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「近隣諸国条項」の順守を



 2002年度から日本の中学校で使用される歴史教科書記述のうち、近現代史の内容が従来より大幅に後退していることが明らかになりました。文部省の検定を受けるために提出された七社の「申請本」を分析した市民団体の調査によれば、「侵略」を「進出」などといった表現に言いかえるなど植民地支配の実態をあいまいにしたり、日本の加害責任を故意に薄める内容となっています。

 これまで「朝鮮人強制連行」について一ページを費やして解説していたA社は「申請本」でこれを全面的に削除。関東大震災を扱っていたB・C社の教科書からは「朝鮮人虐殺」のタイトルがすっぽり抜け落ちています。「3・1独立運動」の項では「朝鮮の農民などは抗日運動を起こしましたが…」というくだりが削除されました。

 このような教科書で学ぶ子どもたちが将来の韓国と日本の友好をつくりだしていけるのか、とても心配になります。2002年といえば、サッカーW杯韓日共催の記念すべき年でもあります。今回の教科書が検定を通れば、私たち民団が念願としてきた未来志向の韓日関係に水を差しかねません。日本にしても1982年の「教科書問題」以降、近隣諸国との歴史記述に配慮を求める「近隣諸国条項」を設けるなどしてアジアとの友好と信頼の関係を築いてきたこれまでの努力が無に帰しかねません。


■日本政府の事実認定にも背く

 日本の教科書における近現代史記述は、90年代に入ってかなり改善されてきました。これは同じ時期、アジアの諸国民から戦後補償の要求が提起されたことと無縁ではありません。この課題を重く受け止めたからこそ河野洋平官房長官は93年8月、「慰安婦」に関する事実を認めて正式に謝罪、教育を通じて過ちを繰り返さないようにすると表明したのです。97年から使用されている現行中学教科書に一斉に「従軍慰安婦」に関する記述が登場したのは、十分な根拠があったというべきでしょう。

 ところが、今回の教科書新版では「慰安婦」という用語を使ったのは一社のみでした。他の二社では「慰安施設」という表現に意図的に変えられています。この3年間で日本政府の見解が変わったわけではありません。私たちには、明らかに不自然な行為と映ります。

 教科書出版社をこうした自主規制に追い込んだ背景には、「侵略の事実を学ぶことが自虐につながる」とする保守派の学者・文化人らによる異議申し立てが発端でした。96年8月以降、「中学教科書から『従軍慰安婦』記述の削除を要求する」運動を各地で展開したことは、いまでも記憶に新しいのではないでしょうか。こうした地方議会を舞台とした削除決議をめぐる攻防は、97年ごろまで続きました。さらに決定的だったのは98年6月、当時の町村信孝文相が参議院行財政改革・税政特別委員会で「歴史教科書は偏向している。検定前の是正を検討する」と答弁したことです。


■韓国政府も憂慮を表明

 出版社による2002年版の教科書編集作業がスタートしたのが翌99年からだったことを考えれば、今回の記述内容の後退は、自主規制というよりも文部省側の政治的介入が作用したと考えるのが自然のようです。韓国政府が在韓日本大使館を通じて非公式に憂慮の意を表明したのも、当然といえましょう。

 私たちは、韓日両国の友好を願う立場から「近隣諸国条項」を順守した検定が行われることを願っています。

(2000.10.11 民団新聞)



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