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悲しみを乗り越えて



 在日同胞問題の研究者、金英達さんが非業の死を遂げた。51歳という若さだった。何者かによって刺殺されたという衝撃の第一報に接した時、関係者の脳裏をよぎったのは北韓当局の関与ではないかとの強い疑念だった。

 周知の通り、金さんは「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク(RENK)」の代表を務め、飢餓に苦しむ北の同胞の惨状を国際世論に訴えながら、問題の解決のために奔走していたからである。金正日体制を批判する金さんの存在そのものに、北韓側が神経をとがらせていただろうことは、容易に想像がつく。ただ、捜査当局の正式な発表がない現時点では、不用意なことは言えない。一刻も早い真相解明を望むばかりである。

 それにしても、と思う。生きるために死を賭して中朝国境を越えるいたいけな子どもたちを前にして、金さんは同胞の目線と同胞愛から救援の渦中に飛び込んだ。金さんにはまだまだこれからの活躍が期待されていたのに、志半ばの死は、無念でならない。

 金さんには取材の現場で何度もお会いしていた。インタビューの約束もしてあった。昨年12月に大阪で開かれた「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会・関西支部」の集会で、金さんは「帰国運動」について、「20世紀最大の悲劇」と語った。社会的弱者の人権が踏みにじられることに、手をこまねいて傍観できない正義感は、戦後補償問題への積極的な掘り起こしにも見られた。

 多忙にかまけているうちに、金さんへの取材が宙に浮いてしまった。悔やんでも悔やみ切れないが、残された者たちに今できることは、深い哀しみを乗り越えて故人の遺志を受け継ぐこと、それしかない。(C)

(2000.05.17 民団新聞)



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