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中国の国連条約無視を憂う



 私たち在日韓国人は、命からがら北韓を脱出した乳児を含む北韓住民7人を居住国に強制送還した中国政府の行為に対し、強く抗議します。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)による難民認定と、第三国への定住提案を完全に無視、生命さえ危ぶまれる迫害のただ中に7人を投げ込んだことは、彼らに死を宣告したも同然だからです。

 彼らは昨年11月10日、韓国へ亡命するため中国経由でロシア領に入ったところ、ロシア沿海州で国境警備隊に「密入国」の疑いで拘束されました。彼らは生きるがために国境を越えなければならなかったのです。現地に乗り込んだ国連難民高等弁務官事務所も、「韓国かロシアに亡命したい」との意思表示を確認したうえで、正式に難民と認定しました。


■強制送還で迫害を受ける恐れ

 中国政府は1982年、難民の地位に関する条約と同議定書に加盟しています。にもかかわらず、当局はこの国際人権法を無視し、ロシアからの引き渡しを受けて二週間もたたないうちに、「難民ではない」との不可解な結論を下しました。これは、北韓住民の亡命意志を尊重し、受け入れのための準備を進めていた韓国との友好関係を自ら損なうものであり、国際人権法にもとる暴挙でもあります。

 中国当局は、7人が「経済難民」だから「中朝辺境条約」に従い北韓に送り返したにすぎないと主張します。私たちはこうした主張に、主権国家として国境管理に至上の価値を置くあまり、UNHCR執行委員会の構成国の一員であるという立場を放棄したのではと強い懸念を持ちました。

 確かに国連難民条約は、「自国に帰ったら人種、宗教、国籍、もしくは特定の社会集団の構成員であること、または政治的意見を理由に政府などから迫害を受ける人」を難民と規定しています。しかし、この狭義の難民以外にも、自分が住み慣れた土地をその意志に反して離れざるを得なかったこと、しかも、自国に帰ったら良心の囚人として「迫害を受ける恐れ」が明白なときも国連は難民として認めているからです。


■北韓に生命保障を呼びかけよ

 難民発生の根本原因は、直接的な要因がなんであれ、根底にあるのは人権侵害を実際に受けた、あるいは侵害されるであろうという恐れなのです。難民とは「難民」である前にそれぞれの人生を背負った一人の人間であるということを忘れてはなりません。普遍的かつ最低限の人権保障基準はすべての国家が遵守しなければならず、いかなる政府にも国際人権法を遵守する範囲を勝手に決めるようなことはできません。

 ましてや1982年以来、国連人権委員会の一員であり、89年には副委員長まで務め、国連安全保障理事会の常任理事国として大きな影響力を持つ中国が、国際人権法の遵守基準をうやむやにすることは座視できません。いまや世界中のすべての事柄が一つにつながっているのであり、人権問題だけは別だといっても通用しません。

 いまからでも遅くありません。北韓に送還したこの7人が、そのことによっていかなる迫害を受けることもないよう北韓に強く要請するべきです。そして、現在も中国内に息をひそめて暮らしている脱北住民を強制送還の恐怖から解放し、難民としての適切な保護を与えるよう求めます。

 また、国際社会でも、中国が今回、難民問題で示した「ダブルスタンダード」を決して座視することなく、抗議の声を上げていくよう訴えます。

(2000.01.26 民団新聞)



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