民団新聞 MINDAN
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「6・25動乱は国連軍派遣で起きた」

日経紙が大きな誤り



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勃発も「7月7日以降」?
「訂正」必要ないとデスクが拒否
アジア部は「曖昧だが」と

 去る6月25日は「6・25韓国戦争」(日本では「朝鮮戦争」)ぼっ発50周年であった。韓国では金大中大統領参加による記念式典が開かれ、日本の各紙は、これを大きく報じた。「韓国戦争」に関する解説やまとめ記事も掲載した。

 ここに「韓国戦争」の二つの文章、「A」と「B」がある。同じことについての説明でありながら、内容がまったく異なる。


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「A」紙と「B」で記載正反対

 「A」=「50年6月25日、北朝鮮軍が南北境界全線で侵攻し、戦争がぼっ発。米国は、軍を急派。同年7月7日には国連安保理が国連軍結成を決議し、米、英、仏、トルコなど計16か国が実戦部隊を派遣した。」(6月24日付読売新聞「南北分断の歴史 朝鮮戦争ぼっ発あす50周年」)

 「B」=「50年には国連安保理がソ連に支援された北朝鮮が韓国に攻め込んだことを確認、米軍を主軸とする国連軍の派遣で朝鮮戦争が起きた。」(6月28日付日本経済新聞夕刊「韓国特集」)

 歴史上の「韓国戦争」のぼっ発は「6月25日」であるのに、「B」によると「7月7日以降」となる(この時点では、すでに北朝鮮軍がソウルを占領=6月28日=している)。

 もう一つの重大な誤りは、北朝鮮軍の韓国への全面的侵攻によって戦争が引き起こされたにもかかわらず、「B」は「国連軍の派遣で起きた」としていることだ。

 「朝鮮戦争」に関する記述としては、「A」が正しく、「B」は間違っている。「『B』=『A』でない」ことは、特に国際問題やアジア問題の専門家でなくても、すぐ気がつくはずだ。

 それにもかかわらず、「B」を書いた日本経済新聞・国際部のN記者と、その上司(?)、アジア部のMデスクは、「B」=「A」なのだから間違っていない――と主張してやまない。

 「Bの記述は間違っているので訂正するか、事実上の訂正記事なりを出すべきではないか」との筆者の電話での指摘に、N記者は「間違っていない。これでいいのだ」と初めのうちは突っぱねた。それも「戦争はどちらが先に始めたかわからない」といわんばかりの対応で、指摘をまともに受け止めようとしなかった。

 だが、さらにやりとりが続いた後、「この文章では、朝鮮戦争は国連軍側が引き起こしたことになってしまう」「訂正すべきではないか」との筆者の再三の主張に、ようやくN記者は「もう一度検討してみる」と表明。「その結果について連絡してほしい」との要請に応じることを約した。

 その後Mデスクから電話があった。「この文章のどこがおかしいのか。このままで良いではないか。訂正に値しない」「悪意を持って読まぬ限り、あなたのような指摘にはならない」との返答だった。

 N記者に対してと同様にこの文章の大きな誤りについて説明、くりかえし強調したところ、「いわれてみると確かにこの文章は曖昧だ」「なんでこんな曖昧なものを書いたのだ」とぼやいた。しかし「全体を読めば、北朝鮮が韓国に攻め込んだとも書いているのだから、国連軍によって戦争が起きたとは読めない。訂正する必要はない」と主張して譲らなかった。


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「重大な誤り」の認識欠ける

 筆者は「書き手の主観的意図はどうあれ、この文章では、はっきりと『国連軍の派遣で戦争が起きた』となっている。事実とは明らかに違う」「先入観を持たずに、この文章を素直に読んで欲しい。朝鮮戦争について予備知識を持たぬ人がこれを読んだらどう受けとるか。文字通りに『国連軍の派遣で朝鮮戦争が起きた』と理解しそのまま信じるだろう。この簡単な文章をそれ以外にどう解釈しろというのか」「このままで良いわけがないでしょう」と何度も強調した。

 それでもMデスクは「国連軍の派遣までを含めて朝鮮戦争というのだからこの文章は間違っていない」などと、問題点からピントのはずれた、そもそもこの文章の“重大な誤り”(誤字誤植や単純なミスとして処理すべきではない)に気付いていないようなことまで言い出した。そして「訂正はありえない」との姿勢を崩さなかった。

 これ以上押し問答を続けてもらちがあかないと判断、筆者は「この記述内容が事実に反するものではなく、訂正は必要ないと、あくまでも主張するのであれば、その理由を明確にして欲しい。その時には公開的に反論したい」と伝えた。Mデスクは「検討してみるので時間が欲しい。その結果を伝える」と約束した。

 検討結果の返答(電話)内容は(1)私たちも、Zさん(筆者)と同じように、朝鮮戦争は北朝鮮の全面的侵攻によるとの認識である(2)この問題については「適当な機会」に取り扱うようにしたいというものであった。「適当な機会」とは、「8月15日」(韓国の解放記念日)あたりを考えているという。

 「速やかかつ明示的な訂正はしない」ということにほかならない。筆者は「納得できないので、反論を書かざるをえない」とMデスクに表明した。


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「新聞倫理綱領」は飾りか

 そもそも(1)のような認識であるならば、「国連軍の派遣で朝鮮戦争が起きた」とする「B」のような文章になりようがない。本意に反して「B」になったということなのか。そうであればなおさらのこと「即刻訂正」してしかるべきだろう。

 「B」の記述内容は、歴史的事実に反し、しかも「戦争責任」を国連軍側に転嫁するものとなっている。「B」の文章は、きわめて明瞭でわかりやすく、決して「曖昧」(Mデスク)なものではない。

 「明確かつ重大な誤り」への対応を、「適当な機会に処理」云々と、それこそ「曖昧」にして先送りするのは、読者への責任を放棄するものでなかろうか。

 日本新聞協会が6月21日に制定した「新・新聞倫理綱領」は、新聞の責務について「正確で公平な記事と責任ある論評」を強調、同時に「読者との信頼関係をゆるぎないものとするため、自らを厳しく律し、品格を重んじなければならない」とうたっている。

 まだ「B」=「A」との認識段階にとどまっており、読者に対する責任も感じていないというならば、なにをいっても無駄かもしれないが…。(Z)

(2000.07.05 民団新聞)



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