| 1958年東京生まれの3世。東京大学大学院学際情報学修士課程修了。91年ステュディオハンデザイン設立。1男1女。
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「都市景観」デザイナー ステュディオ ハン デザインの韓亜由美代表 土木との出会い 土木構造物や工事現場、高速道路、トンネルなどの空間デザインに携わる。日本では貴重な「都市景観」デザイナーだ。特に高速道路の走行空間では、「シークエンスデザイン」の概念を提唱し、注目された。多くの公共工事が中断の状況にあり、昨年の売上額は約3000万円、社員は2人。 「小さいころから絵を描いたり、モノを作るのが好きで、美術系に進学しようとしたが、高校の担任から絵画よりデザインの方がいいとアドバイスされた」 東京芸大デザイン科卒業後、デザイン事務所に勤務してからイタリアのミラノ工科大学に留学。実践的に学ぼうと、現地のデザイン事務所に2年半勤務した。 帰国後、クラマタデザイン事務所に勤務中、熊本県から橋の改修に関する依頼があり、担当した。「アートポリス熊本」と銘打ち世界に発信する事業の一環だった。 「当時はバブルの風潮が残り、奇抜さを競うデザインに空しさを覚えていた。そこへ橋をデザインすることに斬新さを感じた。デザインは特定の人のためにするものではない。あらゆる人が目にする風景こそ、自分が求める仕事だと思った」 91年に独立。首都高速道路や東京湾アクアラインに「シークエンスデザイン」を提案した。「海底トンネルという大事業なのに、ドライバーへの圧迫感などまったく配慮されない。ドライバーの心理を考え、安全走行するためのデザインが求められる」 シークエンスとは連続的に展開するひとつづきの視環境をさす。このテーマで東京大学学際情報学の博士課程に在学中だ。「他分野の人々と共同で視覚情報について、さまざまなシミュレーションを試みる。道路は人命にかかわるため、デザインも科学的根拠があって初めて説得が可能だ」 今春に開通した山形県の鶴岡〜温海(あつみ)トンネルは4本が連続し、全長12キロに達する。内壁に18色のさまざまな線が初めて描かれた。「出入口は視覚的に安定させる太い線を並べ、1キロごとに色合いに変化を持たせた。気分転換効果と、現在位置の目安になる」 これまで新日本坂トンネル(静岡県)の計画案で第1回ロレアル賞奨励賞、小鳥(おどり)トンネル(岐阜県)でグッドデザイン特別賞など、多くの賞を受賞した。 権利意識持って 興味深いのは新宿サザンビートプロジェクト。南口整備事業の工事現場におけるデザインだ。「都市は常に変貌している。工事現場は景観の一部であり、それを生かさない手はないと思った」 60年代から10年ごとに当時の新宿を切り取り、壁にグラフィック化した。板囲いの回路を少し蛇行させたりしたところ、人が自然と「留まる」ようになった。「人はつながりを求めており、公共空間には強い求心力があることを実感した」 日本では、「シビックプライド」(権利意識)が欠如しているという。「公共物に対して国や行政の勝手にさせないぞと声を出してほしい。そこに生活する市民が支払う税金で賄われるのだから」。機会があれば、「シークエンスデザインを韓国でも広めたい」との思いは強い。 ◆(株)ステュディオハンデザイン=東京都港区南麻布1―27―26―3F(TEL03・5420・1515) (2012.10.24 民団新聞) |