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在日へのメッセージ

吉田健一(時事通信・社会部記者)



李秀賢さんの行動の意味

 新大久保駅で、ホームから落ちた人を助けようとして韓国人留学生李秀賢さんら2人が死亡した。計3人の命が奪われる痛ましい事故だったが、景気回復の兆しも見えず、世田谷の一家4人殺害事件など殺伐とした暗いニュースが続く中、2人の行為は、人々の心に深い感動を与えた。

 私は最初、死亡した3人のうち2人が救助しようとして線路に飛び込んだと知ったとき、「痛ましい事故だな」と感じただけだった。しかし、翌日、うち一人が韓国人留学生だと知った瞬間、大きな衝撃を受けた。

 「これは日韓関係の大きな転機になるかもしれない」。日韓関係に関心を持つ一人として、そう感じた。おそらく多くの日本人、特に年配者は、「韓国の若者が、過去に自分たちの国を苦しめた日本人を命を掛けて助けようとした」点に心を揺さぶられたのではないか。それは日本人の韓国人に対するわだかまりの表れでもあり、私もそのように発想した。

 しかし、その後、李さんのホームページや、寄せられる韓国の若者からのメールを読み、考えが変わった。李さんの「後悔のない人生を送ろうと努力している。苦難、逆境も人生の一部。受け入れる準備ができている」との言葉からは、真剣に人生を送ろうとするひたむきな若者の姿が読みとれた。そして、李さんの行動に対し、韓国の若者たちは「他人を気遣う心に感動した」「勇気と希望を与えてくれてありがとう」と率直な感動の気持ちを書いた。

 李さんは、昔苦しめた日本人だからとか、韓国人だからなどと考えたのではなく、一人の人間の命を救うため、とっさに線路に飛び降りたに違いない。そこには国籍など関係あるはずがない。李さんのそのような純粋な行動が、若者の心に響いたのだろう。

 世界中に李さんのような大きな心を持った若者が増えれば、未来はもう少し明るくなる気がする。李さんの死を無駄にしないためにも、まずは自分自身、努力していきたい。

(2001.02.07 民団新聞)



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