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<記者座談会>「成功の歴史」継承を第一に…在日有権者と第18代大統領選挙
子どもたちも投票には関心が高い(東京の韓国大使館)

 大統領選挙と国会議員選挙が同一年に実施される20年に一度の年だった昨年は、在外国民選挙制度の実施元年でもあった。昨年末の第18代大統領選挙には、日本地域から団員ら在外選挙権者2万5312人が感慨も様々に参加した。12月5日から10日までの在外選挙期間中、本紙は主要投票所で投票を済ませた人たちに聞き取り調査を行った。在外選挙権者たちは、憲政史上初の1票にどんな思いで、どの候補に何を託したのか。本紙記者が語り合った。

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自負と緊張と
祖国と距離縮めた…同胞社会の活性剤にも

 A 第18代大統領選挙における日本地域の在外選挙権者は最終確定値で、不在者申告(一時滞在者)が1万7203人、選挙人登録(永住権者)が2万139人の計3万7342人。実際に投票したのは2万5312人、投票率は67・8%だった。4月の国会議員選挙時の投票者9793人、投票率52・6%に比べて大幅に伸びた。

 B 投票者は2・5倍増えたことになる。それにしても、投票率が世界平均の71・2%を下回ったのは残念だ。投票期間中を襲った寒波や大雪の影響も無視できない。バスで投票所に向かったのに、積雪で交通が遮断され、引き返さざるを得なかった地域もあった。

最高齢者の100歳も

 C 韓国のメディアは、史上初となる在外選挙の投票動向に大きな関心を払ってきた。世界各地の公館のなかで投票者が最も多かったのが9632人の駐日大使館(東京)で、最高齢者は名古屋総領事館で投票した100歳の姜次大さんだったと報じた。「在日」ここにあり、は見せられたのではないか。

 D 日本地域は一時滞在者より、本国の政治と疎遠な永住権者の比率が高く、しかも、相対的に高齢者が多い。世界平均に届かなかったが、健闘したと評価していいだろう。日本は昨年末の総選挙で、年配者が多く投票所までの距離が遠い地域では、選挙管理委員会がバスをチャーターして有権者を送り迎えしていた。今回の在外選挙でもそんな手段が講じられていたら、と感じた同胞は多いはずだ。

 A 1世の高齢者が「何か偉大なことをした気分だ」とはにかんでいたが、投票した人たちにはそれぞれに感懐があったと思う。

 B 永住権者の場合、ほとんどが初の1票だった。しかも、最後まで接戦が続く予想だっただけに、皆がみな重圧を感じていたようだ。足が震え、手が震えて、動悸まで速くなって。世代にかかわりなく、あの小さな枠にきちんとハンを押せるか不安だったと語った人がかなりいた。

 C 若い世代でも、「韓国との距離が縮まった」「国民であることを実感した」「本国に新たな視点が生まれた」「1票を投じたからには韓国の政治に関心を持つ」などの声が多かったのは嬉しい。親と子の絆も深まったようで、「この間、アボジと共通の話題ができてよかったですよ」とさわやかな表情の女性(2世)もいた。

刺激された国への思い

 D 3世の大学生だったが、「在日韓国人として生きる張り合いを感じた。日本人にも韓国人にも見えない部分が自分たちには見えると思う」と言って、「在日こそ韓日をつないでいける。在日でよかったと思えるようになった」と話していた。人生初の1票をすごく前向きにとらえている。

 B オペラ歌手として活躍する2世は、「生まれて初めての大統領選挙だ。亡くなった両親はこの喜びを味わえなかった。インターネットで情報を入手し多角的に分析し、両親だったらたぶんこの候補に投票したはず、と考えて決めた。私の1票は両親から託された1票でもある」と強調していた。国を愛していた今は亡き親の思い、それを意識した投票者も少なくなかった。在日の長い歴史を感じたね。

 C 韓国で何回か投票した新規定住者でも、「国にいたときは当たり前の感覚しかなかった。海外でも投票できることに、胸がいっぱいだ」と感激していた。一時滞在者からも、「韓国と違い、投票所が遠い。ここに来る間に、韓国人であることを強く意識した」(21・留学生)とか、「外国での投票は愛国心をかきたてられる。投票の瞬間、今までになく緊張した」(27・駐在員)といった声があった。

 D 「旅券が見つからず眠れなかった。他の証明書でもよかったなんて」(50・女性)と憤慨する選挙人がいれば、「登録していないから投票できなかった。遠くからせっかく来たのに。大統領に対する期待もたくさんあるのに。何でそんな難しいことしなけりゃ投票できないんだ。次は5年後か?」と悔しがる70歳の2世もいた。

