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集団脱出の食堂従業員を脅す「民主派弁護士」…脱北者保護システムを破壊するのか
ソウル市にある「民主社会のための弁護士の集まり(民弁)」事務所前で糾弾する自由統一脱北団体協議会などのメンバー(20日)
2009年に来日し、日本語を教わった拉致被害者・田口八重子さんの息子と対面し涙する金賢姫
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「人身救済審査」を悪用
法廷引き出し狙う…「拉致」主張の北と連携密に


 韓国で、いわゆる「進歩派」「人権派」と呼ばれる弁護士たちの一部は、こと北韓の人権問題に限っては関心を持たない、あるいは、問題の存在そのものを認めない、きわめて特異な体質をもっていることがよく知られている。それどころか、人権を踏みにじることもいとわないらしい。

 中国の浙江省寧波にある北韓レストランの従業員(女性店員12人、男性支配人1人)が集団で脱出し、4月7日に韓国入りした件でのことだ。《民主社会のための弁護士の集まり》(以下、《民弁》)が、脱出した従業員に対する「人身保護救済審査」を請求、これを裁判所が受理したことで従業員たちは法廷に立たされかねない事態になった。

 従業員たちは、自らの意志で韓国にやって来たのか。国家情報院による誘引・拉致ではないのか。これを「確認」したいというのが《民弁》の言い分だ。

 「救済審査」とは例えば、精神疾患でないにもかかわらず、他者の意志によって強制的に精神病院に入院・監禁された被害者を救い出すための制度である。これが、一定期間を保護施設で生活せざるを得ない脱北者にも適用されるとは、驚くほかない。

 従業員たちは現在、国情院が運営する北韓離脱住民保護センターで韓国社会に適応する訓練に励んでいる。女性は10代後半から20代前半と若く、中国での生活体験もあって呑み込みは早いという。警護を受けながら、ファミリーレストランや遊園施設にもたびたび足を運んでいる。

 彼女たちはレストラン勤務時代、監視員の目を盗んで中国で人気の高い韓流ドラマ『太陽の後裔』にはまり、その主人公俳優に会うのを熱望しているとのことだ。そのような一面をもちながらも将来設計には真剣で、韓国で大学に入るべく英語学習に力を入れているという。

 従業員たちは最長で180日間、保護センターにとどまることができる。その後は、すぐに社会に出るか、統一部傘下の定着教育支援機関であるハナ院で追加プログラムを履行するかを選択することになる。

 しかし《民弁》は、「保護センターに隔離したまま、弁護人を排除して捜査するのは、人権侵害だ。脱北の経緯などについて話す機会を与えねばならない」と主張して「不法監禁」であるかのように印象づけてきた。

 では、従業員たちの「救済審査」を請求した《民弁》は、どこの誰を代理しているのか。なんとそれが北韓の「家族」たちである。これもまた驚くほかない。経緯を大ざっぱに確認しておこう。

断食闘争で1人死亡説まで登場

 口火を切ったのは北韓の赤十字会中央委員会だ。代弁人が4月12日、「カイライ情報院の徒輩たちが組織した前代未聞の誘引・拉致」であると中傷し、即刻送還を要求した。次いで同28日には対南宣伝扇動機関である祖国平和統一委員会が「我が女性公民たちは断食闘争を展開しており、一部の乙女たちは失神状態に陥り生死の岐路に立たされている」とフレームアップした。

 これに、例によって例のごとく呼応したのが親北、従北性向の団体だ。そのなかには、「女性従業員の一人が北韓への送還を求め、断食をして死亡した」とのデマを流したメディアもあった。北韓の「生死の岐路」説を「死亡」説に飛躍させてはばかることもない。

 大韓航空機爆破事件(1987年)や天安艦爆沈事件(2010年)など、紛れもない北韓による暴挙をあたかも韓国当局による自作自演だと騒ぎたててきた彼ら得意の手法である。

 こうした陰謀説を背景に《民弁》は5月13日、従業員に対する弁護士接見を国情院に請求する一方、記者会見で▽従業員と家族の面談保障▽国情院介入疑惑の解明▽従業員の死亡疑惑の解明などを要求した。

北韓の「家族」を代理する?民弁

 《民弁》は国情院が接見を拒否すると同16日、再び記者会見を開き、「従業員家族たちの委任を受け、人身保護法による救済請求をする」と宣言、「家族たちは《民弁》あてに委任状を送ってほしい」と呼びかけた。シナリオは十分に練られていたのであろう。

