民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
同胞の歴史を絵で残そう

寄稿・河正雄(在日文芸協会長)



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3月開幕の光州ビエンナーレで
23人の同胞画家による「在日の人権展」

 「イデオロギーによる争いの終結に伴う、新たなる国際秩序の形成によって、東南アジアは新たなる文化と世界経済の中心として飛躍的に発展している。アジアは来るべき21世紀のために、新たなる文化の創出のために能力を蓄えていかなければならない」。

 光復50周年を迎えた意義深い年に始まった光州ビエンナーレは、世界に向かってこうメッセージを発したが、光州ビエンナーレを取り巻く環境は政治的、経済的にも順風満帆なものとは義理にも言えない状況にある。光州ビエンナーレは新たなる文化の創出のための能力を蓄える余裕もなく、内外の葛藤と激動の中にあったと言っても過言ではない。

 ミレニアムの春。いよいよ第3回2000年光州ビエンナーレが開かれることになったのは大変喜ばしい。不確実で不透明な1900年代の暗いトンネルをくぐり抜け、果たして光明を見ることができるのだろうかと懐疑半分、期待半分の心境でもある。第1回、第2回の時もそうだったように…。

 私なりの光州ビエンナーレを構成し、寄与貢献の道を歩んでは来たが、満たされないもどかしさを感じていたのもまた事実である。それは私という人間がアウトサイダーであるということかもしれないが。

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 昨秋、光州市立美術館で「祈りの美術展」が開催された。93年と99年に私が寄贈した683点を一同に展示したこの企画は、在日一世をはじめとする在日作家たちが歩んできた苦難の歴史を記録し、証言するものである。それは20世紀へのレクイエムという意味も持っており、鎮魂と祈りの込められた濃いヒューマニズムに彩られた世界である。しかし、残念ながら、韓国現代美術史においてこれらはすっかり抜け落ちており、さながら1950年代の作品群はブラックホールに落ちたように埋もれてしまっていた。

 美術展は、多様な在日文化の一端に触れる機会を設けることとなったのだが、これは「在日の人権」という戦後50年を浮き彫りにしているといっても過言ではない。在日が日本で営々と生きて闘ってきた生活の場は、祖国の分断で、祖国の事件や出来事が海峡を越えて在日の身に降りかかる奇妙な運命共同体を形成することを余儀なくされた民たちの韓日間の中での絶え間なき人権との闘いと尊厳の証であったのだ。

 この企画展示により在日同胞の生きた歴史とその哀しみ、差別と圧迫への不屈の闘志を感じ共感してもらえたのではないだろうか。1900年代末尾を飾ったこの「祈りの美術展」の意義が後世まで記憶に残れば幸いである。

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 2000年光州ビエンナーレ記念・光州市立美術館河正雄コレクション「在日の人権展―宋英玉とソウ良奎そして在日の作家たち」が、光州市立美術館主催でビエンナーレ期間中に開催されることとなった。ビエンナーレのテーマ「人+間」が持つ意味、「人間の存在・人権に対する根本的な問いかけをする」というテーマに呼応して、大変意義深いことである。

 在日一世、宋英玉画伯が昨年急逝された。82歳であった。在日として人権との闘いに生涯を費やし、芸術魂をもって我々に強くそれらを訴えかける。私が宋英玉を回顧し宋英玉を慈父と慕ったソウ良奎と共にスポットを当てることとなったのは時代の要請であるのだろうか。

 ゙良奎(1928〜)は晋州に生まれた。1947年、晋州師範学校を卒業後、釜山で国民学校の教師をしていたとき、社会運動に関わり、警察の弾圧、捜査から逃れて、日本へと密航してきた。

 ゙良奎は「日本の戦後、特に朝鮮戦争以後の中に生きた一人の朝鮮人が、独占資本主義的社会体制の中に生きる現代人としての対象認識を通して思想への模索を続けた過程であります。

 植民地下の朝鮮に生まれ、その支配からの脱出と同時に新しい強暴な支配者の手元に墜ちていく南の社会政治情勢下にあって逃亡という方法を余儀なくされ、それ故につまずきへの、深い屈辱感に苛まれながら新しい思想の論理を築こうと渇望した時期であります」という言葉を残して61年、北送船に乗って北に渡った。

 「戦後美術の最も重要な一角が殆ど彼一人によって支えられてきたのである」と、美術評論家・針生一郎は送別の言葉で述べた。

 帰っても絵が描けるかどうかも分からないのに祖国に幸せを求め消息を絶った悲運の画家である。日本で公開されている「密閉せる倉庫」「マンホールB」の2点。光州市立美術館河正雄コレクション「31番倉庫」と「殺されたニワトリ」の二点、計四点が2000年になって初めて光州の地で展覧されることはなんと表現してよいものか。

 在日の歴史は人権の闘いの証人であり、記録であり人間の尊厳の美しい鏡ともいえる。23名の在日作家たちの百余点による「在日の人権展」が光州ビエンナーレの未来を展望することに間違いないものと信じる。

(2000.02.16 民団新聞)



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