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<寄稿・ヘイトスピーチ規制>「民族国家」型の日本…在日同胞弁護士 殷勇基(上)

差別起きやすい構造
「優越」意識化 歯止めなく

 ヘイトスピーチも表現の自由であり、規制することができないという意見があります。この意見は正しいでしょうか。

 表現は自由だといっても、実際には、規制されている表現がすでにいくつもあります。わいせつ物、児童ポルノ、名誉毀損、プライバシー侵害などです。民事の規制は損害賠償や差止め(さらに公民館などをヘイトの催しに貸さない)など、刑事の規制は刑罰を科すことです。

 例えば「キム某はゴキブリだ」としゃべったり、書いたりすると名誉毀損として損害賠償や差止め(さらには刑罰)を受けることがあります。つまり、こちらは既に規制されています。問題は「韓国人はゴキブリだ」は(ヘイトスピーチなのですが)現在の日本では(民事でも刑事でも)規制されていない、ということです。

 被害者が特定人なら規制されるが、「韓国人」のように不特定人だと規制されていないので、これについても規制をするべきかどうかが問題になっています。

名誉毀損の考えに両論

 規制賛成派の根拠は、1,(上記のとおり)表現の自由にもそもそも一定の規制は既にある2,被害者の被害は深刻3,ヘイトスピーチは社会秩序を害する、というものです。

 規制反対派も、1,は認めていますし、2,と3,も概ね認めているといっていいでしょう。ただ、それでも4,言論には言論で反論すべきだし、言論を規制すると多様な意見が出てこなくなる(ので残念だが、被害者はガマンして欲しい)などと言っているわけです。

 これに対して、規制賛成派は、4,について、「〇〇人はゴキブリだ」というのはそもそも反論するような性質のものではないし、ヘイトスピーチを規制しないことで少数派からの意見が出にくくなってしまっている、という意見です。つまり、ヘイトスピーチについては規制をすることで却って多様な意見が出るようになる、ということです。

 日本の有力な、ある憲法学者の教科書には「わが国では異人種がきわめて少ないことが関係してか、人種差別が大きな社会政治的問題にされたことはない」と書いてあります。結局、賛否の決め手は、こういう認識の正否ということではないかな、と思います。

 この学者は人種差別と民族差別とを違うものと(たぶん)考えているのでしょうが、現在では人種差別には民族差別も含まれていることに異論ありません(人種差別撤廃条約1条)。戦後日本に深刻な民族差別問題があったことは否定しようのないことですから、戦後日本でも深刻な人種差別問題があったというべきです。

 3,に関しては、日本が「民族国家」であることにも注意しないといけないと思います。民主的な国家でも2種類あります。「市民国家」型の民主国家と「民族国家」型の民主国家です。

 「民族国家」とは特定の民族の言語、文化、人口、経済を優遇する国家です。「市民国家」は特定の民族を優遇しないという建前の国家です。例えばアメリカでは国家は民族(や人種)から中立という建前で(この建前がどこまで有効なのか、という深刻な疑問がもちろんありますが)、従って、「アメリカ人」も民族から中立です。

 そうなので、「日本系」とか、「韓国系」と、「アメリカ人」とがつながりやすいといえます。「日本系アメリカ人」「韓国系アメリカ人」といっても矛盾が少ない、ということです。

 他方、民族国家では、「日本人」自体が民族から中立ではないので、例えば、「韓国系日本人」といっても、「韓国」と「日本」という2つの民族がぶつかってしまい、なかなかうまくつながりません。

出自の差別出発時から

 日本政府の公式見解によると、日本政府は、植民地だった台湾人、朝鮮人の日本国籍を、1952年4月28日をもって剥奪したのですが、これは日本国憲法の施行(1947年5月3日)後も5年ほどのあいだは台湾人、朝鮮人が日本国籍を持っていたことを(当然ながら)意味します。

 1952年当時、日本国籍保有者は約8500万人で、そのうち、(民主的なはずの日本国憲法の下で)台湾人、朝鮮人からだけ国籍を奪ったのは、その民族的出自のためでした。人種差別には民族差別も含まれるわけですから、結局、戦後日本は人種差別的措置によって出発した(「民族国家」として出発した)ところがあると整理することができます。

 ヘイトスピーチが規制されるべきなのは、それが人種差別だからです。人種差別は人種主義、人種理論に立脚しています。この人種理論はさらに2つの考え、つまり、1,異なる人種が存在するという考えと、2,その上で、優性な人種、劣性な人種がいるという考えとに立脚しています。科学的には2,だけでなく、1,もすでに否定されています(現在は「ホモサピエンス」という1種がいるだけとされている)。

 しかし、例えば日本では、いまでも「日本文化(特殊)論」がかなり一般的に受容されています。「日本人は〜。〇〇人は〜」とするこの「文化論」は行き過ぎると、「世界には異なる人種(・民族)が存在する」、そして、日本人を「優性な人種(・民族)」とする考えに行き着きます。

 民族国家は「民族」(の独自性)に立脚する国家ですから、そこに起因する人種差別(民族差別)が構造的に起こりやすい国家であると言えます。

(殷勇基 在日韓国人法曹フォーラム副会長)

(2015.1.1 民団新聞)
 

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