景には心を込めて作ったポジャギでものを包むのは、同時に福を包み込み、福を呼ぶとされた民間信仰があったからです。

 また、小さなハギレを無数につないでいく行為は、長寿を願うという意味にもつながっていたといい、古くは大切なお嫁入り道具でもありました。お嫁に行く娘の幸せを願い、一針一針ポジャギを縫い合わせるオモニの姿もそこにはあったことでしょう。
 
照明(工藤和子作)
 
風鈴(李京玉作)
 
アンティークのポジャギ(李京玉所蔵)
 
インテリアとしてのポジャギ(仁寺洞 カフェ コチピヌン)
 
のれん(李京玉作)

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韓国刺繍
民族衣装の華やかさ演出…日常小物やインテリアにも


 ポジャギとともに古くから伝わる女性の手仕事に「韓国刺繍」があります。韓国の時代劇のファンの方でしたら、お嬢さんがお淑やかに刺繍台の前で刺繍をする場面をご覧になったことがあるかと思います。韓国刺繍は民族衣装の中に華やかさを演出するのに欠かせない技法でありますし、そして日常の小物やインテリアにも多用されてきました。

来客時に屏風飾る

 韓国刺繍の屏風などは現在においてもとても身近なアイテムの一つ。韓国の実家では来客があるときによくリビングに飾っていました。

 今の屏風の多くは表は韓国刺繍・裏は書という組み合わせで、慶事には刺繍の面を表に、法事などでは書の面を表にして飾るようになっています。

 我が家では1年ほど前自らの刺繍で仕立てた屏風があります。原画は朝鮮時代を生きた女性「申師任堂(シン・サイムダン)」の屏風絵「草虫図」です。「申師任堂」は韓国では良妻賢母の鑑として、今でも称えられている女性。夫を支え、子どもたちを立派に育てながら、彼女自身詩や絵画を嗜む高い教養の持ち主だったと伝えられます。近年その一生がドラマにもなって話題でした。

 実家の習わしにならって、私も来客があるときはなるべくリビングに飾るようにしています。

 普段はいたって普通の洋風のリビングが、屏風を広げる瞬間、韓国のオンドル部屋のような雰囲気に様変わりします。お客様も喜んでくださいます。

 刺繍の伝統的な紋様には様々なものがあり、その一つひとつには縁起物としての意味が込められています。長生不死を象徴する「十長生」(太陽・山・水・岩・松・月・不老草・亀・鶴・鹿)は長壽、「蝶」は富貴栄華、「牡丹」は美しさ、「蓮の花」は清らかさを意味します。

招福など気持込め

 写真の作品は古い婚礼用の袱紗を復元して制作したものです。モチーフは花葉紋(樹花紋)といわれる、一本の樹からたくさんの枝が伸び、その枝には花や木の葉、鳥や蝶々などが抽象化された形で無数に配置されたもの。繁栄・繁盛を意味し、婚礼用の袱紗によくみられる紋様の一つです。

 この作品のお花の周りには出世を意味する鳥と多産・まよけの意味がある蝙蝠があしらってあります。精一杯の招福の気持ちを込めて作られた一枚だったに違いありません。

時代超え愛される

 以上、韓国伝統の女性の手仕事から「ポジャギ」「韓国刺繍」をご紹介いたしました。いかがでしたか。どれも今の暮らしにも綿々と伝わり、時代を超えて愛されています。

 デザインとしての魅力もそこにはあると思いますが、その魅力以上に私はそこに込められた作り手の気持ちを感じてやみません。誰かの幸せを祈る、温かな心…。素朴な家族団欒の風景が見えてくる気がします。
 
韓国刺繍の屏風(李京玉作)
 
韓国刺繍の袱紗(李京玉作)

(2017.8.15 民団新聞)
 
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