 B 案内には努力したつもりでも、周知徹底とはいかなかったようだ。経験が重ならないとなかなか難しいのかな。投票の締め切り時間に間に合わず、文字通りシャットアウトの目にあったケースも各投票所から報告されている。

 A 1票を行使したのは在日の一部に過ぎないとしても、その一部に本国との関係や自身の生き方に前向きな転機をもたらしたのは間違いない。これが広がることで、民団や在日同胞社会の活力につながりそうだ。

■□
1票に何を
強い指導力求める…安保・外交に最大の関心

 A 韓国憲政史上初めての在外国民選挙に参加したのは、全世界で15万8235人だった。投票先はセヌリ党の朴槿惠候補に6万7319票(42・8%)、民主統合党の文在寅候補に8万9192票(56・7%)と発表されている。国内とはかなりねじれた。

 B まあ、予想通りと言っていいだろう。5万6456人が投票した4月の国会議員の比例代表選挙で、セヌリ党は2万2646票で民主統合党の1万9757票を2800票以上上回ったが、統合進歩党(8132票)、進歩新党(1302票)を含めると野党圏が6500票余も多かった。

投票の性向日本は異質

 A 国・地域単位の投票率は公式発表されても、投票先については発表されない。在外選挙人(永住権者)と国外不在者(一時滞在者)の投票率や投票先も仕分けて公表されない。票動向を国・地域ごと、あるいは在外選挙人と国外不在者に分けて分析することはできないわけだが……。

 C 類推は可能だ。先の国会議員選挙では、国外不在者だけが投票できた地域区投票で、傾向はより明確に現れていたからね。セヌリ党が1万4996票だったのに比べ、民主統合党が2万2159票、統合進歩党が2342票など、野党圏が2万4502票で62%だった。国外不在者の野党的傾向は顕著だ。

 D 今回の大統領選挙では、在外選挙人が4万3千余人だったのに対し、国外不在者が17万6千余人と圧倒的に多かったこと、その国外不在者には国内と同じく野党的な性向が強い若い世代が多いこと、これが如実に示されたと言える。

 B 投票所で聞いたところ、日本地域でも国外不在者の投票先は文候補に傾いていた。これとは反対に、選挙人はこれも明らかに、朴候補に集中した。日本地域は永住権者の選挙人が国外不在者より多いだけに、他の国・地域とは異質の票動向になっているはずだ。

 A 永住権者の場合、1票にどんな期待を込めていたのか。

 C 何と言っても一番多かったのは、韓日関係の改善と安保・外交の強化だ。韓国と日本、中国と日本がぎくしゃくしているのに加え、北韓による事実上の長距離弾道ミサイルの発射実験強行などによって、東北アジアの緊張が高まっていることも背景にある。

 D 従軍慰安婦や独島問題で、瞬く間に不安定化した韓日関係を見て、憂慮する人は実に多かった。盧武鉉政府時代、日本は小泉首相だったが、関係が険悪だったのは記憶にまだ新しい。文候補がその時代、盧大統領の最側近だったことも知られている。

 B 堅固な安保体制を土台に、対日・対中外交と対北韓政策について、毅然さと柔軟さを合わせ持つ強いリーダーシップを求める意見が相次いだ。国内の世論調査によれば、「指導力」の面で朴候補が厚い支持を得ていたが、それと同じ傾向があったということになる。

 C 「憲法精神」や「成功の歴史」を否定することは許せないと口にする年配者がけっこう目立った。北韓に対する苛立ち以上に、いわゆる従北左派勢力に対する憤りが強かった。この点も、国内の50代と60代以上の意識と共通するね。

苦労の歴史否定に怒り

 D 69歳の1世は、「私たちの親世代が頑張って、貧しかった国がやっと食えるようになり、在日も祖国にプライドを持てるようになったのに、それを全否定し、韓国を根底から覆そうとする勢力が気にくわない」と激白していた。

 B さすがに、若い世代にはそこまでの意識は感じ取れなかった。だが、そうした心情の親世代に共鳴して投票先を決めたケースが少なくない。

 C 中高年以上の在日同胞には、国力増強を牽引した朴正熙大統領に対する憧憬の念が強い。そんな同胞たちには、両親とも凶弾によって失うなどの凄まじい歴史を生き抜き、有力な政治指導者に成長した朴槿惠氏に深い愛着がある。

