民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
永住外国への地方参政権

日本各界に意見を聞く
森永道夫さん(帝塚山大学教授)



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「住民」の認知必要、多民族共生の視点持とう

▼参政権問題についての基本的な考えは。

 納税の義務をはじめ、日本人と同じように生活している永住外国人から参政権を奪っているということ自体が考えられないことだ。日本は単一民族で構成しているとか、神の国であるとか、根強い純血民族主義に基づいた排除思想が根本的におかしい。21世紀では笑い話だ。

 多民族、多文化共生の国際国家に当然変わっていく時に、外国人を国から排除しようとする考え方はとんでもないと思う。アジア市民という考え方、アジア全体がボーダレスになっている状況の中で考えるべきで、「参政権が欲しければ帰化しろ」というのは、ナンセンスだ。

 文化というのは完全に理解しあえるものではないが、違いを認識することによって共生文化ができあがると思う。永住外国人が地域社会にいることが必要で、地域社会を構成していく上での意思の形成に「在日」の人たちの力も借りなくてはならない。環境問題などの住民投票でも投票権がないと聞いたが、住民として認めていないということは、一体どういうことなのか。

 国籍の壁をなくすことによって、日本人と外国人との心の壁がだんだん解消されていくし、お互いに人権尊重の意識が育っていくと思う。その意味で参政権は有効だ。


▼被選挙権を含めると外国人市長の誕生を危ぶむ声もありますが。

 むしろいいことだと思う。多文化共生社会では当然起こり得ることだ。より豊かな人間生活ができるように、永住外国人を含めてディスカッションができるシステムを作っていかなくてはならない。外国人市長が生まれるかもしれないからやめておこうという議論はまったく後ろ向きのマイナス思考だ。

 永住外国人の実態を知らないのに、その存在を恐れすぎているのではないか。それはあまりにも国境が低くなっている世界の流れや多文化共生という時代の流れを知らなさすぎる。アメリカやヨーロッパの例を見ればわかることだ。


▼古代から日韓両国は交流があり、渡来文化も根づいているのに危険視されるのは残念ですね。

 例えば、春日大社や四天王寺、御所、宮中などで演奏される舞楽は、奈良朝に朝鮮半島と中国から伝わってきたが、今では韓国にも中国にもなくなった。伝播したままの形で今日に伝承され、今の文化と共生している。その舞楽を誰も日本の舞とは思っていない。渡来文化の成果として受け入れている。朝鮮半島から伝えられて来た伎楽、田楽などを土台にして、日本的な能楽が生まれたという例もある。多文化共生の中でもっと素晴らしい芸術や文化が生まれる可能性がある。

 誰がリーダーシップを取るかということを恐れるのではなくて、21世紀は混じり合う多文化共生社会を創ることにもっと力を入れなくてはならない。アジア一帯を考える大きな文化圏、大きな政治組織、大きな人間の生き方、そういうことをグローバルに考える時期に来ている。

 日本の植民地支配によって、それまでの両国の友好関係が悪化したが、だからといって舞楽をやめたという事実はない。深層の部分では綿々と歴史が続いていたということを大切に考えなくてはならない。住民投票や地方参政権によって地域の市民生活の意思決定に関わるということは、文化を共有することと同じで、そこに新しい可能性が生まれてくる。

 韓国料理を食べに大阪の生野によく行くが、そこは実態として「在日」の街になっている。もっと開放されて日本人と「在日」が互いに自由に交流することによって、混沌の中から新しいいいものが生まれてくると思う。そのためには、日本人と同じ資格にしなければならない。


■□■プロフィル■□■

 森永道夫(もりなが・みちお)1933年、大分県生まれ。関西学院大学文学部、同大学院文学研究科卒業。帝塚山大学学長を経て現在は同大学教授。民族芸術学会副会長。伝統芸能の研究のため、日本各地をはじめ韓国にも年に数回出かけている。著書に『劇的空間論』(桜楓社)、『演劇的なるもの―その幻想の時間―』(前田書店)、『馬芝居の研究』(雄山閣)などがある。

(2001.02.21 民団新聞)



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