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在日保護者会発刊の「在日教育手引き」

日本人教師らに反響呼ぶ



李鍾順さん(右)と李美葉さん(左)

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父母・教師と連帯で改革へ

 先月、本紙で取り上げた「全国在日コリアン保護者会」(李鍾順代表)発刊の日本人教師向け冊子「オモニからの提言・21世紀日本の教育へ」に関して、同会に各地の在日同胞、日本人教師、一般の日本人から反響が寄せられた。中には在日同胞過疎地からの問い合わせもあった。本紙での掲載から1カ月経た今月21日、李代表と李美葉副会長に現在の思いなどを聞いた。

 今月20日現在、冊子に関する問い合わせは、四国地域からの2件をはじめ、中国、近畿、中北、東北、関東地域から30件が寄せられた。また、冊子購入数は合計で257冊で、1人で数冊購入する人もいた。

 30件のうち在日同胞は全体の60%を占め、日本人(帰化者、配偶者が在日など含む)は40%だった。日本人の場合、圧倒的に教師からの問い合わせが多かったと、李副会長は話す。

 李代表は「在日問題に取り組んでもどうしていいか分からないという教師が結構いた。冊子の中に答えを求めたのではないか」、また、在日の場合は「在日自身が冊子の内容に共感できたのでは」と分析する。

 過疎地の一つに挙げられる島根県益田市在住の在日韓国人の安成甲さん(59)は、冊子を購入した1人だ。在日問題に取り組んでいる「日本と朝鮮の生活を語る会」の福原孝浩代表との出会いを期に活動を続けている。

 安さんは学校や自治体などで、自身の生い立ちや在日同胞が置かれた状況について講演を続けている。

 現在、益田市在住の在日韓国・朝鮮人は118人(6月末日現在、益田市役所調べ)。同市は益田人権センターを通じ、人権問題と関連した民族問題を啓発、啓蒙する教育に取り組んできた。

 安さんはある事例をあげた。在日の生徒が教師に向かって「僕は日本人なの、韓国人なの」と問いかけられた教師は何も答えられなかった。逆に保護者に「どう話せばいいのか」と訪ねたという。

 在日教育に関して無知であったがゆえの対応でなかったか、と訴える。

 「在日のほとんどは日本人と変わらぬ生活をし、民族に触れる機会も少なく、何かあった時に自分が在日であることに気づく。人数が多い少ないの問題ではなく、子どもの戸惑いや抵抗をなくし、自覚と誇りを持てるようにと教師に話をしている」というのが学校訪問を続けている理由だ。

 安さんは購入した冊子を益田人権センター図書室と教育委員会にそれぞれ寄贈した。

 8月に予定されている教師を対象とした研修会でも冊子を活用する考えだ。

 韓国に興味を持ち、過去2回訪韓した話を生徒に話すこともあるという、高知県高部郡の村立大野見中学校の矢野正彦教諭(38)。「関西や近畿のように在日の生徒は多くないが、在日が置かれている状況を知りたかった」と冊子を求めた。

 矢野教諭は「非常に分かりやすかった。学校の中だけでは分からないことがある。将来的に活用したい」という。

 李代表は冊子発刊を契機に、ますます保護者会の役割は大きくなると感じている。

 「保護者会があることによって私が思っている以上に勇気づけられたり、元気づけられている人がいる。各地に保護者会ができ、横のつながりができたらいい。在日の多住地域も多くの問題はあるが、過疎地も閉鎖的だと聞いている。そういう人たちにも保護者会のことを伝えられたら」と今後の新たな取り組みを語った。

 日本の学校に通わせながら悩んで子育てをしている在日の保護者たち。冊子はこれら保護者と理解ある教師の応援を得ながら生み出されたものだ。

 保護者会の活動を通じて、今まで動かないと諦めていた教育委員会の厚い壁が、少しずつ門戸を開きはじめているのを感じているという。

 しかし、未だ学校や教師の間に在日生徒に対する認識の格差や、民族差別によるいじめが日常茶飯事的に起こっている事実がある。

 李代表は「在日の立場で見えるものがある。矛盾があるから見えるものがある。だからこそ在日の立場で発言していかなければと思った。今後も学校や保護者たちとつながっていきたい」と強調する。

 李副会長は「この問題は日本人にだけ求めるのではなく、私たち在日も日本の学校に働きかけたり、刺激を与えなければ。本名を名乗る人、通名を名乗る人を含め、多様化して存在している在日の人たちが、それぞれの立場で声をあげていくことが教育を変えていくことだと思う。実際に現場の教師たちの中で意識改革が起き、また、地域の日本人の方も変わっていると実感している」と語った。

(2000.07.26 民団新聞)



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