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<寄稿>「民間外交」詩の力で…詩人 佐川亜紀

■□
韓日での受賞
氷溶かす春風のよう…評価された懸け橋の一念

優しい言葉使ってこそ

 今年は、日本敗戦・韓国解放70年、日韓国交50周年の年に当たる。それにふさわしい相互理解と交流が実現してほしいが、最近の日本の右傾化で友好を脅かす事態が生じているのはたいへん残念だ。

 가는 말이 고와야 오는 말이 곱다

 「話しかける言葉が優しければ、返って来る言葉も優しい」。よく知られた韓国のことわざである。

 昨今の日本社会に効く薬になってほしい内容だ。逆に、相手に話す言葉が醜ければ返って来る言葉も醜くなりエスカレートして互いに傷つく。日本のことわざ「売り言葉に買い言葉」にはなってほしくない。

 ほんの少し前まで、韓流ブームに沸き、韓国ドラマや映画、Kポップが大人気だった。今でも韓国のドラマや映画を見ているという知人が多いのだから、好ましい関心が消えたのではない。先の戦争も一部の強硬派が無謀な支配と軍事を拡大し、国民も同調してしまったことを反省し、現実をよく見て、優しい言葉を考えたい。

隣国歴史にこだわって

 日本は少子化で海外から人々を受け容れなければやっていけなくなるのだから、在日韓国人の歴史に学び、共生の社会を創るために一緒に考えるのが本道である。私は以前『在日コリアン詩選集』を共編し、苦難を乗り越え必死に生き創造的に詩作した軌跡に胸を打たれた。

 そのような私の仕事に対して過分の評価である韓国の昌原KC国際詩文学賞を昨年の11月に受賞した。私が第一詩集『死者を再び孕む夢』(小熊秀雄賞受賞)から、一昨年日本詩人クラブ賞を受けた詩集『押し花』まで一貫してアジア、特に朝鮮半島の歴史にこだわって詩作してきたこと、韓国詩を日本で紹介したことが受賞の主な理由だった。

 審査委員長の高麗大学名誉教授・金春美さんは「佐川詩人は初期から一貫して日本帝国主義の徴兵、徴用、従軍慰安婦の被害者、差別された在日コリアンなどを詩で形象化して、貧困と戦争、災害で呻吟するアジアのさまざまな国の被害者たちの苦しみを描き出しました」と述べて下さった。

深い愛情で作品を紹介

 さらに「佐川詩人は長年深い愛情をもって韓国詩を日本に紹介し(略)、悪化の一途をたどっている韓日関係の中で政治家たちには期待できにくい役割を詩が果たすことができるということを見せてくれる存在で、詩が民間外交官の役割まで成し遂げることができることを証明する存在です」とまでおっしゃり、身に余る光栄だった。

 この賞は、第1回目がノーベル文学賞候補にも挙がったと言われる中国の亡命詩人・北島さんで、第2回目がフランスの詩人、第3回目がアフリカ系アメリカ人の女性詩人、第4回目が中国の詩人、そして第5回目が私と、世界の錚々たる詩人に混じり、恐縮するばかりだ。

配慮と高い知性に感銘

 今回は、日本人に賞を授与しようと決めておられたとは驚くべきだ。韓日関係が悪い中で、あえて日本詩人を選んだ主催する(社)詩サラン文化人協議会、金達鎮文学館、後援の昌原市に深い敬意を抱いた。

 冷えた関係を溶かす韓国から贈られた春風のような配慮と高い知性に、日本の詩人たちも感銘を受け、次々にお祝いの言葉が届いた。「詩が民間外交官の役割まで果たす」との期待に責任を感じ身が引き締まる思いがする。

■□
多彩な活動韓国の詩人
普遍性と民族性を追求…見習いたい社会的発言と行動

世界の弱者みつめる眼

 現代詩は、各国各地の伝統文学の感情や思想、リズムを踏まえながら、世界的に普遍性を持つポエジーを求めるものである。日本で高名になった韓国近代詩人・尹東柱も民族性とともに抒情と抵抗が世界に共感を抱かれている。

 韓国では詩が格別に高い地位を与えられてきた歴史がある。

 高銀詩人は、ノーベル文学賞の候補としてよく話題になるが、自国の社会的弱者や世界の小国に寄り添い、地球規模の慈悲と反権力の詩を書いてきた。僧侶だった過去から東洋思想に造詣が深く「禅詩」も創り、欧米現代詩と違う個性を示して来られた。