 D 在日社会では、反国家団体の従北左派勢力が若干のうごめきを見せた。SNS(ソーシャル。ネットワーク・サービス)を使っての選挙運動も活発だった。だが、それらの影響は微々たるものだ。少なくとも民団社会にあって、どの候補を支持すべきかで摩擦が生まれることはなかった。当初、選挙戦の煽りが心配されていただけに、実に幸いだったと思う。

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多難な船出
民団の役割大きい…韓日改善、地方活性化で

内憂外患の重荷背負う

 A それにしても、最後までもつれた選挙だった。戦いの過程と結果があらわにした問題点も深刻だ。本紙でも一貫して論評してきたように、韓国は今、東北アジアの緊張、軍事挑発を続ける一方でいつ急変事態があってもおかしくない北韓の存在、加えて社会分裂を加速させかねない国民生活の危機といった内憂外患に直面している。国内でも、誰が大統領になろうと史上まれに見る重荷を背負うことは間違いなく、「第18代大統領は最も不幸な大統領になる」とも懸念されてきた。

 B 朴候補が過半数を得て当選したと言っても、108万票の差に過ぎない。保守と革新の全面対決の様相の、その内実は、やや弛んだとはいえ嶺南と湖南の地域対立が依然として残り、加えて「2030」と「5060」の世代対立がかつてなく先鋭化した。国民が水平的には理念で、垂直的には世代で、真っ二つになったと評されるほどだ。朴当選人は一貫して「真の国民大統合」を訴えてきたが、前途は多難と言うほかない。

 C 朴当選人が公約した財閥偏重を改める経済民主化と経済成長は、二兎を追う困難さがつきまとう。福祉公約を実現するには131兆ウォン(約10兆円)の莫大な財源を必要とする。肝心な成長率は、過去5年に続いて今後5年も3%水準で推移するとの予測だ。

 D 人口構造も朴当選人の任期中の16年を頂点に、15歳から64歳までの生産年齢人口が減少に転じる。低成長が続けば税収増は望めず、福祉拡大の財源確保は今以上にままならなくなる。

 B 所得不均衡の度合いを示すジニ係数(格差は0に近いほど小さく、1に近いほど大きい)は、09年の0・320から11年には0・313にまで改善した。だが、国民はこの数字とは裏腹に経済的苦痛を味わい、相対的な剥奪感を抱いている。「経済成長の恩恵は大企業が独占した」との思いが強い。

 C 20代30代の若い世代と敗北感をぬぐえない文候補支持層をどう抱えていくか、朴当選人の試練は大統領職継承委員会の人事から始まると指摘されている。何よりも出だしが大事ということだ。勝者は勝ったことを忘れ、気を引き締めねばならないだろう。

国民幸福の実現に寄与

 D 朴当選人は、政治の階段を一足飛びに駆け上がってきたわけではない。大変な苦労人だ。大統領職の重みと怖さを熟知してもいる。青瓦台に入っても謙虚さを決して失わず、問題意識を国民と共有しながら、国政に集中するものと信じる。

 A 憲政史上初の1票を投じた在外国民としても、結果を厳粛に受け入れ、国の発展を後押ししなければならない。民団を中心とする在日同胞社会は、60年代後半から70年代、80年代に見せたような大規模な貢献は難しくなった。しかし、朴当選人が掲げた「真の国民大統合」「国民幸福時代」の実現に寄与できる可能性は少なくない。

故郷訪問を盛り上げて

 まず、韓日関係において、在日が善隣友好をリードすることで国の負担を軽くすることができる。在日同胞の経済力は相対的に縮小したとは言っても、資本・技術の進出能力はまだあるはずだ。韓流の定着・発展をもサポートできる。韓国は昨年初めて訪韓観光客1000万人を達成したが、日本人客は減少した。韓日親善事業で日本人観光客を増やすだけでなく、在日同胞自らが本国訪問を増やすことも必要だ。

 選挙戦の争点に、首都圏と地方の均衡発展の問題があった。地方は人口流出が続き、経済の疲弊が目立つ。その地方とはつまり、私たちの故郷でもある。

 1世や高齢化した2世の思いを引き継いで、故郷の発展に一助となる故郷訪問を運動化する考えがあってもいい。朴当選人は近く、国政運営の現実的な基本方向を示すはずだ。それを受け、在日同胞も自らの特性を発揮して新たな国づくりに参与できたらと思う。

(2013.1.1 民団新聞)
 

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