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<第10回MINDAN文化賞>論文最優秀賞…金光敏(45・大阪)
<第10回MINDAN文化賞>論文最優秀賞
福祉的手法の視点から見た「民族学級」の意義と役割〜大阪市における事例から
金光敏(45・大阪)

 
<はじめに>

 全国的に見ても珍しい在日外国人の子どもの教育支援形態に、大阪の公立学校における「民族学級」(名称は多様。総称で使用)がある。「民族学級」は1948年の朝鮮人学校強制閉鎖に端を発した教育守護闘争を背景として生まれた。大阪府、京都府、滋賀県、愛知県、福岡県、兵庫県など77か所の小中学校で設けられていたことがわかっている。朝鮮人学校を閉鎖する代わりの代替措置として発案され、もっぱら教育課程外の時間を活用して「言葉」「歴史」「文化」などを教える「特設学級」として出発している。

 その後、「民族学級」は大阪府、京都府にのみ残り、福岡県と愛知県は発足当初の形態から国際交流を学ぶ課外学級へその役割を変更して現在は取り組まれている。その他の地域はすでに閉講されており、研究者や市民団体の掘り起こしによる調査、また自治体の史誌などでの記録からその全容がわかる。

 この論考では、民族学級の歴史については触れない。すでに民族学級の歴史については筆者(※1)をはじめ各地の研究者や市民団体によって明らかになっている。ここで明らかにしたいのは、「民族学級」が、日本の学校教育に果たしてきた意義、特に筆者が現場活動に従事し、積み重ねた臨床事例から明らかとなったその先駆的役割について論じてみたい。

 「民族学級」に関わるこれまでの論考は、在日コリアンの民族教育に焦点があてられ、歴史学的見地、または教育学的見地に基づく評価が中心であった。筆者はこれらの研究成果の上に、さらに新しい考察として「福祉の視点」に立脚して論じてみたい。

 産業構造の変化、財政改革、それに伴う階層格差、子どもをめぐる諸問題の複雑化は、そのまま学校に大きな影響を与えている。その対応の難しさは年を追うごとに増しており、公教育を支えるための新しい制度導入が多角的に試みられている。

 筆者も学校現場に深くかかわり、数々の問題事象にソーシャルワーカーとして携わってきた。学校現場には筆者のような担い手をはじめ多様な人材が参加し、子どもへの支援の充実化が進められつつある。特に、学校内外の連携を強化するための福祉的支援の活用をめざして、文部科学省はスクールソーシャルワーカーの増員配置を進めている。

 一方、学校現場に支援者として新たに加わる専門職養成は遅れている。とりわけ外国ルーツの子どもや家庭への援助法を専門的に学ぶ機会は絶対的に不足している。支援を必要とする外国ルーツの子どもたちが増加傾向にあるにも関わらず、その支援策はあと回しにされている印象が強い。

 そうした問題認識の上に立って考察したとき、大阪は独自の歩みを進めてきた地域であると言える。とりわけ「民族学級」があることでもたらされてきたコリアルーツの子どもたちの自尊感情回復の実例、少数者の子どもたちを多数者がどのように受け入れて、コミュニティ形成を図るべきか、大阪でのこれら事例検討は、文部科学省が推奨するところの学校支援策とも符合するものであると考える。

 「民族学級」を福祉的視点から考察する、おそらく初めての論考ではないかと考える。そうした意味で賛同、批判も含め新たな議論の広がりに期待したい。また外国ルーツの子どもの教育権保障の検討領域が広がることの布石になればとも考える。

 この論考では、大阪市における民族学級の臨床事例の積み重ねから、公教育に学ぶ外国ルーツの子どもたちの福祉的支援法として「民族学級」の有効性、その可能性について論じてみたい。
 
<大阪市における民族学級の取り組み>

 大阪市は政令指定都市の中でもっとも外国籍人口が多い。2016年度3月現在、大阪市の総人口268万3166人のうち、外国籍人口は12万1073人で人口比率4・51%を占める。外国籍人口の中で在日韓国朝鮮人がもっとも多く7万70人で比率57・87%だ。多国籍化が進む中、人口比較の上で存在感が薄まりつつある韓国朝鮮人だが、大阪市においては比較的にまだ目立つ存在だと言える。

