民団新聞 MINDAN
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在日へのメッセージ

宇恵一郎(読売新聞・解説部次長)



「外国人幻想」

 週末、帰宅のため郊外電車の終電に飛び乗った。70年配のおばあさんも扉が閉じる寸前によっこらしょと車内に歩を進めた。車中には酒の匂いが漂う。いつもの光景だ。

 目の前の座席に19か20歳の学生が2人。窮屈そうに横座りで座っていた。おばあさんと目が会うと、視線をそらしてバイト先の話題に花を咲かせていた。発車まぎわ、脇に座っていたイラン人とおぼしき中年の2人連れの一人がにこりと笑って、「ドウゾ、スワッテクダサイ」と立ち上がり、老人に席をすすめた。

 ちらりと目をやった学生たちは、そ知らぬふりで話しに熱中する。

 「中国人のあいつさあ、よくあんな安いバイトの給料で暮らしてるよな」

 「毎月4万円仕送りしてるって」

 「4万円なら大金さ。中国なら一家で十分暮らせるっていうじゃないかよ」

 「あの国の生活レベル低いもんなあ」

 十分後、いくつかめの停車駅で、おばあさんは、「ほんとにありがとうね。ほんとにね」と、イラン人に丁重に礼を述べて電車を降りた。「グッバイ、マム、グッナイ」。声をかけて見送るイラン人。

 いい光景だなと見ていて目の前に視線を戻して〓然とした。学生たちは、ようやく席がゆったりしたなという表情で大またを広げて、おばあさんの降りた空席を埋めてしまった。

 大詰めの定住外国人に対する地方参政権問題で賛否両論がかまびすしい。有力な反対論の論旨の一つに、「文化も違う外国人に日本を占拠されるのは危険だ」というのがある。そうかも知れないと、この夜思った。礼儀をわきまえた、心やさしい「外国人」などに参政権を与えてしまえば、日本人の戦後の美風は崩壊してしまうかもしれないのだ。年寄りを見ても見ぬふりは許されなくなるのかも。

 何だか変だよニッポンジン―。ようやく車内もすいて、そんなことを考えていたら、乗り過ごした。帰途のタクシー代の出費は痛かった。

(2000.04.05 民団新聞)



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