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在日同胞の生活史を残そう



 在日韓国青年会は、今年2月に開かれた中央大会で「歴史を伝える運動」を重点方針として採択しました。この運動は、在日同胞が生きてきた生活の証を掘り起こし、資料としてまとめようというものです。今年前半期を準備期間として、調査地域の選定などの準備に入っています。


■消えつつある地域の形成史

 在日同胞社会の歴史はすでに一世紀になろうとしており、二・三世が責任世代となる中、三世や四世が生まれています。これまで、民団をはじめとする各種組織の30年史、40年史などは発刊され、資料として残されています。韓日の歴史の狭間で、在日同胞が存在する歴史の大きな流れはよく知られています。しかし、ごく限られた民団史の中に、地域形成史が掲載されている例はありますが、在日同胞が歩んできた生活の実態や地域形成史は多くは残されていないのが現状です。

 在日同胞七十万人は、日本全国に居住しています。徐々に日本各地に分散していっているとはいえども、ある程度密集して居住している地域には、必ず何かのきっかけがあったはずです。地場産業であったり、空港建設、河川の改修工事などです。徴用や強制連行の結果であるかも知れません。

 西東京地区は、多摩川の砂利採取、小河内ダム建設、東京の荒川区は〓製造など様々な歴史があるのです。

 ある地域では、団員数ごくわずかな支部があります。その地に支部が設立されるに至る経緯があり、同胞が存在した歴史があるはずです。しかし、地域に残る同胞にも、そこにどのような歴史が存在したのかはすでに忘れ去られているようです。残念なことといわざるを得ません。

 青年会は、これらの地域を対象に調査を進め、なぜ同胞が居住しているのか、どのような形で発展していったのか、同胞の生活という観点から歴史を残そうとしています。だけでなく、青年自らが調査を進め、生活史を掘り起こしていくことで在日同胞としてのアイデンティティを確立しようという目的も兼ねているといいます。


■後世の同胞子弟のためにも

 代を重ねるにつれて私たち在日同胞の歴史が消えていくのは耐えられないことです。人間は、自らのルーツをもとに、アイデンティティを確立していくのです。すなわち在日同胞が「在日」であることを確認できるのは、われわれの歴史だけなのです。

 何10年も以前から、一世がいなくなる前に歴史を残さなければならないといわれ続けてきました。歴史の生き証人である一世たちはすでに5%しか存在しないともいわれています。地域形成史を残すとすれば、もう待ったなしの時期に来ているといえるでしょう。

 青年会の「歴史を伝える運動」は、多くの長老の証言が必要なように、青年会だけで完結できる調査ではありません。青年会自身も考えているように、各民団本部、支部、ボランティアなどの協力が必須です。

 充実した生活史が完成すれば、今後生まれてくる五世、六世以降の同胞が在日同胞としての矜持を持って生きるために、きっと役に立つでしょう。

 ばかりか、韓国をルーツとする同胞にとっても自己の存在を明らかにする有意義な資料となります。また日本社会に対しても、共生社会をつくってきた在日同胞への正しい理解を促すことにもなるでしょう。

 青年たちが自らの未来を切り開こうとするこのような行動に、民団としても積極的に協力しようではありませんか。

(2000.05.17 民団新聞)



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