 大阪市内全体にまんべんなく韓国朝鮮人は暮らしているが、特に集住度の高い行政区として生野区(2万3993人)、東成区(5363人)、平野区(4407人)、西成区(4271人)、中央区(2845人)がある(※2)。これらの区には大規模な集住地域がある。

 一方、見落としてならないのは、在留外国人統計に乗ることのない外国ルーツを持つ人々の存在だ。帰化による日本国籍取得者、国際結婚によってその間に生まれてきた二重国籍者、出生時点からすでに日本国籍を持つ者など、在日韓国朝鮮人社会の多様化はすでにかなり進んでいる。この論考の中心である「民族学級」に通級する児童生徒の実態でも、すでに韓国籍、朝鮮籍を持つ児童生徒が少数で、生野区のような、突出して集住率が高い地域ですら、民族学級の入級児童生徒の多数は日本国籍を持つ子どもたちになっている。なお、この多様な国籍状況にある子どもたちのことを、この論考では「韓国朝鮮ルーツの子ども」と称することとする。

 大阪市立小中学校は424校のうち105校に「民族学級」が設置されている。「民族学級」とは総称であり、行政用語としては民族学級、民族クラブとに名称が使い分けられている。大阪府教育庁が常勤職で民族講師を配置任用している学校に民族学級を、大阪市教育委員会が国際理解教育推進事業に基づいて非常勤嘱託職の民族講師(国際理解教育コーディネーター)を配置任用している学校に民族クラブを使用している。民族学級設置校は大阪市内に8校あり、それぞれに一人ずつ全部で8名の常勤職民族講師が勤務する。民族クラブ設置校は98校あり、非常勤嘱託職民族講師15名と時間単位で指導にあたる民族講師若干名が分担して指導している(※3)。民族学級、民族クラブに入級し、なんらかの形で民族教育を受けている児童生徒数は1700人にのぼる(※4)。

 公立小中学校に学ぶ外国ルーツの子どもたちのために、教育行政が人員を措置し、体系的な事業が進められていることは、大阪府内の一部自治体を除いて全国で他に例がなく、これは特筆に値する。ちなみに、この大阪市の事例について日本政府は、国際人権諸条約の履行監視機関の審議でこの事例を紹介し、政府による外国人の教育支援の実例として紹介している(※5)。

 では「民族学級」はどのような形態で取り組まれているか。大阪市の場合、授業の最終講時後の時間を活用して韓国朝鮮ルーツの子どもたちを対象に、おおむね週に1回、韓国・朝鮮語、伝統遊び、地理学習、さらに父母、祖父母からの聞き取りを通した家族史学習などに取り組んでいる。また、民族楽器演奏や舞踊の披露、民話劇、学習成果などを全校児童生徒の前で発表する機会も設けられている。

 指導にあたる民族講師は民族学級に必要な知識とスキルを持っている人材を、教育委員会が雇用契約している。民族講師の任用にあたっては、指導効果をあげるため、韓国朝鮮人当事者(国籍は多様)がその任にあたる形式がこれまでは取られている。民族講師の職務は「民族学級」の指導のみならず、通常授業に参画し、国際理解学習のスピーカー、チューターなども務める。学校が定める年間教育計画に基づき体系的な国際理解学習の援助者として、学校全体の学習活動にも関わる。

 また、生活指導で必要に応じて学級担任とともに、当該児童生徒の親との面談、家庭訪問に同席することもあるほか、長い歳月をかけて子どもの成長を見守る観点から民族講師が中学校区をひとつの地域単位とし、小中学校を網羅して指導にあたる配置上の工夫もなされている。

 最近では、さまざまな国や地域の子どもたちが学び、学校現場も多国籍、多民族化している。多様な国籍や民族的背景を持つ子どもたちの教育支援や、その子どもたちの自立支援に民族講師の指導経験が活用されるケースや、外国ルーツを同じく持っているということから外国人保護者との対話が進みやすいとして、外国人の子どもの教育に携わる専門者としての役割が広がりを見せる。すでに大阪市立小中学校において「民族学級」「民族講師」の存在は広く認知されているほか、大阪の公教育における国際理解学習の推進に欠かせない存在として教育行政サイドも事業推進の充実化に取り組んでいる。
 
