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寄稿・地方参政権の「憲法違反」論を正す

徐龍達(桃山学院大学教授)



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「国民」は国を構成する住民
国際人権規約「内外人平等」の順守を

 今国会に提出された定住外国人への「選挙権付与法案」は、自民党内の一部反対論があって採決が微妙な段階にある。

 自民党反対派の最大の論点は、公務員の選定と罷免は「国民固有」の権利だとする憲法第15条違反にあるという。日本はいまや世界第3位の軍事予算で憲法第9条(軍備・交戦権の否認)を空洞化させ、北東アジアの緊張を高めつつあるが、自民党右派はこの重大な憲法違反には頬かむりをして、少数者の基本的人権にかかわる参政権に関して「国民固有」の概念を歪曲している。

 本来「固有」の意味は、英文では「国民」だけが持つ権利ではなく、「国民」から奪ってはならない(Inalienable)権利を意味している。現憲法のマッカーサー草案第14条では、「人民は…その公務員を選定および罷免する不可譲の権利を有す」となっていた。

 また、同第16条では「外国人は平等に法律の保護を受くる権利を有す」となっていて、定住外国人の人権が保障されていたものを不当にも敗戦後の日本政府が抹消した経緯がある。

 そこで「国民」「国民主権」とは何かが問題となる。「国民主権」は近代市民革命後のフランスにおいて、「君主主権」の対立原理として成立し、一般化した用語である。それまで君主によって支配されていた人民大衆自らが、国を統治するという考え方が「国民主権」であった。

 その後、18世紀末から19世紀にかけての産業革命以降、労働者大衆が政治参加を求めて運動し、やがて各国における普通選挙制度を確立することになった。その大衆は定住外国人を含む人民大衆であった。

 日本国憲法上の「国民主権」原理も、大日本帝国憲法上の「天皇主権」を全面的に否定して成立した概念であり、天皇支配の対象だった「国民」には「住民」としての定住外国人も含まれることになる。

 それゆえ、「国民」とは歴史的に「国を構成する住民」であって、伝統的な「国籍をもつ住民=日本人」という解釈は誤りであると考える。住民は「市町村の区域内に住所を有する者は…住民とする」規定(地方自治法第10条)により定住外国人も含まれる。

 この場合、在日外国人を定住外国人(長期滞在)と一般外国人(短期滞在)とに区分し、日本人プラス定住外国人が正しい意味での社会構成員としての日本「国民」となる。

 このように「国民」概念を拡張する論拠は、第一に、日本国憲法の「国民」の英文は、第10条(日本国民の要件)のnationalを除いて、第11条(基本的人権)、第12条(自由・権利の保持義務)、第13条(個人尊重)、第14条(法の下の平等)、第15条(公務員の選定・罷免)、第25条(生存権)、第26条(教育を受ける権利)、第27条(勤労の権利)、第30条(納税の義務)など、すべてpeopleになっている。

 ピープルは本来、居住地の住民、大衆を意味し、その国籍は直接関係はない。したがって、憲法上の「国民」は本来「国を構成する住民」とするのが正しい解釈である。

 論拠の第2は、第2次大戦後における国際人権の潮流が「国民」を「国籍基準」から「居住基準」や「住民基準」へと大きく転換させたことにある。人権を国際的な保障のもとに改めて把握しなおし、「内外人平等」を国際レベルで、しかも国際的な相互理解のもとで実現させようとしているので、定住外国人も当然「国民」扱いとなる。

 日本も批准した(世界で50番目)国際人権規約B規約第25条は、「すべての市民」(every citizen)に、いかなる差別や制限もなしに、「直接に、または自由に選んだ代表者を通じて政治に参与すること」を認めている。

 また、憲法第93条の「地方公共団体の長、その議員」らをその「地方公共団体の住民が直接これを選挙する」とした条文は、偏見なく素直に解すれば定住外国人も当然、その「住民」に含まれることになる。

 以上の論拠から、95年2月の最高裁判決を挙げるまでもなく、憲法第15条の「国民固有」の権利には、当然、「住民」としての定住外国人も含まれることになり、なんら憲法違反とはなりうべくもない。

 なお、補足的なフィロソフィーとして、日本人が21世紀に定住外国人も平等に住める国際国家への脱皮をはかり、「アジア市民」社会を多民族多文化共生社会として位置づけるならば、日本国はアジアで尊敬される国としての「名誉ある地位」を占めることになるだろう。

 その理想の実現をめざして日本人がこれまでの「心のカベ」と「国籍のカベ」を取り払い、グローバルな市民意識に目覚めた新しい思想を日本社会に定着させるように祈りたい。

(2000.11.01 民団新聞)



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