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朝鮮族の中国人留学生を「犬」呼ばわり

東工大学院の指導教官が暴言



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歴史認識欠く「教育的配慮」
保証人の同胞が猛抗議

 東京工業大学大学院の高分子工学科主任教官が、自ら指導する朝鮮族の中国人留学生Lさん(31)に対して、「教育的配慮」からとはいえ、「犬」呼ばわりするという事件がこのほど明らかになった。歴史的背景をわきまえない暴言は高分子工学科専攻主任の耳にも入り、当の主任教官は訓告処分を受けて、辞職した。高分子工学科では事件をきっかけに、二度と不幸な事件が起きないよう、留学生への指導体制の在り方を根本から見直している。

 Lさんは北京化工大学を卒業後、「日本の進んだ技術に憧れて」96年10月、東京工業大学研究生として留学した。1年後、大学院の入学試験を受けて合格、岡田守助教授(49)の研究室を志望した。Lさんが岡田研究室助手の取り組んでいる研究テーマに惹かれたためだが、岡田助教授との感情的な行き違いはこの時からすでに芽生えていたようだ。

 修士課程の研究に入ったLさんは、デイスカッションがうまくいかないと岡田助教授からよく「あなたばかじゃない」といわれ、再三、指導を停止されることがあった。

 98年12月には問題となった「課題」が岡田助教授から示された。「課題」で岡田助教授は、Lさんを「犬」呼ばわりし、「対話することで教育することは私にもできると思っている」が、「犬に芸を仕込んだり、しつけたりするのは苦手である」。「Lさんは犬に近い。だから2年たっても教育の成果があがらない」「その意味を考えなさい」と求めていた。

 Lさんは単位もすべて取り終え、すでに修士論文も書き終えていたが退学を決意、今春に入って日本での身元保証人となっている川崎市の崔勝久さんに相談したことから、事実が明らかとなった。

 Lさんから「課題」を見せられた崔さんは、岡田助教授の「差別意識、歴史意識の欠如、教育者としてのあり方に強い怒りを覚え」た。同時に、これは一人、岡田助教授個人の問題ではなく、「日本の教育界の閉鎖性、封建制」の現れと、3月に入って大学側に抗議した。

 「異常なことだと思った」(小川浩平東京工大大学院理工学研究科長、工学部長の話)大学側では、5月の連休も返上、数10回にわたる調査委員会を開催した。この間、岡田助教授も非を認め、辞職願いを提出、4月28日にはLさんにあてて「おわび」の文章を書いたことから、大学側は「訓告処分」にとどめた。また、5月25日には専攻主任名で「不適切行為に対する見解」も出た。今後は、再発防止のための具体案づくりが大学側の課題となっている。


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治外法権的な研究室
改革へ複数教官制も

 研究室は「治外法権的」側面があり、教員同士、お互い干渉しあうことはない。その研究室内部で指導教官と学生は、朝10時から時には深夜まで一緒に過ごす。いわば「同じ釜の飯を食べる」関係。そうしたなか、主任教師は学生にとって「天皇」ともいうべき存在として君臨している。

 なかでも、岡田助教授は教育熱心なことで知られ、その厳しい指導は、外国人留学生に限ったことではなかったという。今回のLさんへの仕打ちも「熱心さの裏返し」という一面もあったようだ。

 だとしても、岡田助教授が今回、Lさんに突き付けた課題は「尋常でない」。高分子工学科内の同僚教授も「あの文書さえなければ、そんなに異常なことではない」と話している。

 同教授は「今回の事件を差別と思いたくない。仮に差別だとしても、Lさんが論文を書いて評価されれば卒業できる。今回は研究成果を発表する前に、岡田先生が発表するに値しないと押さえてしまった」と残念がる。

 高分子工学科内部では、研究の成果を学科の先生全員で把握しようという案が出ているという。指導教官に任せっぱなしではなく、年に2、3回は全員で途中点検するというもの。このほか、留学生担当教官を設け「不満よりも悩みを聞く場を保証しよう」という声もある。

 事件そのものは「不愉快なこと」(高分子工学科教授)だが、教育界の封建制、閉鎖性を打ち破る契機となるならば、不幸中の幸いといえそうだ。

 東工大には現在、800人近い留学生が在籍している。

(2000.06.07 民団新聞)



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