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1924年刊『子供の震災記』 関東大震災を体験した小学生による『子供の震災記』(1924年、目黒書店刊)が、同じタイトルで2冊、国立国会図書館に所蔵されていることが明らかになった。1冊は朝鮮人に関する流言・殺がいをありのままに記したオリジナルだが、検印はなく、刊行されることはなかったようだ。実際に刊行された『子供の震災記』では、問題箇所が削除、ないしは改ざんされていた。当時の検閲のありようがよくわかる。 改ざんされる前の「原本」と、改ざん後の刊行本を比較すると、原本にあった朝鮮人殺がい関連証言のほとんどが削除されていた。削除でできたスペースは写真で埋めていた。「鮮人の殺されたのを見てきた人の話」もその一つだ。 「目かくしにして置いて一二三で二間ばかりはなれた所より、射さつするのだそうで」「まだ死に切れないでうめいていると(略)皆でぶつなり、たたいたりするので遂に死ぬそうである」。 同作文を書いた少年は、大人たちが流言に踊らされたことは知っていたようだ。最後は、「今考えると馬鹿げたことをした」と結んだ。 このほか、「半殺しにされ警視庁の自動車に乗せられて行った」「足でふまれ木でたたかれて泣き声を挙げている」などの記述も削除された一例だ。 「不逞鮮人」「朝鮮人」などの表現は、「泥棒」「盗人」「悪い奴」に置き換えられていた。「爆弾を家々に投げ込んだ」「放火」などの流言内容も、実際の刊行物では、「着物やお金や食物をとった」「失火」「わるさ」といったあいまいな表現に。また、自警団の持つ薙刀・刀などの武器は、「木刀」「竹刀」といった殺傷力の弱いものに変えられていた。 『子供の震災記』を見つけたのは、虐殺事件の実相に少しでも近づこうと、数年前から都内の公立図書館をこつこつ回り、自伝・日記・証言集などから朝鮮人虐殺事件に関する証言を拾い集めている西崎雅夫さん(一般社団法人「ほうせんか」代表、東京都墨田区)。 この改ざんされた刊行物について、西崎さんは都内の図書館ですでに確認しており、当時は「使えない資料」と判断していた。今年1月に国立国会図書館で改ざん前の原本と一緒に発見したときは、驚きと悔しさすら覚えたという。 『子供の震災記』は東京高等師範学校附属小学校初等教育研究会修身研究部が震災の翌年、「歴史の記録」として100人の子供の作文を選び、自費出版した。出版にあたっては作文の独特の味わいを大事にし、なんら手を加えず世に送り出そうとしたようだが、かなわなかった。 西崎さんは、改ざんには「朝鮮人虐殺を歴史から消し去ろうという権力側の強烈な意志がうかがえる」と話している。 原本が国立国会図書館に保管されていたことについては、「作文集の作成に関わった教師の一人が、改ざんを子どもたちにわび、虐殺の事実を決して忘れてはいけないと自らを戒めるために保存したのではないか」と、推測している。 (2013.6.12 民団新聞) |