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一時金で過去清算終わらず



 国籍・戸籍条項の厚い壁に阻まれ、長らく補償の道を閉ざされていた在日韓国人元軍人・軍属に一時金が支給されることになりました。

 政府・与党法案はきょう31日の参議院本会議で自民、公明、保守の与党3党などの賛成多数で可決、成立します。韓日のはざまで置き去りにされてきた被害当事者を救済するため、政府が特別立法で救済措置をとったことは歓迎します。


■人間としての尊厳回復こそ

 しかし、この法案にもろ手をあげて賛成するわけにはいきません。なぜなら、同じ境遇にある日本人への給付に比べ、依然として著しく均衡を欠いているからです。日本政府がこれまで、総額40兆円の年金や1時金を国の予算から支出してきたことを考えると、どうしても割り切れない感じを押さえることができません。

 例えば、右腕15pを残して右腕を切断した石成基さんがもし日本人だったとするならば、これまでに受給したであろう金額は5000万円を超えます。ここには扶養加給金、妻に対する特別給付金は含まれてはいません。一方で、日本国籍の遺族には、年金受給者が亡くなった後も、墓守料として特別弔慰金を出しています。

 こうした状況に怒りをぶつけているのが現在訴訟中の傷痍軍属の原告らです。彼らはお金欲しさに裁判に訴えたわけではありません。人間としての尊厳を回復したかっただけなのです。


■援護法の国籍・戸籍条項撤廃を

 政府・与党案はかつて台湾在住者に一人当たり200万円を支給した先例との均衡を考えるあまり、在日韓国人の置かれた境遇に思いが至らなかったようです。台湾人と違い、在日韓国人は戦後も日本に居住し、納税義務を果たし、地域住民として日本人と苦楽を共にしてきたのです。半世紀以上も置き去りにしておきながら台湾人と同じに考えること自体が、著しい不正義であり「人道的精神」にもとるものといわざるをえません。

 姜富中さんは市民集会の席上、「お金はいらない。親からもらった大事な右手を取り付け、右目も入れ替えてくれ」と憤りを露わにしていました。もちろん肉体的損傷がいまさら回復するわけではありません。しかし、1時金だけではどうしても差別感、不平等感が残り、被害者の心情を逆なでする結果になるのです。

 この間、司法が国に宿題として突き付けてきたのは、国籍・戸籍条項の撤廃により不平等を是正することでした。例えば98年9月の東京高裁判決は、付言で「援護法の国籍条項及び本件付則を改廃して、在日韓国人にも同法適用の途を開くなどの立法をすること、又は在日韓国人の戦傷病者についてこれに相応する行政上の措置を採ることが、強く望まれる」と述べています。

 政府・与党としては、日本人の恩給欠落者との兼ね合いもあり、国籍・戸籍条項を見直せば「特例」が大幅に広がることから撤廃は困難だというかもしれません。しかし、問題の困難さが政治の無為を免罪するわけではありません。

 これまで民団では、日本人として戦場に駆り出し、半世紀以上も放置してきたのは理不尽であると指摘してきました。また、放置してきたことに見合う処遇をも訴えてきました。

 「今世紀中に解決を」として立案されたこの法案であれば、せめて残された余生だけでも日本人と同等の年金が支給されるべきです。

(2000.05.31 民団新聞)



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