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ヘイトスピーチに名誉毀損罪適用…京都地検、在特会元幹部を在宅起訴
犯罪抑止効果を期待 師岡康子弁護士
 【京都】拡声器を使って朝鮮学校の名誉を傷つける発言をしたとして京都地検は在日特権を許さない市民の会(在特会)の元京都支部長・西村斉(49、京都市右京区)を在宅起訴していたことが分かった。4月20日付。

 各紙の報道などによれば西村元幹部は昨年4月23日、京都市南区の元京都朝鮮第一初級学校跡近くの公園で「日本人を拉致するような学校はたたきき出さなければなりません」などと繰り返し発言し、その様子を動画投稿サイトなどで流した。学校法人京都朝鮮学園(京都市)が昨年6月に告訴し、府警が名誉毀損の疑いで書類送検した。これまでヘイトスピーチによる名誉毀損を認めて損害賠償を命じる判決が出たケースはあるが、刑事事件として名誉毀損罪が適用されるのは極めて珍しいとされる。

 西村被告らは2009年12月にも同学校前で「朝鮮学校を日本からたたき出せ」などと拡声器で叫び、授業を妨害したとして威力業務妨害などで起訴され、11年4月に京都地裁で執行猶予つきの有罪判決を受けた。同事件をめぐる民事訴訟では14年12月、在特会側に1200万円の賠償と街頭活動の差し止めを命じる判決が確定した。

警察通達後押し
 本来、深刻なヘイトスピーチは、国際人権法上、それ自体を犯罪とすべきことが要請されている。それがない日本では、現時点では現行の刑法の規定を活用する必要がある。しかし、これまで警察は相手が在日コリアンの場合、公権力の担い手自身に差別意識があることも多く、とりわけ朝鮮学校関係がターゲットの場合には被害者ではなく治安の対象として扱うなど、適用に消極的だった。

 実際、2009年12月から10年3月にかけての在日特権を許さない市民の会などが京都の朝鮮学校に対して3回のヘイトデモ・街宣を行った事件では、警察は現行犯逮捕もせず、その後の捜査も学校側の刑事告訴なしでは動かなかった。また、学校側は当時、名誉毀損罪で告訴したが、検察は侮辱罪に切り縮めて起訴した。

 ふたつの犯罪の要件の違いは、具体的な事実の摘示のみで、保護される利益は被害者の社会的な評価である。ただ、名誉毀損罪の場合には、公共の利害に関する事実について公益目的でなされ真実であることの証明があれば違法性が阻却されて罪に問われないので、刑事裁判になった場合、有罪を求める検察側は、被告人のこれらの主張に対し、被害者である朝鮮学校側の立場にたって反論しなければならなくなる。さらに、ふたつの犯罪の効果は大きく異なり、名誉毀損罪の場合は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」なのに対し、侮辱罪は「拘留(30日未満の拘置)又は科料(1万円未満)」という刑法上で最も軽い刑罰に止まる。侮辱罪はあまりに軽いので、実際上警察は侮辱罪のみではなかなか動かず、また、犯罪抑止効果も低い。

 よって、今回、侮辱罪ではなく名誉毀損罪として検察が起訴したことの意味は大きい。侮蔑的なヘイトスピーチがなされた場合の前例となり、今後名誉毀損罪での起訴がされやすくなるだろう。

 京都朝鮮学園及びその弁護団のたゆまぬ努力の結果であることはもちろん、ヘイトスピーチが社会問題化して16年6月3日にヘイトスピーチ解消法が施行され、同日警察庁が都道府県警察の長に対し、ヘイトスピーチについて「違法行為を認知した際には厳正に対処するなどにより、不当な差別的言動の解消に向けた取組に寄与されたい」との通達が出されたことも後押ししたと思われる。

 また、被告人は現在は在特会の後継団体である日本第一党の幹部としてヘイトスピーチを繰り返しており、被告人及びレイシスト団体の活動に歯止めをかける点でも効果が期待される。

量刑勘案に注目
 最後に、京都朝鮮学校襲撃事件の刑事事件判決においては、ヘイトスピーチであることが一切考慮されなかった。今回の事件においては、裁判所が人種差別撤廃条約及びヘイトスピーチ解消法を踏まえ、ヘイトスピーチであることを量刑事情として勘案し、重く罰するかどうかが注目される。
(寄稿)
(2018.05.09 民団新聞)
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