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在日へのメッセージ

石原 進(毎日新聞・新潟支局長)



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夢のコンサート実現を

 何かにせきたてられるように今月8日、東京・三鷹市で開かれた「ユニティコンサート」に足を運んだ。在日韓国人のバイオリニストの丁讃宇さんと在日朝鮮人の指揮者、金洪才さんの「共演」を、この目で見届けたい、という思いからだった。

 1985年4月に大阪で開かれた「ハンギョレ(同民族)コンサート」で、2人は共演するはずだった。しかし、ソウルにいた丁さんは、空港で当局にパスポートを取り上げられ、舞台に立つことはできなかった。南北対立の政治の壁が立ちはだかったのだ。

 そのコンサートを取材した私は、いまでも主役の一人を欠いた舞台を忘れられない。丁さん立つべき演台には花束が置かれ、スポットライトがそれを照らし出した。その光景は余りにも物悲しく、切なかった。金さんのタクトで奏でられた「アリラン」が、民族の哀愁を一身に背負うように会場を包んだ。

 数年後、私は韓国を旅行した際、ソウルで丁さんに会い、コンサートの様子を伝えた。丁さんは「いつの日か金さんと舞台に立ちたい」と語った。

 共演が実現するのに15年の歳月が流れた。

 この間、南北の間で時に政治的な緊張が高まったが、私のもとには最近、「雪解けの便り」が届いた。

 韓国から日本に留学し、スパイ事件に関与したとして帰国できなかったAさんが十数年ぶりに祖国の土を踏んだ。韓国の治安当局の内情を暴露する本を出版、軍事機密法違反の罪で起訴された在日韓国人のBさんからは、「ようやく韓国に行けるようになった」と喜びの電話があった。

 ユニティコンサートで丁さんは、北朝鮮で親しまれている「望郷の歌」を奏で、割れるような拍手を浴びた。そして、ソウルやピョンヤンでも2人のコンサートを開きたい、と「夢」を熱っぽく語った。その思いが通じたかのように、5日後に南北の両首脳が、歴史的な握手を交わした。

 祖国で開くユニティコンサート。実現すれば、ぜひ飛んで行きたい。

(2000.06.21 民団新聞)



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