<民族学級に対する「閉鎖性」の指摘から見えてくること>

 一方、「民族学級」について否定的な意見とも容易に出会う。そのもっとも顕著な意見に、「民族学級」の閉鎖性を指摘する声がある。集住地域であり、区内のすべての中学校と、一部小規模校をのぞくすべての小学校に「民族学級」が設置されている生野区においても、その「閉鎖性」が議論の俎上にあがることがある。閉鎖的だと指摘される部分は、韓国朝鮮ルーツの児童生徒を対象にして取り組んでいることにある。反発は保護者の中から出てくることが多いが、実は教職員の中でも「対象を限る」ことへの疑問、あるいは地域の中からもそうした意見が出されることも少なくない。

 ある学校で、「民族学級」に韓国朝鮮ルーツの子どものみが通うことを指摘した保護者がいた。日本人の子どもたちにもオープンにして、ともに学ぶべきだとの指摘であった。この指摘は韓国籍を持つ保護者によるものだった。この保護者の家庭は日韓の国際結婚で、韓国朝鮮ルーツがあることから子どもの入級を誘う過程で行われた指摘だった。この保護者は入級の誘いを拒み、上記の指摘が改善されれば入級させてもいいとの条件をつけ学校に迫った。

 また、ある学校では、子どもを民族学級に入級させつつも、保護者会活動や学校懇談会の席上、民族学級の対象を広げて日本人の子どもたちもいっしょに学んではどうかと意見を提示した。この保護者の主張は周りから民族学級が「閉鎖的」に見えるのはなるだけ回避したほうがいいとの考えからであった。他方、「子どもは楽しいって通っています」と語り、取り組みへの肯定的意見も付け加えている。

 こうした意見について学校はどのように対応したのか。紙幅の関係もあるので簡略的に述べるが、担当する教員(民族講師、クラス担任や外国人教育主担者、さらに管理職が対応にあたることが多い)らは保護者らの思いに丁寧に耳を傾けながらも、▽民族学級が歴史的に韓国朝鮮ルーツを対象に取り組んできたこと▽韓国朝鮮に関わる学習は通常の授業でも取り組んでおり日本人の子どもたちにも学ぶ機会は確保されていること▽韓国朝鮮ルーツの子どもたちの仲間づくりに着目して取り組んでいることなどを説明し、納得を得ようと働きかけている。ただ、こうした説明が定型の枠を超えず、実際に保護者らの理解を得られるものとはなっていない。むしろ、保護者の「なぜ」に教職員も同調し、「いっしょに学んだほうがよくないか」と学校方針の変更の検討を促す声も聞こえてくる。

 上記の2件は直近の事例である。しかし、筆者が「民族学級」の業務に携わってきた1995年以降、「民族学級」に対するこの「閉鎖性」をめぐる議論は繰り返されてきた。言わば、都度新しい指摘ではあるが、実は古い問題でもあるのだ。付け加えるが、この議論、実は学校現場にとどまらず、教育運動の世界でも対論、論争が繰り広げられてきた。かつて筆者が所属した民族教育促進協議会(民促協)と民族差別を闘う連絡協議会(民闘連)との間で、日本人教職員運動においても全朝教大阪と全外教との間で交わされた論争のひとつがそれであった。ここでこの論争について本旨ではないので省く。
 
◆「民族学級」の目的と、その効果ある方法とは?

 筆者のところには、現場からの相談事案が持ち込まれる。「閉鎖性」をめぐる指摘を受けたがどうすればよいかという相談は日常的だ。最近は意識して民族学級設置校の教職員研修の機会を得て、こうした問題について先生方との意見交換を増やしている。

 筆者の提案はシンプルだ。「民族学級」は、福祉的支援法だと説明する。「民族学級」をめぐって福祉的支援法の視点で語られてきたことはない。しかし、「はじめに」で触れたように、「民族学級」のめざすところの目標が、マイノリティの子どもの自尊感情の回復、あるいは自己肯定感の形成であるとすれば、「民族学級」はそれに忠実で、もっとも効果的な手法が取られる必要がある。筆者が注目したのは、福祉現場で導入されているグループワークである。最近、ピアサポートやピアカウンセリングという支援法が注目を集めている。ピアとは「仲間」を意味する用語である。つまり同じ背景、同じ境遇、同じ痛みを共有する者どうしの関係構築が、自尊感情の回復や自己肯定感の形成に効果が高いとして導入されているものだ。

