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「ネトウヨ」「在特会」 問われる日本の心…本紙記者座談会
「死刑武隊」などと書いた旗を手に東京・新大久保のコリアンタウンを練り歩く「在特会」=17日

「在日殺せ!」公然・組織化は関東大震災以来?

 「保守」と呼べないのはもちろん「国家主義」「愛国主義」「民族主義」にも、あるいは漠とした「右翼」にも括れない、言わば右翼の亜種とも言うべきネット右翼、それもネトウヨと蔑むにふさわしい集団がネットから街頭へ進出し、悪乗りしている。韓国料理や韓流関連の商店がひしめく東京・新大久保を練り歩き、「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」「大虐殺するぞ」などと叫び、少数弱者をターゲットに憎悪をぶつける姿は醜悪だ。今年は関東大震災の朝鮮人・中国人虐殺から90年になる。公然と組織的に「大虐殺」を口にする集団の出現は、その関東大震災以来のことではないのか。悪乗りが続くことになれば、日本社会の心の奥底が改めて問われることになろう。本紙記者が語り合った。(文中敬称略)

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造り出した狹┃
憂さ晴らし・悪ノリの次元超え…弱者標的に憎悪募らす

 A 韓国を口汚く罵る<街宣右翼>はそれでも、自分たちなりの論理を組み立て、非難の声にはそれなりの反論をする。だが、「在日特権を許さない市民の会」(以下、<在特会>)は、非難・糾弾されても、それを意に介さず、むしろ社会を騒がせた、注目されたと言って喜ぶ。本紙が<在特会>の名前を出すだけでもほくそ笑むだろうが、ここは一つ、日本社会のためにも状況を整理しておく必要があると思う。

 B ユダヤ人を根絶やしにしようとしたヒトラーが「われわれはユダヤ人を発明すべきである。単に抽象的なものでない、手に触れて確かめることのできる敵を持つことが大切なのだ」と絶叫したことはよく知られている。「敵」を見つけねばならない、見つからなければつくり出すまで、という理屈だ。<在特会>もそれと同じといっていい。

閉塞的社会の不満のはけ口

 C ドイツにナチス、イタリアにファシストが台頭するうえで大きな役割を果たしたのは、中産階級から没落した新たな貧困者たちだった。ネトウヨについても所得格差や不遇な若年層の拡大、閉塞感の横溢といった社会背景との絡みで語られてきた。欲求不満が最も高じるのは、比較的最近になって困窮感を抱くようになった人たちだという定説は、現在でも揺るがないようだ。

 D 社会学者で首都大学東京教授の宮台真司は、「グローバル化による経済的失望を背景に、自分は社会的に恵まれないとの意識を持つ、知的ネットワークから排除された層が台頭しがちになる。外交的対立をネタにした感情的な『煽り』につられやすい層」だと指摘している(朝日新聞12年8月28日付)。

 B 嫌韓派のリーダーと名指しされてきた漫画家の小林よしのりでさえ朝日新聞(12年12月27日付「耕論」)でこう述べた。「何を今さら」だが、右派も危険視している証だろう。

 「グローバリズムや小泉構造改革の影響で、安定した仕事につけず人間関係でも孤立した人々が激増した。そんな人々の一部が『誰からも必要とされない無価値な自分』にはかせるゲタとして愛国心を使い、他人を叩いて憂さを晴らしている。『国を愛し、行動する自分は、そうでない人々より価値がある』というわけだ」

 小林は日本社会を右傾化させた主導者の一人でありながら、「今はそれが限度を超えたバブルとなり、ネット右翼と呼ばれる人々が出現している」と語り、タカ派自民党の対立軸として、リベラルな政党をつくりたい、とまで語った。

関東大震災の虐殺から90年

 C 「憎悪は空虚な人生に意味と目的を与えることができる」−−これはドイツ系米国人で「沖仲士の哲学者」として知られたエリック・フォッファー(1902〜67)の言葉だ。時代は違っても、ネット右翼の特性を知るうえで彼の主著『大衆運動』(紀伊國屋書店・高根正昭訳)が示唆するところは多い。要点を紹介しておこう。

 「自分が優秀であると主張する理由が薄弱になればなるほど、人はますます、彼の属する国家、宗教、人種、あるいは真正な大義が、優秀きわまりないと主張する傾向がある」

 「同じ憎しみをもつ人びとと一体になるように、われわれを駆り立てるのは、主として非理性的な憎悪であり、接合の動因のなかでもこの種の憎悪が最も効果的で有用なのである」

