民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
在日へのメッセージ

「大統領の笑顔」
東実森夫(時事通信社会部記者)



 分断から55年ぶりに実現した歴史的な南北首脳会談。平壌から送られてくる映像には、金正日総書記と堅く握手しながら、やや緊張気味に顔をほころばせる金大中大統領が大きく映し出された。

 死線をさまよう苦難の末に大統領の地位を勝ち取り、だれにもできなかった偉業を成し遂げた金大統領。逆境に屈せず、それをプラスに変えていく生き方に、人間的な魅力を感じるのはわたしだけではないだろう。

 1994年から98年までのソウル在任当時、金大中氏には3度ほどお目にかかった。2度は日本人記者団との懇談の席で、政界復帰前。あと一度は、大統領選挙直前の単独でのインタビューだった。

 一番印象深いのはやはりインタビューの時で、選挙活動のせいか、少し疲れ気味に見えたが、その話し振りは自信に満ちていた。

 特に日朝関係については、「韓国に遠慮することなくどんどん進めていってもらえばいい。わたしは支持する」と話し、日朝、米朝関係の進展にぴりぴり神経をとがらせていた当時の金泳三大統領との違いを際立たせた。

 今思えば、既に南北関係改善に対し、具体的なプランや見通しがあったのかもしれない。

 ただ、会見ではほとんど笑顔を見せることはなかった。もちろん、親しいわけでもない日本の若造記者にこびる必要などないのだが、他の政治家とは少し違う印象を受けた。「人気より能力で勝負する」という姿勢が感じられた。

 「そんなところが周囲に警戒心を持たれ、若いころは苦労したのかも知れない」などと勝手なことを思ったりもした。

 よく知られているように金大中氏は日本語が非常に上手だが、会見はすべて韓国語で行った。

 金大中氏は日本語で話した方がいいと思っていたのかも知れないが、わたしが下手ながらも一生懸命韓国語で話そうとするので、付き合ってくれたのだろう。そんなところに思いやりを感じた。

(2000.07.12 民団新聞)



この号のインデックスページへBackNumberインデックスページへ


民団に対するお問い合わせはこちらへ