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「愛せる限り家族愛そう」…『母をお願い』著者の申京淑さんに聞く

 韓国で185万部を突破し、米国をはじめフランス、台湾など海外で翻訳され、高い評価を得ている小説『母をお願い』(08年11月刊)。日本では先月、集英社から文庫本で発売された。著者の申京淑さんはこれまで、出版記念イベントのために米国や欧州を回った。今月には日本語版出版をきっかけに名古屋と東京で開催されるフォーラムに出席する。それに先立ち、来日した申さんに聞いた。(インタビュー構成)

傷つきあえばこそ
自分重ねて読み 隙間埋められたら

 『母をお願い』は『離れ部屋』(自伝的長編、95年)と合わせ鏡のような作品です。作家になる前に、いつか作家になったら、母に美しい作品を捧げたいと考えていた。(16歳で)ソウルに上京して27年目になってやっと、自分との約束を守ることができた。

国は変われど「母性」は普遍

 読者の反応の中で最も多かったのは、この作品を通して、自分の母について考える時間が持てたというものでした。それは10代の読者から女性だけでなく男性も、作中の母と同じ70代の読者も共通していた。

 特に章ごとに長男、長女、夫などの視点で書かれているので、読者の反応が息子は息子、夫は夫に、それぞれ自分を重ねて読む人が多かった。個人的には、母親との関係が上手くいかなかった人たちが、この本を読んで和解をしたという、そういう反応が一番嬉しかった。

 昨年1年間ニューヨークに滞在し、その間、ブックツアーを米国だけでなく欧州でも行った。作品の舞台のソウル・韓国と欧米では、歴史的・時代的背景とか社会的背景が違い生活習慣も異なる。そういうなかで「母」という言葉が持つ普遍性ということで、多くの人たちと国境を超えて交流ができたと嬉しく思っている。

 小説ではソウル駅で母が行方不明となってしまうが、それをニューヨークのどこかの駅とか、東京駅に置き換えても、皆さん、同じように読んでくれたと思う。米国では朗読会をやる機会があった。そこで、年配の方が「自分は母親と上手くいかず、和解できないまま母を亡くしてしまった。この小説を読んで悔やまれてならない。亡くなる前に読んでいれば、謝りにいき和解したと思う」と話していた。そのことが強く記憶に残っている。

同時代生きた人たちの物語

 すぐに書けるかどうかは分からないが、以前から書きたかったのはある日突然、目が見えなくなる人の物語です。ずっと頭のなかにあったが、なかなか書けない。ニューヨークに滞在し、新しい世界、新しい空間で出会った人たち、そういう話も、いつかは作品に登場してくると思う。

 米国に行った韓国人移民、今は3世くらいになっている。その多くは韓国語がわからないという。『母をお願い』が米国で翻訳され話題になった時に、多くの在米韓国人1世が来て、非常に喜んでくれた。米国に移住するまでのいきさつとか、根を下ろすまでの苦難の日々とか、たくさん聞かされた。今すぐには書けないが、それが熟成する時間を経ていつか、書くことができればいいと考えている。

 韓国でも父親をテーマにした作品は結構ある。伝統的な価値観や歴史的な背景があるからかは分からないが、父親は、すごく家父長的で、自分を抑圧する父親を乗り越えていかなければならない対象として書かれることが多い。

 私の父は、とても穏やかで繊細だし、少しも家父長的ではなかった。体も弱かった。それだから逆に、母が精神的に強くならないといけないというのはあった。大きなタイトルにしたものはないが、私の作品の中でも、そういう父親の話は沢山出ている。

 韓国でも作品を通して作家を見てしまうということはよくあるが、作家自身の話ではない。作家というよりは、そこから出発はするが、同時代を生きた人々の物語として読んでほしい。

 ある意味、家族は最も近い存在だからこそ、何気ないことで傷つけられたり、傷つくことがある。それでだんだん、小さな隙間が大きくなってしまうのですが、『母をお願い』の最初の扉にリストの言葉(「愛せる限り愛せよ」)がある。この本の最大のメッセージです。その言葉をもって、少しでも家族間の隙間を埋めることができればと思う。

■□
プロフィール
申京淑

 63年韓国全羅北道井邑市生まれ。85年『文芸中央』の新人賞に「冬の寓話」が当選してデビュー。93年、初の単行本『オルガンのあった場所』が25万部、翌年、『深い哀しみ』が60万部を記録し、人気作家となる。「深い息をするたびに」は95年の現代文学賞、同年の自伝的長編『離れ部屋』は萬海文学賞を受賞。韓国の文壇の世代交代を促した代表的な作家とされ、個人の内面的な孤独感や死を詩的で独特な文体で描いている。

(2011.10.5 民団新聞)
 

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