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<寄稿>「人権保障の空白地帯埋める」 金昌浩弁護士 |
入居・就職差別含み 民事訴訟の根拠にも
地方自治体の男女共同参画条例の中で性別に基づく差別禁止を定めるものは数多く、性自認並びに性的指向に基づく差別(いわゆる「LGBT」に対する差別)を禁止する条例についても近年整備が進んでいる。
一方、外国人・民族的マイノリティーの問題に関する条例としては多文化共生推進条例という形で静岡県・宮城県等で整備されてきたが、従来の多文化共生推進条例には、国籍・民族に基づく差別の禁止には言及がなかった。今般成立した世田谷区の条例は、性別等(生物学的な性別及び性自認並びに性的指向をいう)と並んで「国籍、民族等の異なる人々の文化的違い」に基づく差別を禁止しており、このような国籍・民族に基づく差別の解消を明記した条例は全国初だと思われる。
本条例は、特にLGBT差別及び人種差別を禁止する規定を持つという点に意義がある。日本には、女性や障害者に対する差別を禁止する法律については不十分ながら存在するが、LGBT差別や人種差別を一般的に禁止する法律は存在せず、このような法律の不備については、国連等の国際社会からも度重なる批判を受けてきた。本条例は、このような法律の不在による人権保障の空白地帯を埋めるものだ。本条例の具体的意義としては以下が挙げられる。
第1に、差別解消規定は、入居・就職時の様々な差別に直面した被害者が、民事訴訟等を通じて救済求める際の根拠規定になりうる。第2に、住民が、条例の苦情申立制度を利用することを通じて、世田谷区の男女共同参画・多文化共生施策についてモニタリングを行うことができる。
第3に、世田谷区が条例に基づき、行動計画を策定・実施するとされており、LGBT差別及び国籍・民族差別に対する行政の取り組みが促される。また、条例は、住民が男女共同参画・多文化共生施策にとって重要と考える施策について、区に実施を求めていくための手がかりにもなる。
例えば、ヘイトスピーチに関しては、「何人も、公衆に表示する情報について、性別等の違い又は国籍、民族等の異なる人々の文化的違いによる不当な差別を助長することのないよう留意しなければならない」との訓示的規定があるに過ぎないが、これを根拠に、今後ヘイトスピーチについて世田谷区としてどのような対応が可能なのか住民と区との間で対話を開始するといったことも考えられるだろう。
現在、川崎市をはじめとして、地方自治体における人種差別を撤廃する条例の制定に向けた市民の取り組みが続いているが、人種差別とLGBT差別に別個の条例で対処するのか、あるいは、世田谷区のように一つの条例にまとめるのかが、議論の焦点の一つとなっている。私は世田谷区で、LGBT差別解消と多文化共生(国籍・民族差別解消)をあわせて規定する条例が成立したことを肯定的に評価したい。
こうした一体型の条例を通じて、これまであまり交流がなかったLGBTコミュニティ(及びその支援者)と外国人コミュニティ(及びその支援者)が、相互に問題状況を理解し、差別の問題に共同で対処することにもつながりうるからだ。本条例を機に在日コリアン社会でも、LGBTの抱える問題に関心を持つ方が増えることを期待したい。
(2018.3.7 民団新聞) |
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