 同17日には在米の韓国系言論人が平壌で「家族」たちに会い、「《民弁》が娘たちに会うことを委任するか」を問い、「家族」たちがこれに「同意する。委任する」と語る場面を動画にした。この言論人は訪北67回を数えると言われ、2014年には海外で北韓の宣伝に尽くしたとして金日成賞を授与されている。

 翌18日、中国・精華大の招聘教授である在米韓国人が平壌を訪れ、従業員の「家族」たちが作成した「委任状」を受け取ったという。教授はその際、「セウォル号事件で300人近い若い命を死に追いやり、父母たちの胸を切り裂いた青瓦台が今回、北の父母たちの胸を切り刻んだ」と語ったという。

 《民弁》は24日、この教授から送られてきた「委任状」を根拠としてソウル中央地裁に「救済審査」を請求。地裁はこれに対し、「請求者たちは従業員の家族なのか、《民弁》に訴訟を委任したのは本当なのか不確かだ」とし、「6月13日までに補訂しなければ請求を却下する」と伝えた。

 招聘教授は6月9日、《民弁》のEメールに従業員たちが写っている家族写真と公民証の写真、「委任契約書」と「弁護人選任申告書」を作成・捺印する写真などを追加送付してきた。必要書類を受理した地裁は翌10日、従業員に出廷を求める召喚状を国情院に送った。

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揺さぶられる司法
謀略説持ち込まれ…審理長期化で葛藤増幅も


 請求を処理するための最初の審理が今月21日、ソウル中央地裁で開かれた。

 脱北者が法廷に立って本心を明らかにすることになれば、北韓の家族らが厳しい処罰を受ける恐れがあり、脱北者自身の動揺も避けられない。裁判所は事前に、非公開審理とすることを通告していた。国情院は法定代理人を出廷させる方針を示していた。

 審理は冒頭から神経戦となった。《民弁》側は、「被収容者(従業員たち)が一人も出席していない以上、非公開にする必要がない」と異議を提起、これが却下されると「審問内容を録音し、速記録を作成してほしい」と求めた。

 これについても判事は「録音や速記録を残せば、当事者がこれを閲覧・複写でき、審問内容が公になる可能性がある」として受け入れなかった。従北人士との密接なやり取りを経て「代理人」となった《民弁》は、北韓当局と間接もしくは直接的につながっていると見るべきだ。北韓側に審理内容が筒抜けになるのは避けられない。

 判事は逆に、《民弁》側に「委任状の適法性について(その根拠を)追加で補完してほしい」と要求した。《民弁》が前日20日の記者会見で、「(招聘教授が)《民弁》代表にEメールで必要書類を送ってきたが、どのような経路で入手したのかは分からない」と述べていたからだ。

 この日は結局、《民弁》が裁判部忌避申請を提出すると言い放って終わった。これによって、従業員に対する「救済審理」裁判は中断され、忌避申請が妥当かどうかの裁判に移行する。《民弁》はソウル中央地裁が棄却しても高裁、最高裁へと控訴、上告する構えだ。

 法曹界では《民弁》の姿勢について、「救済審理」請求自体がこの制度の導入趣旨にそぐわないにもかかわらず、自らの期待通り動かない裁判部を忌避申請することで社会的・政治的争点として引き回し続け、社会的な葛藤を増幅させようとするもの、との見方が多い。

 《民弁》の幹部弁護士は20日の記者会見で、こんなことも言っていた。「(女性従業員)12人の意思が一つになって、集団で国内に入ってきたということは、脱北者問題について少しでも関心があれば、まったく納得することのできない事案だ」。

 「意思が一つ」になることなどあり得ないとするこの見解の前提には、従業員たちは厳しい統制下にあるだけでなく、相互監視も強いられているとの認識があるはずだ。語るに落ちるとはこのことだろう。言い換えれば、党・軍・政の高位人士による脱北が珍しくないにもかかわらず、今回の事案で北韓中枢が今さらのように大きな衝撃を受けていることを示す。

 中国や東南アジアなどに130店舗ほどある北韓レストランの女性従業員は、容姿はもとより出身成分、忠誠心に優れているうえに、徹底した思想点検と監視体制のもとで生活する。

合法的な出国と中国当局が明言

 今回の事案でなによりも注目すべきは、エリート層に属す従業員たちが相互監視を強いられているにもかかわらず、人生を決定づける意思統一に十数人規模で成功したことだ。そして、中国当局が事案の表面化直後、「調査の結果、北韓の従業員たちは正規のパスポートによって合法的な手続きを踏み、中国を出た」と明らかにしたことだ。