 筆者がこの手法に出会ったのは、映画「ライファーズ」(※6)を通してであった。この映画は、カリフォルニア州サンディエゴにあるドノバン刑務所を舞台に撮影されたドキュメンタリーだ。Lifers、つまり終身刑、あるいは無期懲役服役囚たちの日常を追った物語だ。ここの服役囚たちはのきなみ凶悪犯ばかりだ。もはや出所できない彼らが、刑務所の中で人間性を回復しようとプログラムに参加し、変化していく姿を追ったものだ。この映画の中でグループワークの様子が映し出される。服役囚たちは屈強な身体の持ち主ばかりで、全身にタトウー、表情からも厳めしさが見て取れる。

 最初はグループワークに白けていた彼らだったが、回数を重ねるうちに少しずつ態度に変化が表れる。刑務所のスタッフはグループワークの進行役を担うのみ。いくつかのルールを確認したあとは、服役囚たちが語り合う。語り合いに触発され、白けていた服役囚も順々に自分の生い立ちを語りはじめる。その過程で、強面の男たちがまるで少年のように泣き崩れ、卒倒して倒れていく。あるいはその姿を見ながらも自らの過去と重ね合わせ、仲間に「つらかったろう」「よくがんばった」と優しく声をかける姿が映しだされる。犯罪者となり服役する彼らもまた幼少期に、人種差別、性差別、貧困、虐待によって深い傷を負っていた。その傷を覆い隠すために虚勢を張って生きてきたが、グループワークを重ねる中で、初めてその傷と向き合う瞬間を得たのだ。

 これまでの自分自身を冷静視し、自らの行為でどれだけの人が不幸になったのかを真に反省する場面も映る。服役囚たちはこのグループワークを「サンクチュアリ」と表現した。同じような痛み、同じような境遇に生きてきたものどうし、共感しあい、孤独ではないのだと知ることで得られるもっとも安心で安全な場所という意味でここでは使われている。

 実は、刑務所の事例を持ち出すまでもなく、こうしたグループワークが福祉現場で幅広く導入されている。DV被害の女性たちや児童虐待の被害を受けた人々の自立支援のためのプログラムである。

 2014年に69歳で亡くなられた全盲の視覚障碍者で、DPI日本会議副議長を務められた楠敏雄さんは生前、ご自身の講演の中で「視覚障碍者の仲間たちが集まると、君よりも僕のほうがほんまもんのめくらやなどと言い合うんです」と語っていた。差別発言を当事者が語ることに聴衆は一瞬緊張した。しかし、楠さんは「つまりひどい差別語もブラックユーモアにして笑い飛ばすという、暗黙の安心感が視覚障碍者の仲間たちにはあり、それが自分を支えてきた」と付け加えた。

 例えば、その輪の中に筆者が加わることは可能か。結論で言えば、その少数者の安心の輪の中に健常者である筆者は入ってならないのではないか。あるいは、DV被害の女性たちのグループワークに、児童虐待の被害経験のグループワークに、筆者などの非体験者が加わっていいか。加わる瞬間、おそらくそのグループワークのねらいや効果を変質させてしまう危険性がある。

 少数者と多数者との間で生じる有形無形の力の強弱の関係を重視すれば(場合によっては被害、加害の関係でも言える)、自尊感情の回復や自己肯定化のためのグループワークには、同様の背景や近似体験者のみを対象に取り組んだほうが、効果性はあがる。グループワークが重視されるのはこの臨床事例の積み重ねがあるからだ。それがピアサポートやピアカウンセリングの有効性であり、各地で試みられる理由である。
 
◆子どもの背景に迫り、ニーズから支援を考える

 大阪市の「民族学級」はこの手法が活用されている。学ぶ場を誰にでも開放することよりも、その場がめざす目標に合わせてグループを変化させたほうが効果に近道だとの経験の上に立っている。いやそれは何も「民族学級」のみならず、学校で導入されている習熟度別学習などもそれに近い。学習到達度に合わせて小グループ化したほうが、子どもたちは学びやすい。障碍のある子どもたちが特別支援学級を「居場所」として、学校活動に参加する事例もそれにあたるだろう。

