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<甲午年>「駅馬サルの人生」共生願おう
作・韓国民画作家 池貴巳子

崔吉城 広島大学名誉教授
東亜大学アジア文化研究所所長

みんな旅人「寄留の民」
国家の壁乗り越える年

馬文化

 新年は干支で甲午年「馬」の年である。韓国では日常的に馬とは縁がなく、馬文化は定着していない。馬文化とは馬を飼育し、運搬、農耕、乗馬、馬具、食肉、乳製品など総合的に生活に密着していることを意味する。日本では馬を農耕や運搬、競馬などに利用し馬刺しを食べるほど韓国に比べて馬文化が定着している。

 私は韓国中部地域の小さい農村で生まれた。父が牛の行商をしていたので、我が家には常に牛が何頭かいて、幼い頃から牛には親しみを持っていたが、馬に接する機会はほとんどなかった。

 私がはじめて馬を近くで観察したのは1990年、朝鮮日報派遣の学術調査でモンゴルのウランバートルへ行った時である。ナダム祝祭に参加し、草原の遊牧民族の生活を40日間調査した。そこで私は初めて馬に関心を持った。

守り神

 京城帝国大学の秋葉隆先生の報告書にしばしば出る、村の守り神を祀るオボを山頂で見つけた時はおもわず頭を下げてしまった。オボとは神木なるものの周囲に石を積み上げて天の神を祭るものである。そこには馬の頭蓋骨や馬を描いたヒモリという布が掛けられている。このような神木は韓国のソナンダン、日本の神社や沖縄のウタキにつながる象徴的なものだ。 ナダム祝祭は弓、相撲、競馬がメーンの種目であり、少年少女の競馬にはいかに遊牧民文化であるかを痛感させられた。ゲルの入り口には馬乳で酒を作る桶や革袋があり、馬肉を食べる。そこで馬文化を実感した。

 韓国でも今は遊牧民族のように日常的に乳製品を食用とするが、遊牧文化の社会ではない。19世紀のフランス人宣教師ダレ(Charles Dallet)の『朝鮮教会史』(1874年)によれば、ある宣教師が韓国で動きの遅い牛を農耕に利用するのを見て、農夫に早い馬を使って耕すのはいかがかと言ったら、貴方の国では犬をもって農業をするのか、と皮肉の言葉が戻ってきたと記している。済州島では農耕に馬を利用したと言われたが、それはモンゴルの影響といえる。

運数は?

 午年の運数はどうだろう。新年の初めから言うには不適切かもしれないが、運に関しては真剣に考えない方が良い。一般的に午年生まれの特に女性は気が強く、結婚運が悪いと言われている。また駅馬サル( )の厄運と言われることもある。

 元々サルとは「(運)数」ともいわれ、昔はムーダンを呼んでサルプリ・サル払いを行うことが多かった。紅い高粱で小さい餅を作り、それを弓の矢につけて射、雑鬼を払う儀礼を私は調査したことがある。

 私も在日同胞も「駅馬サル人生」の運であろう。駅馬とは文字通りに駅の馬であり、人や物を運搬する馬の運、落ち着かず、あちこち放浪、引っ越しなどが多いことを意味し、悪い運とされている。つまり一定のところに定着せず流れ「放浪する人生」を指す。

 私は同胞の1世の方との付き合いが多い。自分の意思で日本に移住してきている私はニューカマーであり、前から日本に住む同胞のオールドカマーたちをみると、故国を離れて他郷暮らしの悲しさや惨めさが伝わって来る。

 神奈川・藤沢市の民団湖南中部支部でアルバイト中、旅行とか銀座の地下のバーやキャバレーにも同行させていただいた時、彼らが悲しく李美子の「タヒャンサリ」(他郷暮らし)を歌うのをよく目にした。

 私は彼らが故国と故郷を離れ、恋しく、懐かしく歌っているのをみて心から深く感動し、同情もした。

 しかし今、時代は変わっている。なにより意識の変化である。たとえば客死や放浪が悪く思われる時代では放浪や旅にネガティブであったが、ロマンティックに思われる時代になった。

人権意識

 韓国では女性の人権意識が高くなり、女性大統領を出した。自ら「駅馬サルだ」と自称する人さえ現れるようになった。韓半島の外、海外の同胞が国際化の時代には活力あるディアスポラになった。在日同胞は世代を重ねながら日本に適応し、本国との関係のネットワークの役割を強化してきている。

 一方、グローバリズムやナショナリズムがいたるところに夢とロマンスを持たせたが、その陰にはナショナリズムと民族主義・国粋主義が固まっていて、新しい問題点として現れた。国家は国土、領土への関心を高め、国家間の関係を悪くしている。それは韓日の両方において同様であり、最近韓日関係が最悪の状態になっている。

 その根源を探って考えてみると土地と人の関係の感情から出たものといえる。生まれ故郷への愛郷精神、縄張り意識に起因したもの、最近はそれに基づいて村興しなどを行っている。その考え方を革新すべきであろう。 私は神奈川・川崎市の故李仁夏牧師が『寄留の民の叫び』という本で主張した「寄留者精神」を受け入れる必要があると思う。しかし、この言葉は在日の方々に届いていないのが残念である。李牧師は日本社会において在日外国人は厳しい差別におかれた「寄留の民」であり、「抑圧する理不尽な力から解放され、自由になろう」と叫んだ。

 人はある土地に寄留しているにすぎないという認識である。「寄留とは一時的に身を寄せること」だ。在日同胞だけではなく、「土地の者」の権利を主張している日本人にも言うメッセージである。聖書は「わたしたちはこの地にあっては寄留者、旅人である」と教えている。オールドカマーの「在日」も、ニューカマーも日本人も「寄留の民」であるということだ。

 「土地の者」意識を持つ日本人と、「在日」が民族や国家の壁を乗り越えて「寄留の民」として平和に共生を願うのに新年の午年のメッセージは大きい。
(2014.1.1 民団新聞)
 

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