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慎武宏のコリアサッカーリポート

アジアの虎の鼓動<韓国サッカーの真価>



シドニー五輪では
2勝1敗という成績だったが…

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シドニー五輪での挫折
アジアカップで汚名返上を

 「自分の持てる力を全部出し切れなかったことが悔しい」。

 李東國はそう言って唇をかみしめた。普段は晴れやかな笑顔で明るく語ってくれる彼だが、オーストラリアのアデレード空港に姿を現したその表情は曇りがちだった。李東國だけではない。金徒均、朴珍燮、金龍大など、会う選手のほとんどがうつむいていた。遠征団を編成してアデレードまでやって来たレッドデビルが励ましの言葉をかけてきても軽く会釈を返すのが精一杯。5月のユーゴスラビア戦や、8月のナイジェリア五輪代表戦で見せた、自信にあふれる姿は、そこにはなかった。

 2勝1敗。韓国サッカーはシドニー五輪で歴代最高の成績を残しながら、得失点差で及ばず、またしてもグループリーグで姿を消してしまった。それが彼らを意気消沈させた、最大にして唯一の原因だった。期待されたメダルではなく、悔しさだけをトランクに詰めて帰路につく彼らの後ろ姿は見るに耐えないほど痛々しかった。

 しかし、その韓国五輪代表に対する国内評価は賛否両論で、最終戦となったチリ戦直後には「10人で戦いよく勝利した」との意見もあった。

 私もアデレードに飛んで韓国五輪代表を密着取材したが、故障者が続出する苦しい台所事情の中での2勝1敗には拍手を送りたい気持ちもある。最後の最後に意地を見せたチリ戦などは、感動的ですらあった。

 しかし、「過去最高の成績」という言葉に惑わされてはいけない。スペイン戦は完敗に終わり、モロッコ戦では決定力不足を露呈した。勝利したとはいえ、チリはベストの布陣ではなかった。何よりも韓国の目標は決勝トーナメント進出だったはずだ。そのために巨額の予算と月日を投じのではなかったのか。この事実を韓国サッカー界はしっかりと認識すべきだと思う。韓国サッカー界はシドニー五輪で勝てなかった原因と浮き彫りになった課題を冷静かつ正確に分析し、1日も早くシドニー五輪で陥った停滞ムードにピリオドを打たなければならない。さもなければ2002年ワールドカップ(W杯)にも悪影響をもたらすことになるだろう。もはやこれ以上の後退は許されないのである。

 そういう意味でも、10月12日から開幕するアジアカップは、韓国サッカーの真価が問われる大会になるだろう。

 中近東のレバノンで行われる4年に一度の大陸別選手権は、シドニー五輪での雪辱を晴らす絶好の舞台となる。辞意を表明しながら協会から慰留されて、引き続き代表チームの指揮を執ることになった許丁茂監督も、「シドニー五輪で喪失感を味わったファンたちに活力を与えたい」と語り、40年ぶりのアジア制覇に向けて決意を新たにした。汚名返上のチャンスは残されているのだ。

 もっとも、そのアジアカップを勝ち抜くのはたやすいことではない。韓国のアジアカップ優勝は1956年と60年の2回のみ。90年代に入ってからはサウジアラビア、日本に後塵を拝し、記憶に新しい96年大会ではイランに2―6という屈辱的大敗も喫した。

 「韓国がアジア最強である時代は終わった」。ライバルたちの間ではそんな言葉も囁かれているほどだ。

 しかも、今回のアジアカップ・グループリーグでは中国(14日)、クウェート(17日)、インドネシア(19日)といった強豪たちと対戦。23日から始まる決勝トーナメントはさらに厳しい戦いとなる。栄光への道のりは決して平坦ではないのである。

 しかし、その厳しい戦いを勝ち抜くための戦力は整っている。洪明甫、柳想鐵、河錫舟ら実力者たちと、シドニーでのリベンジに燃える李東國ら若手選手が融合したその陣容は、まさに2002年W杯代表といってもいい。

 アジアカップは、2002年W杯に向けた本格的な第一歩でもあるのだ。

 そのアジアカップで韓国はどんな戦いを披露してくれるのだろう。思い出すのは李東國の言葉だ。五輪最終戦となったチリ戦で意地のゴールを決めた若きストライカーは、アデレードで別れる直前、静かに、しかしハッキリと言った。「このままじゃ終われない」。

 その言葉を信じて、私はふたたび彼らを追いかける。今度こそ、喜びと希望をトランクにいっぱい詰めて帰ってきたい。

(2000.10.11 民団新聞)



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