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2002年度版・中学歴史教科書

薄れる日本の加害者視点



 2002年度から全国の中学校で使われる歴史教科書が大幅に書き換えられ、アジアに対する日本の加害責任を薄める内容となっていることがこのほど明らかとなった。従来からあった「侵略」表現はほぼ消え去り、抗日義兵闘争があった事実すら削除されている。こうした自主規制は文部省の意向を忠実に反映したものともいえそうだ。関係者からは「20年前に逆戻りしたようだ」との声も出ている。

 今回、文部省に検定申請図書を提出したのは東京書籍、大阪書籍など従来の七社、及び今年から初めて加わった「新しい歴史教科書をつくる会」の八社。検定前の内容は非公開だが、市民団体「子どもと教科書全国ネット21」が独自に入手、分析した。

 それによると、日本による韓半島植民地支配では強制連行、皇民化教育、抗日義兵闘争などこれまで検定をパスしていた記述が削除、ないしは薄められ、日本の加害責任がぼかされている。「侵略」という用語は意識的に「進出」その他の用語に言い換えているのも目立つ。

 例えば、「3・1独立運動」に関しては、「日本政府は警察や軍隊を動員して鎮圧しました」(B社)とある。あたかも暴動を想起させるかのような記述だ。

 関東大震災ではこれまで同タイトルに併記されていた「朝鮮人虐殺」の事実がA、B社ともすっぽり抜け落ちている。

 象徴的なのは「従軍慰安婦」の記述が現行七社から3社に激減したこと。「慰安婦」を残した会社でも従来通り「15年戦争」「アジア太平洋戦争」の中で位置づけているのは2社のみで、他の一社は戦後補償のところだけで扱っている。これまで通り「慰安婦」の用語を使っているのは1社だけ。2社は「慰安施設」という記述である。

 日本軍がかつてアジアで行った行為については「侵略」と認識するか「進出」とするかで1時期、外交問題になったことがある。日本政府は国際協調の立場から隣国に配慮、教科書検定に「近隣諸国条項」を適用して日本の加害責任を追認するようになった。この結果、92年度からは高校日本史教科書七社九点にすべて「慰安婦」記述が登場するようになった。

 一方、こうした動きに抵抗する学者らは「自由主義史観研究会」をつくって96年からあからさまな教科書攻撃キャンペーンを開始した。まずは中学教科書からの「従軍慰安婦」記述の削除を求め、地方議会を舞台に意見書の採択を求め続けてきた。当時の町村信孝文相も98年6月、国会で「歴史教科書は偏向している」と答弁し、検定前の是正を検討するとの考えを明らかにしていた。

 検定意見は秋に出る。

*** 新旧教科書の記述比較 ***

◆日本の植民地支配関係 A社 韓国の義兵の写真(1ページ) 削除
コラム「朝鮮人強制連行」 削除
写真「朝鮮神宮に参拝させられる朝鮮の学生たち」 「志願した朝鮮の若者たち」
B社 そのため、朝鮮の支配をめざしていた日本は、ロシアとの対立を深めました。 そのため、朝鮮に勢力をのばそうとした日本は、ロシアとの対立を深めました。
タイトル「韓国併合と朝鮮民衆の抵抗」 「韓国併合と朝鮮の人々」
タイトル「日本の朝鮮支配」 削除
韓国の義兵の写真 削除
C社 (テーマ学習)「朝鮮・中国から強制連行された人々」。筑豊(福岡県)の炭坑の金さん。花岡事件を2ページで扱う 朝鮮・中国から強制連行された人々。花岡事件だけを1ページで扱い内容も薄くなっている。
D社 朝鮮の義兵の写真 削除
政府は、多くの朝鮮人や中国人を強制的に連れてきて、炭鉱などで厳しい労働に従わせました 削除
▼「侵略」の用語 A社 日本の侵略に対して、韓国では民族的抵抗運動が広がった。解散させられた兵士たちは、農民とともに立ち上がり、義兵闘争と呼ばれる武力闘争へと発展した。 このため、韓国では民族的抵抗運動が広がり、日本によって解散させられた兵士たちは、農民とともに立ち上がりました。
義兵戦争 日本の侵略に対し、朝鮮の人々は武器を取って戦いました。 削除
B社‥(タイトル)帝国主義諸国の世界と日本のアジア侵略 日清・日露の戦争とアジアの情勢
日本は朝鮮侵略をさらに強めました 削除
こうして日本は、朝鮮支配のきっかけをつかみ、やがて中国への侵略もくわだてるようになりました。 また、日本は朝鮮を支配するきっかけをつかみ中国への進出もうかがうようになりました。
(タイトル)帝国主義諸国の中国侵略 帝国主義諸国に分割される中国
(タイトル)中国への全面侵略と戦時体制 日中戦争拡大と国民生活
C社 (タイトル)日本の中国侵略 第二次世界大戦と日本
D社 帝国主義諸国の中国侵略 削除(本文では「中国侵略」は残っている)
E社 ヨーロッパ諸国のアジア侵略 欧米列強のアジア進出
F社 (節のタイトル)近代日本と中国・朝鮮侵略 節の統合で削除
G社 (タイトル)列強の中国侵略 三国干渉と北支事変
(以上、97年度版との対比)



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「事実上の強制だ」 市民団体が反対声明

 市民団体「子どもと教科書全国ネット21」をはじめとする四団体で構成する「教科書に真実と自由を」連絡会は、「教科書会社に対し『自主規制』の名による歴史の改ざんを強制した政府・文部省の行為は絶対に許せない」と題する声明をこのほど発表した。

 声明の中で今回の教科書記述の改悪を「政府・文部省の強い圧力によって強いられた自主規制」と指摘、町村文相の国会答弁を受けて99年1月、文部省幹部が教科書会社経営者に対し「もっとバランスのとれた内容にせよ」「著者構成も考えてほしい」と申し入れたと主張している。

 この問題では、国連人権委員会で採択したクマラスワミ報告が「慰安婦の事実を学校教育で教える」よう勧告、日本政府も「歴史教科書に慰安婦を記述している」と報告してきた。それだけに、連絡会では「口先だけで戦争反対を唱え、歴史的事実を教科書から消し去ることは国内外から批判されることであり、絶対に容認できない」としている。

(2000.09.20 民団新聞)



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