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在日へのメッセージ

ショーウインドウの空白
東実森夫(時事通信社会部記者)



 わたしがソウルにいた当時、市中心部にある大型書店「教保文庫」のショーウインドウが話題になったことがあった。そこには、歴代ノーベル賞受賞者の似顔絵が名前や国名とともにずらっと並べられていたが、韓国人の受賞者がいないために、一カ所だけ空白になっていて、韓国の国名と「WHO」という文字だけが寂しげに書かれていた。

 そんな折、日本の作家、大江健三郎氏がノーベル文学賞を受賞し、新たに似顔絵が掲げられることになった。韓国の一部新聞はそのことを紹介しながら、「一体いつになったら韓国人は受賞できるのか」と、自嘲気味な記事を載せていた。

 金大中大統領がそんなことを知っていたかどうかは分からないが、ノーベル賞受賞に並々ならぬ意欲を持っていたのは想像に難くない。知り合いの韓国人記者によると、大統領府周辺では既に昨年夏ごろから「金大中大統領にノーベル平和賞を」という声が挙がっており、それが南北首脳会談を実現させる原動力の一つになったという。

 その狙いどおり、今回ノーベル平和賞を受賞したというのは、全く敬服に値する。何度も死に直面しながら、不屈の精神で闘い続け、大統領の椅子だけでなく、韓国人初のノーベル賞受賞という栄誉まで手に入れた金大中大統領。その人生には、一言では言い表せない凄みがある。

 ただ、そんな金大中大統領も、韓国内ではいろんな批判にさらされている。最近、ひところ上向きかけていた経済が再び沈滞ムードにあり、労組によるストが相次いでいる。南北関係にしても、北朝鮮の真の狙いは米国や日本との関係改善にあり、「韓国は利用されただけ」との冷めた見方もあるようだ。

 しかし、日本から見ていて感じるのは、大きな流れでは、韓国が統一に向けて確実に前進しているということだ。ノーベル平和賞は金大中大統領だけのものではなく、韓国人全体が勝ち得たものだ。ショーウインドウの空白が埋められた意味は決して小さくはない。

(2000.11.01 民団新聞)



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