 「不満と憎悪との関係が、単純かつ直接的なものでないことは、解き放された憎悪が、虐待者に向けられるとは限らないという事実によっても理解できる。ある人間に虐待されたとき、われわれはしばしば、まったく関係のない人物あるいは集団に憎悪を転じるものである」

 D <在特会>はこれらの要件を満たしていることになる。在日韓国・朝鮮人が不当に「特権」を享受しているゆえに日本人が害を被っている、と主張し、彼らに疎外感を抱かせたわけでも、困窮させたわけでもなく、ましてや虐待などしたこともない在日を憎悪の対象にしつらえた。

 A 重用なのは、<在特会>のような集団は決して、突然変異の産物ではないことだ。つまり、「在日」に向けられる彼らの憎悪は、まったく新しく注入されたものではない。日本社会にしみ込むだけの素地があり、そこに種がまかれ、水や肥料が施されて育ってきた。

 今年は関東大震災から90年の節目に当たる。朝鮮人・中国人虐殺の全貌と真相を調査し、その責任を明らかにして謝罪すべきだ、との声が改めて高まるだろう。だが、日本社会には虐殺事実を矮小化する空気がより強くなっている。そのうえに、虐殺を公然と唱える集団まで現れた。

10年前の警告生かされずに

 B 今から10年前、関東大震災80周年を控えた03年8月に、日弁連(日本弁護士連合会)が朝鮮人・中国人虐殺は軍・警察・自警団による組織的な蛮行であったと断定し、「根源にあった民族差別はいまだ日本社会に根深く存在している」と警告する調査報告書を発表した。

 日弁連会長も談話で「自然災害の発生など緊急の事態において、在日外国人に対して、重大な人権侵害がおこることのないよう、国が自衛隊、警察、入国管理局など権力行使にあたる官署の公務員に対して人種、民族差別の防止にむけた人権教育の推進など具体的な措置を要望」し、自らも「市民が国籍や民族の異なる人々に対し、人権侵害を加えることのないよう、相互に共生する社会の実現にむけて具体的な努力を傾ける」決意を表明した。しかし、状況は悪くなっている。

 C 関東大震災は首都圏の中枢部で朝鮮人、中国人、日本人社会主義者らを組織的に虐殺する比類のない暗黒事件を産み落とした。だが、虐殺そのものを「第一の罪」とすれば、真相・責任を糾明しようとしない「第二の罪」にとどまらず、記憶や記録さえ足蹴にして新たな迫害をいとわない「第三の罪」が現在も進行中ということだ。

 D そのことで鮮明に思い出すことがある。00年4月に、都知事の石原慎太郎が陸上自衛隊第一師団でこう力説した。

 「不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している。もし大きな災害が起こった時には大きな騒擾事件すら想定される。こういうものに対処するためには、みなさんに出動願って、災害の救助だけではなしに、治安の維持も大きな目標として遂行していただきたい」

 石原は実際にその年9月、「防災訓練」の名のもとに都心に装甲車を走らせ、上空に軍用ヘリを旋回させ、東京湾には艦艇を浮かべさせた。

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排外主義の火種
育てたのは指導層…共生の実態を無視して

 A その「訓練」に憤激したことをよく覚えている。しかし、「クーデターの予行演習のつもりか」とまで皮肉られたこのパフォーマンスは、たいした批判も受けず石原人気をかげらせることもなかった。

 特定の理念で日本人を固めるべく外国人をスケープゴートにする−−これは明らかに、世界各地で新たな民族紛争を煽った「アイデンティティー・ポリティクス」の典型だ。同一性を求心力として利用するために、敵をつくり出す政治手法があまりに長く大手を振ってきた。

 B 阪神淡路大震災の直後に、国会議員が「神戸市長田区の火事は在日韓国人が火をつけたのではないかといううわさがある」(中村鋭一。95年2月の参院予算委員会。後に謝罪)と発言した。

 それ以前から、外国人による騒擾説や武装蜂起説が時の執権党有力者などからたびたび流布された。なかには、ニューカマー韓国人に対して、みな軍隊体験をしていて武器の扱いに手慣れているからより危険だ、などと語った首相候補者もいたほどだ。

2つの大震災守られた治安

 C 阪神淡路大震災のとき、韓国・朝鮮人、中国人、ベトナム人などの集住地区でも暴動・略奪はなく、あったのはむしろ、国籍や民族を意識することのない助け合いだった。兵庫県警の調べでも、震災当日の17日から25日までの9日間に、震災地区で起きた重犯罪は1件だけで、ほとんどが自転車・バイクの窃盗であって、家屋侵入犯は1日平均わずか3件だ。この数字は前年の1月比で6分の1だった。

