自ら民族的アイデンティティーを確立するまでの心の軌跡をユーモアあふれるドキュメントタッチで映画化した「あんにょんキムチ」で話題を呼んだ在日韓国人三世、松江哲明監督がこのほど同名のタイトルで本を出版した。映画は12日から東京を皮切りに一般公開が始まっているが、映画の原作としても楽しめる内容となっている。
主人公の祖父、劉忠植さんは日本の植民地統治下にあった忠清南道出身。厳しい民族差別のなか苦肉の処世術として懸命に日本人を演じ、帽子職人として独立する。4人の女の子に恵まれた。その一人が松江監督のお母さんだった。
祖父は地域社会では町内会の役員を務めるほど模範的日本人を演じていながら祭祀だけは欠かさず、家族に対しても日本人との結婚を絶対に許さなかった。また家庭ではキムチを欠かすことはなかった。
そんな祖父の二面性が、松江監督には長じるにつれて疑問に思えてきた。後になって松江監督は、祖父が日本人を装ったのも、家族に日本国籍を取るよう勧めたのも、実は孫の世代のためだったことを知らされる。それからは松江監督自身、自らのルーツを隠さず韓国系日本人として生きようと決意を固める。
映画は家族や親族へのインタビューや、韓国の故郷まで行って懸命に自分探しをする松江監督自身を前面に出しながら、在日韓国人としてどう生きていくべきかをさりげなく問いかける内容となっている。
作品は東京のBOX東中野で早朝と夜間の時間帯、ロードショー公開されている。さらに、大阪・扇町ミュージアムスクエア、名古屋・シネマテークなどでも順次公開される予定。
松江監督の今回の著作『あんにょんキムチ』は中学生以上の読者層を対象にこのほど東京の汐文社から出版された。1300円+税。
問い合わせは、電話03(3815)8421、同社まで。
(2000.08.23 民団新聞)
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