民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
歴史教科書問題特集−6

事実ぼかし、修正で本質変わらず
同胞識者が批判の声



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検定運用面で疑問
金兩基さん(静岡、常葉学園大学教授)

 「つくる会」は申請本で自らの主張を曲げ、自分たちのつくった教科書を合格させるために137カ所にのぼる記述の修正要求を受け入れた結果、事実をぼかした教科書が誕生した。はたして検定が「適切に」行われたのかどうかは多いに疑問が残る。

 歴史的事実をぼかしたり抽象化すれば歴史認識にズレが生じ、摩擦が生まれやすく、彼らの目論見が再び姿を現す危険性も大きくなる。それによって得をするものは何もなく、逆に築きつつあるアジアの近隣諸国との友好を損なうことはあっても、益するところはない。このことを検定担当の調査官や審議官はどれだけ真剣に考えたのだろうか。

 検定制度そのものについての是非は内政干渉にあたるので論じないが、アジア近隣諸国との友好という点からは検定制度の運用と整合性という面で問題を残した。21世紀「共生の時代」に水をかけるものとの憂いが大きい。今後、地域での採択が広がらないことを願っている。


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自国中心史観を強要
姜在彦さん(大阪、花園大学客員教授)

 「つくる会」の白表紙本(検定前の原稿本)の内容は検定過程で多くの修正が行われているが、その基本は近隣諸国に対する近代日本の侵略行為をできるだけあいまいにし、正当化しようとする意図が見え見えである。

 「つくる会」が日本国内の世論やアジア近隣諸国の反発を考慮して1時的に問題になるような表現を修正したとしても、「つくる会」の母体となったいわゆる「自由主義史観研究会」の思想が変わったわけではない。

 かれらは教科書内容に対する韓国や中国の批判を「内政干渉」といっているが、かれらこそ隣国の歴史に対する自国中心の乱暴な歪曲をしている。

 歴史の大きな流れの過程では洋の東西を問わずこういう小手先の反動は必ずあるものだ。しかし、かれらのイデオロギーが歴史の流れを逆戻りさせるほどの威力を持つとは思わない。


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批判の声高めよう
鄭早苗さん(大阪、大谷大学教授)

 21年前の日本の検定教科書問題をめぐる一連の運動でも新聞、雑誌、集会などで批判的に議論された。その時も日本が近代史における植民地支配やアジア各地の占領に対して教科書を通してごまかそうとしていたのであるが、民主化を目指す学校の先生や文化人が元気だったから歴史をごまかされまいと緊張する雰囲気もいまより強かった。もちろん今回も大江健三郎さんをはじめとする人士たちが声明を出したり、ソウル大学と東京大学の両総長の意見が一致しているなど、両国の良識派の意見に相違はない。

 ではなぜ、繰り返しがおこるのか?戦後日本で民主主義を叫んできた人たちが後退し、護送船団が「楽」ということに落ち着きつつある市民の姿を「つくる会」の支持者たちが見くびっているのであろう。

 しかし、歴史的被害者である在日コリアンと一部の日本人は「ひとごと」ではなく、日本の民主化のために今回も積極的に取り組んでいるのである。


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採択の行方、監視を
金光敏さん(大阪、民族教育促進協議会事務局長代行)

 国家が特定の歴史観を学校教育を通じて子どもたちに示すことの是非も含め教科書検定のあり方そのものが問われるべきだと思うが、今回の結果は、「つくる会」の教科書のみならず、全体的に“右側”に引っ張られており、大きな危惧を持っている。

 これから自分の地域でどの教科書が使われるか、保護者や同胞社会の運動がしっかり監視していくことが重要で、「つくる会」は、来年度の採用に少しでも実績を残すことを目標にしている。

 同胞の子どもたちの人権にも関わり、高校、大学入試に不利な内容になっていることも十分にふまえ、地域での教育運動を進めていくべきだろう。

(2001.04.11 民団新聞)



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