 D 東日本大震災で災害救助法適用市町村に外国人登録していたのは約7万5300人で、そのうち激甚被災地には3万5000人がいた。だが、阪神淡路と同じく外国人の騒擾もなければ、日本人による外国人襲撃もなかった。

 ただ、やはりと言うべきか、「週刊新潮」(11年4月7日号)が「ボランティアが目撃した『未収用遺体』を狙う強盗集団『作業現場』」の項で、「目撃者」に「僕は車の中から彼らを見かけたのですが、日本人だったか外国人だったかも分からない」と言わせていた。不発に終わったが、一部日本人の外国人を悪者にし、標的にしたがる心性を問わず語りに浮かび上がらせた。

 A 異民族や外国人が大量に流入してからの日本で、騒擾を起こしたのはマジョリティーである日本人だけだ。その関東大震災時の加害側がいまだに、外国人騒擾説を吹聴し、排外主義の火種を育てているのだから情けない。

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結集軸は過激性
「亜種」は右派が整理を

 B 大陸・半島と海を隔てた日本は長い歴史のなかで、「強いアジア」と対等に付き合うか、緊張を強いられた経験がほとんどない。一定の距離をおいて孤高を保つことが可能だった。深く関与したのは「弱いアジア」であり、しかも植民地支配、侵略戦争という最悪の形をとった。

 そのアジアで、韓国は国力をつけて国際社会での発言権を強め、中国は世界が認める経済・軍事大国になった。加えて北韓の軍事的脅威がある。歴史認識や島嶼の領有をめぐって対立する「強いアジア」への戸惑いが右派を拡大させる一方で、それに飽きたらない亜種を生んだ。

 C エリック・フォッファーに「非理性的な憎悪」という言葉があったが、<在特会>のような存在はそうでなければ説明がつかない。まじめな言説やまともな理屈にうんざりし、はなから聞く耳をもっていない人たちだ。それでも繰り返し批判し、社会から孤立させねばならない。

 D 雑誌「SAPIO」が昨年8月、ネトウヨ批判の特集を組み、保守・右派系の論客が偏狭で独善的な排外主義は日本の伝統を傷つけ、日本を孤立させるなどと批判した。右派の亜種は右派が整理するのが道理というものだ。その動きが強まることを期待したい。

 B この14日には参議院議員会館講堂で、国会議員らによる<在特会>に対する抗議集会がもたれた。<在特会>が東京・新大久保で17日に行った<街宣>には、一般市民らが「日本の恥」「街宣やめろ」「ネットへ帰れ」などと糾弾の声を浴びせていた。

 C <在特会>に密着取材してその実態を『ネットと愛国』にまとめたジャーナリストの安田浩一は抗議集会で、「彼らは路上で大声を上げることで高揚感を感じている。言葉が過激であればあるほど一定の支持が集まることを知っている。いわば、回り続けるコマであり、回転をやめれば消滅してしまう」と語った。彼らはエスカレートするだろうが、それを許さない一般市民のスクラムも広がるだろう。

 D イデオロギーは不平に名分と威厳を与え、ばらばらな個々をまとめて標的を定める。<在特会>はそうして一定の力を得た。だが、しょせんは主張の意外なほどの過激性によって結集した攪乱勢力に過ぎない。保守・右派系からも指弾されるとんがった言動を展開するには、高度な連携手段と判断力によって日本社会の隙間を突き続けねばならない。いわば自転車操業を強いられる。

 保守・革新、右派・左派を超えて、日本の公序良俗意識がまともに働けば、<在特会>は最も戦闘的な分子だけを残して、比較的浅くコミットメントしている参加者は、私生活へと退却していくことになろう。

 A さきほども言ったように、今年は関東大震災から、そして虐殺から90年の節目だ。<在特会>の「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」などと叫ぶ街宣は、虐殺の真相と責任を追及する勢いを強め、そして、それへの反発を高じさせるだろう。そうなれば、国際社会の耳目を引きつける可能性も高い。

 関東大震災90周年の9月1日から間のない7日に、東京が名乗りを上げている2020年夏季五輪の開催地が決まる。東京招致を発議した前都知事の石原慎太郎が<在特会>を生み出すような土壌を耕した張本人の一人であることは、皮肉と言える。

秩序を語る国孤立化の力に

 東日本大震災で見せた日本人の忍耐心、秩序立った動き、思いやりは世界を感動させた。これこそ日本人の真の姿のはずだ。一握りとはいえ、<在特会>のような存在を野放しにして、日本は国際社会に対して体面を保てるのだろうか。根絶やしにはできないとしてもいっそう孤立させることはできるはずだ。

(2013.3.27 民団新聞)
 

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