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在日へのメッセージ

「ロミオとジュリエット」
前田憲二(映画監督)



 4月27日から5月3日まで、「全州国際映画祭」に特別招待された。作品を出品したわけではなく、ロケでもなかったので実にのほほんとした旅だった。

 その折り、崔済愚が提唱した“東学党”の足跡を韓勝憲理事長のご案内で2日間見学した。同行したのは申相玉監督と、それに奥さんで女優の崔銀姫氏だった。

 東学党とは儒教、仏教、道教を折衷し攘夷論を立ち上げて蜂起した農民集団だが、その思考や教義はいまも全羅道に生きている。

 古代、新羅は唐の力を借り、百済を660年に制圧した。以来、新羅と百済地域の婚姻がとやかくと現代でも云々されるように、1400年を経たいまもハンナラ党は慶尚道で六十四議席を確保、民主党も地盤の全羅道で圧勝している。

 そのことはシェークスピアの悲劇「ロミオとジュリエット」にどこか似ていて、イタリアの名門、モンタギュー家と宿敵キャピレット家の悲恋物語を彷彿せてくれる。

 私は、全羅道出身者と慶尚道出身者が夫婦となった円満なカップルを3組ばかり知っている。もちろん「在日」の方々だが、異口同音に語るには、結婚当初はモンタギュー家のロミオとキャピレット家のジュリエットのような関係だったと力を込めていた。「在日」においてさえ地域差別が生きていたのだ―。

 善し悪しは別にして、映画祭では3本ばかり出品作を観たが、どれもこれもがロミオとジュリエットの悲劇を描いていた。

 帰路の飛行機で隣席したのは高校3年になったばかりの徐君だった。オモニと大学1年の兄が一緒だったが、彼が語るには、自分は空手や柔道ではなくスポーツはテコンドを選択したこと、ソウルでは片言の英語と日本語で喋り、来年は何とかして有名大学に入り、その暁には母国語をマスターしたいと目を輝かせていた。3世の徐君に私はロミオの精悍さと勇気を垣間見たのだった。彼を受け入れ、成長させる社会環境が必須だが、今の日本は何とも嘆かわしい。

(2000.05.17 民団新聞)



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