 中国はこの間、脱北者やそのほう助者に厳しい態度をとり、脱北者を北韓に強制送還することも、ほう助者を摘発・処罰・追放することもいとわなかった。北韓との関係が冷え込んでいる中国は、北韓に対して牽制と融和の両面で接している。もし少しでも、韓国当局による誘引・拉致の可能性があれば「黙認」などあり得ない。

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想起されるべき金賢姫(KAL機爆破事件)
「良心宣言」強いる?…「人民裁判」に等しい暴挙


 北韓は今回の事案を「集団拉致」だと中傷し韓国政府に謝罪と「被害者」の送還を要求するキャンペーンを展開している。それだけでは足りず、もっぱら敵視してきた国連の人権理事会議長や人権高等弁務官らに、「被害者」が家族のもとに帰ることのできるよう尽力することを求める書簡を送ってもいる。

合法的な脱出の続発恐れる北韓

 北韓が恐れているのは、外貨稼ぎのために海外各地に派遣されているレストラン従業員や大量の労働者に、「合法的な脱北」が波及することだ。

 そうでなくとも、制裁強化によってレストランは営業不振にあえぎ、当該国による労働者の帰国措置も相次いでいる。外貨稼ぎのノルマが引き上げられ、監視がいっそう強化されたことに反発が広がっており、サボタージュや逃亡の事例も確認されるようになった。

 今年に入って5月までに、韓国入りした脱北者は590人を超え、昨年同期比で16%増えている。金正恩体制になった2011年から続いた減少傾向が初めてプラスに転じた。北韓中枢が今回の事案に異様なまでに執着するのは、国内外で締め付けを強化してそうした流れを断ち切りたいからだ。

 また、中国に対しては「責任」を問い、圧力をかけたい思惑がある。北韓労働党の李洙〓副委員長が習近平国家主席と会談するため訪中した際、高位当局者に従業員13人は韓国当局によって誘引・拉致されたと主張し、合法的に居住する北韓住民の保護に格別な努力を求めたのがその表れだろう。

 韓国に対してのねらいは深遠だ。▽13人の韓国入国が4・13総選挙の直前だったことを咎めて政府・与党が選挙を有利にするための「企画拉致」だったとする言説を広め▽これをテコに総選挙で惨敗した与党セヌリ党と任期が終盤に入った朴槿恵政府を揺さぶって保守勢力を弱体化させ▽来年12月の第19代大統領選挙でかつてのような北韓に宥和的な政権を誕生させる。

 こう見ればなおさら、「救済審理」申請は大きな危険性をはらむ。韓国に入った脱北者は3万人近くを数える。新たに韓国入りする脱北者に限らず、すでに韓国に定着した元脱北者でも、北韓の家族から委任を受けたと主張する者が訴訟を起こせば、裁判所は自主的脱北だったのか、判断しなければならない。

 脱北者は、自らの意思で脱出したと真実を語って家族を窮地に追い込むのか、家族を守って誘引・拉致されたと嘘をつくのか、この破滅的な選択を強いられる。北韓独裁者の前に脱北者を立たせ、「人民裁判」を行うのに等しい。それは、脱北者の受け入れや保護するシステムを無力化させずにはおかない。

 ソウル五輪直前の大韓航空機爆破テロ事件と、その実行犯の一人である金賢姫の身辺におきた事態を想起すべきだ。

 当時、事件は韓国当局の自作自演であり、金賢姫はニセ者だとする北韓や朝鮮総連のデマはほとんど相手にされなかった。だが、従北・親北勢力が韓国各界に進出し、北韓に宥和的な半面で韓国の建国・発展史に否定的な政権が誕生してからはガラッと変わった。

ニセ者扱いされ身辺危機状態に

 政府機関やメディアによって韓国当局による謀略説が大まじめに取り上げられ、捜査結果や自供内容を無視されたまま、金賢姫はよってたかっての執拗な追及にあい、一時は身辺が危ぶまれる事態に陥った。彼女に「良心宣言」をさせ、爆破テロ事件を「金正日の指示」とした彼女の供述を自ら覆させようとしたのだ。

 彼女が耐えきったのは皮肉にも、厳しい工作員教育を受けたからであろう。なみの脱北者であれば持ちこたえられない。いま同じことをしようとしているのが、かりそめにも「民主社会のため」をうたう弁護士集団であることに、韓国の切除が容易ではない病巣を見ないわけにはいかない。

 国の根幹にかかわる問題でありながら、韓国社会の関心は高いとは言えない。しかし、従北勢力の専横をこのまま許すようであれば、韓国は脱北者を、さらにはこれから脱北しようとする同族を見捨て、祖国の平和統一を担保し主導する立場を捨て去ることになりかねない。

(2016.6.29 民団新聞)
 
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