民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
在日の葛藤を短歌に託す

愛媛の在日2世主婦・朴玉枝さん



朴玉枝さん

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「民族の誇り」歌で残したい
NHK全国大会最優秀の一首も

 子や孫のために私たち夫婦が歩んだ人生を記録に残したかった―。愛媛県伊予郡の在日2世主婦、朴玉枝さん(62)がこのほど、自らの半生をしたためた歌集「身世打鈴」を発刊した。今は亡き夫との出会いで目覚めた民族意識。腎臓を患う兄に弟が臓器を提供した時の悲痛さや祖国、在日同胞に対する強烈な思いなどが赤裸々に詠まれている。31字に凝縮した在日の身世打鈴を聞いてもらいたいという。


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弟が兄に与へむ腎一つ吾子の2人が運ばれてゆく

 腎臓移植を余儀なくされた長男に、次男が自ら臓器を提供した時の心情を吐露した一首。

 この歌は昨年11月、NHK主催の全国短歌大会で、一万三千四百四十四首の中から最優秀賞に選ばれた。「受賞は運が良かった」と話しながらも、当時のことを思い出すと手放しでは喜べないと複雑な表情を見せる。


◇ ◇ ◇
密造酒焚きて豚飼ふ集落にハングルを学び歴史知りたり

 兵庫県生まれ。北海道で暮らしていた20歳当時、夫の趙鶴来さんと知り合い結婚、移り住んだところは四国、今治の在日韓国・朝鮮人集落だった。

 先住者は密造酒と養豚で生計を営んでいた。早朝、抜き打ちで日本の官憲が手入れに来た。「これは人間の暮らしではない」と不条理を感じた。

 「どうして私たちがこういう暮らしをしなければいけないのか」。この疑問を解き明かすために集落で開かれていた勉強会でむさぼるようにしてウリマルや歴史を学んだ。


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朝鮮へ帰れと凄み銀玉をわれに投げつけし無頼もありき

 5年暮らした集落で長男、次男が誕生した。集落での生活に区切りをつけ、気の荒い漁師町で遊技業を営んだ。

「私はここで鍛えられた」という。客は勝負に負けると腹いせに「朝鮮人」と罵声を浴びせた。

 ある日を境に、客の「朝鮮人は帰れ」に「朝鮮人がそんなに羨ましいか、悔しかったら朝鮮人になってみろ」と応戦した。客同士の喧嘩では胸ぐらを捕まえて外に連れ出した。

 「男か女か分からなかった。いつも客と睨み合いだった」。生きるために必死で、子どもと夫の面倒を充分に見られなかったことを今でも後悔している。


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在日の苦難乗り越え足る日々も心さびしく伽耶恋ひにけり

 夫が渡日してから亡くなるまでの43年間、根強い差別と偏見の中で「どんなに親しくなろうと努力しても、最後まで日本人の親しい人はできなかった」と無念の言葉を発した。

 望郷の念を果たせなかった夫のために、韓国式の丸い墳墓を建てた。

 朴さんは日本人に対し「正しい歴史認識を持ってほしい」と切望する。一つの歴史の中で起こった出来事を認識しなければ、将来を担う両国の子どもたちが理解もできず、偏見もなくならないとの強い思いからだ。さらに朴さんは「歴史は未来のために学ぶもの」と話す。


◇ ◇ ◇
在日の子々孫々の記するるを希ひつつ見入る趙氏の族譜

 家業を息子に譲った現在、7人の孫たちには「日本社会に順応しながらも祖国と民族に誇りを持って生きてほしい」と話す。

 夫が亡くなって始めた短歌歴も10年を超えた。

 短歌は「一生付き合っていくパートナーのようなもの」と新たな短歌作りに取り組んでいる。

(2000.07.12 民団新聞)



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