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本名や歴史観にも踏み込む
関西中心に教育現場で活用
多文化共生教育を目指し、94年11月に発足した「全国在日コリアン保護者会」(李鍾順代表)=大阪市北区=は、未だ教育現場で発生する民族差別やいじめなどに対し、保護者の立場から教育現場に携わる教師らに向けて、在日コリアンに対する理解と認識の啓発を目的とする冊子「オモニからの提言・21世紀日本の教育へ」を昨年出版した。同冊子は日本の教育現場に着実に浸透しつつある。
在日同胞子弟の大半が日本の学校に通う中、偏見や誤った認識から生じるいじめや差別、また教師の在日コリアンに対する認識不足から、在日の子どもに学校や教師に対する不信感を植え付けてしまうといったケースが後を絶たない。
このような状況の中、李代表(55)は機会あるごとに、保護者と教師たちとが話し合いを重ねてきた感想を「教育者としてはプロだが、在日の生の声が届いていない。在日問題に関して認識のない教師や、半面、挫折する子を目の前にして深く関わる教師もいるが非常に差がありすぎる。教育は平等にやっていると言うが、在日の背景や歴史、文化が違うことを認めて教育してほしい」と話す。
冊子は「違いを認めて教育してほしい」と願う在日コリアン保護者が、最低限持たなくてはならない認識と、在日問題に取り組む教師や迷いを持つ教師などから出された素朴な質問に応える形でまとめられた。
冊子では「小一の子どもに在日をどう教えるか」「家庭訪問のときの対応」「歴史をどう教えればいいのでしょうか」「差別事象がおこったときの対応について」「クラスに本名と日本名のコリアンがいる時の対応」など14項目にわたるさまざまなケースを具体的に取り上げている。
「民族差別に気づいていますか」では、在日子弟が日本の子どもたちとは異なる歴史や文化を背景に持つ点を指摘しながら「違い」を「同じように」扱うことが実は差別につながることや、入居や就職の際の差別、外国人登録証の常時携帯義務など、在日を取り巻く差別問題の事例などを紹介している。
「在日の子どもを元気づける方法」では、地域で圧倒的少数である在日コリアンの子どもに対し、クラスや学年、学校間など、範囲を広げて出会いの場を設け、悩みや将来の不安が自由に出し合え、解決の糸口を見いだせる場を目指さなければならないと指摘している。
また多文化共生の教育についても、学校全体で日本人の子どもたちが持っている偏見や差別意識をなくし、意識を変えていく取り組みが必要だという。
さらに「本名で活躍している同胞の教員や弁護士など、学校以外で出会うさまざまな人たちから、子どもは元気をもらえる」と記している部分について、同保護者会の李美葉副会長(45)は「本名で活躍している人たちの存在が、在日の子どもにとって励みになる。そういう人々を今後、学校に呼びたい。そうすることで在日の子に誇りを持ってもらえるようになる」と話す。 「『名前』についてはどのようにすればよいでしょうか」では、韓日ダブルの子どもを持つ保護者からの意見も反映させている。
同冊子を学校現場に積極的に取り入れ、人権尊重を基盤とした仲間づくりを行っている学校も少なくない。
大阪の市立小学校では、9年前に在日児童に対する差別事例をきっかけに、全教職員が差別をなくすために研修を重ねると共に、地域、日本人保護者などの理解も得ながら、民族差別の不条理性・共生の大切さを学んできた。しかし、同校校長は「未だに、名前もじりなどの差別事例が生じており、教職員の意識にも差がある」と実情を話す。
同校では現在も研修を重ね、年間指導計画に基づき、在日外国人教育の推進に全力を注いでいる。差別事例が生じた場合、全校・全教職員で対応、事後指導などを行っているという。
また、同校では冊子を全教職員に配布。校長は「冊子を読むことにより歴史的な指導がしやすくなった、自分たちの指導に自信が持てた、などの声を聞いている」と今後も、研修会の教材として活用したいとしている。
芦屋市立宮川小学校でも最低年1回、講師を招いて教職員の研修会を実施。野村まゆみ教諭(49)は「在日の問題は教師の根幹に関わってくる」と指摘する。野村教諭自身、教職に就いて1年目に在日に対する知識のなさを実感して以来、自身の問題と受け止め、個人的に勉強を始めた。「免許を持っているはずの教師が何も知らない。知らないということを、自分自身で確認していないといけない。教師の働きかけは大きい」と強調する。
同校でも冊子は各教師が手元に置いて利用しているという。
李代表は「この冊子を契機に在日の親たちに元気になってほしい。教師たちにも在日の声を届けられたらと思う。教育は大事。在日の子が元気であれば日本人の子も元気になる。いい関係を作れる一助になれば」と期待をかける。
「オモニからの提言」は一冊300円(税込み)。
冊子に関する問い合わせは、李美葉副会長(075-331-8923)まで。
(2000.06.21 民団新聞)
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