 「民族学級」が外国ルーツの子どもたちの固有の教育課題に合わせた支援の形態であるとすれば、そのめざす効果に忠実な手法が導入される必要がある。「民族学級」の取り組みが効果性の観点から必要と判断されれば、対象者を限定し、一方、日本人の子どもたちとの共同学習のほうが効果的だと判断すれば、対象を開くのである。大阪市の「民族学級」は、まさにこの形式を採用しているのである。

 こうした支援法は子どもの背景に迫り、そのニーズの把握なくしては難しい。最近筆者が懸念することに「コンプライアンス」の過度な強調がある。プライバシーに触れてはならないという意識が学校現場にも強くなっている。職務上知りえた個人情報を流布したり、管理不行き届きが生じてはならないが、学校教育が子どもの背景に迫れなくなると、生起した様々な問題事象の本質を見抜けず、結果的に教員の指導、支援の選択肢は狭められてしまう。

 韓国朝鮮ルーツをはじめ外国ルーツの子どもたちの多くが、日本国籍を持っている。この子どもたちの存在は、学校公簿類を通しての把握は難しい。把握できなければ、固有のアイデンティティを育む教育支援も、自他を学ぶことによる自尊感情の育成も、学校教育で取り組めなくなり、そのうち学校の問題認識からも抜け落ちてしまうことになるだろう。

 学校現場でよくある事例に、韓国朝鮮人の親が民族的背景に触れて「そっとしておいてほしい」「うちはだいじょうぶだから」「触れないでほしい」と言ったとして、「親の意向を尊重する」「当事者の気持ちに配慮する」などの口実のもと、小学校6年間、中学校3年間、高校3年間、その家庭と交わした民族的背景に関わる唯一の会話が上記のつぶやきであったなどとするケースが多い。

 少数の立場に生きる人々が、社会との関係性の中で感じ取る緊張感を多数者に理解してもらうことは容易ではない。しかし、人権教育はここから始まる。無関心は、少数者を社会的力学により低位に固定化してしまう危険性を常にはらむ。そこに問題意識が生まれれば、学校教育の担うべき役割の中にマイノリティの自尊感情の回復や自己肯定感の形成の重要性が浮かび上がる。少数者が不利な立場から述べたつぶやきや言葉の裏側から、孤独感や社会的緊張感を見抜く学校教育の在り方が求められている。

 大阪の「民族学級」の取り組みは、公教育において少数者の存在を顕在化し、その子どもたちの社会的自立に必要なもっとも効果のある教育支援を模索してきた。これまで意識されていなかったものの、「民族学級」は学校教育の中で取り組まれる、まさに外国ルーツの子どもたちの福祉的支援の先行事例の役割を担う。文部科学省がさまざまなニーズを持つ子ども支援に福祉的手法を取り入れようと進める動きとも符合している。

 大阪では、すでに中国やフィリピンの「民族学級」も始まっている。まさに韓国朝鮮ルーツの子どもの臨床事例に成果を得て、取り組みが広がったものだ。この分野に携わってきた立場から筆者自身が、さらに「民族学級」の事例を多様な民族的文化的背景を持つ子どもたちの教育支援に活用されるようその広がりを牽引したいと考えている。
 
(※1)在日総合誌「抗路」2号「多文化共生のための教育はどこから学ぶべきか〜公教育における在日朝鮮人教育の起源」(2016年5月)
(※2)2015年12月末現在の人口統計表から
(※3)一部中学校は府費の常勤職民族講師が指導を担当している。
(※4)大阪市教育委員会に2016年1学期末に提出された民族学級・民族クラブ設置校の指導報告書からの集計。
(※5)2004年国連子どもの権利委員会の日本政府報告書審査で、コリアンの子どもたちが自国の言語文化へのアクセスが限られているとの委員の指摘に対し、日本政府は大阪市の「民族学級」の事例をあげて反論した。
(※6)『LIFERS ライファーズ 終身刑を超えて』(坂上香監督、2004年制作)


(2016.11.9 民団新聞)
 
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