 韓国では、詩人が社会的に発言し行動することが伝統的におこなわれていた。社会派の詩人ばかりではなく、今回一緒に金達鎮文学賞を受けた金南祚詩人は抒情詩の先達だが、人生の色々な味わいを美しく表現し、皆に慕われている。

双方向交流全力で進め

 金南祚さんは日本詩人の新川和江さんと親しく日韓現代詩交流にも貢献された。長老詩人の金光林さんも日本詩人の翻訳を先駆的になされた。受賞に伴い私の韓国語詩集が出版されたが、翻訳家で詩人の韓成禮さんが寝る間も削って丁寧に訳して下さった。いつも翻訳の指導を仰いでいる詩人の権宅明さんは深い理解の解説を書いて下さった。私とほぼ同世代の権宅明さんと韓成禮さんは日韓現代詩交流に献身的に尽力されている。

 韓国の授賞式で若い人たちからサインを求められ、詩人が親しまれ尊敬されていることを実感した。授賞式の後に昌原市にある慶南大学の厚意で日本語教育科の学生に講義する機会を与えられ、私の韓国詩との出会いを話した。学生たちも金素月や李陸史などを知っていたが、情報化時代のドライな本音も出て、楽しく話し合った。

 日本では、詩人が発言し行動するという文化が弱く、リズムや形式を重視し、作品がすべてだとする傾向が根強い。それも一理あるが、社会批判を自らタブーにしてしまっては言論の自由さえ守れない。

 韓国詩人との交流は、日本の詩人団体、同人誌では現在も続いているが、中心に戦争体験世代、併合下の朝鮮で生まれ、学生生活を送った世代がいたことの意味は大きい。

在日作家も重要な役割

 故郷が支配の地だった痛みを抱いていた人が交流文化を担っていた。

 また在日文学者も創作や翻訳で重要な役割を果たして頂いた。だんだんそうした体験世代が亡くなる中で、新しい時代を築かなければと今回大いに励まされた。

 韓国と日本、朝鮮半島と日本が友好を築くことはアジアの平和の基礎である。長い文学的伝統と伝播の歴史がある日韓文学は、欧米文学とは異なる独自の文化を発信する原動力になりうる。今後も日韓現代詩交流に微力ながら一層の力を尽くして行きたい。

■□
春の唇

 結んでいた唇から
 一気に
 生命の息が飛び出して
 大気が弾む
 ポム ポム
 春の風が
 温かい腕のように
 差し出されて

 そこは
 馬山神社の
 鳥居が残る地
 皇国臣民化のための社
 徴用でどこで死んだか
 徴兵でいつに死んだか
 分からない人々が
 花の秘所を荒らされて
 死んだ少女が
 まだ帰れない海辺
 七〇年たっても

 そこは
 今
 高層ビルと
 マンションが
 立ち並び
 大きな橋がかかる
 美しい港
 工業と海産物の町
 柿が照る農業の村
 菊祭りが華やかに
 かつては
 日本企業が
 押し寄せて
 労働争議が
 起った馬山区
 韓国の昌原市

 そこから世界の詩人に
 詩の春風が贈られる
 日本にも贈られた
 言語が違っても
 緑の喜びや
 真っ赤な怒りや
 青ざめた悲しみ
 褐色の痛みや
 水色の楽しさは
 きっと分かり合えると
 きっと通じ合えると
 詩による深い出会いを
 世界に広め
 闇の中に輝く星の言葉
 砂漠に咲いた花の言葉
 氷原を解かす春の言葉
 明日がかおる芽の言葉
 日本から
 優しい春の唇で
 お返ししたい

■□
プロフィール

 さがわ・あき 1954年東京都生まれ。詩人。詩集『死者を再び孕む夢』(小熊秀雄賞、横浜詩人会賞)、『返信』(詩と創造賞)、『押し花』(日本詩人クラブ賞)他。評論集『韓国現代詩小論集』。共編『在日コリアン詩選集』(地球賞)。共訳『高銀詩選集』、『日韓環境詩選集』『李御寧詩集』他。「詩と思想」編集参与。日本現代詩人会元理事。

(2015.1.1 民団新聞)
 

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