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侵略美化の教科書ら危惧する



 137カ所にわたる文部科学省の修正意見を取り入れて検定に合格した「新しい歴史教科書をつくる会」の2002年度中学歴史教科書に対して危惧を隠せません。


■事実に反す「アジア解放戦争」

 「つくる会」の歴史教科書では、検定後も第2次世次界大戦を「大東亜戦争」と呼び、日本の自存自衛と欧米からアジアの解放を導いたという認識を貫いています。日本の占領下にあった地域の代表者らを集めた「大東亜会議」に一ページもの記述を割くなど、第2次世界大戦につながる日本の侵略行為を正当化しようとする意図が見えています。アジア太平洋戦争がアジア解放戦争でなかったことはこれまでの歴史研究でも明白です。「つくる会」がいうように、アジア解放戦争であったならば、植民地支配下にあった韓国、台湾をまず独立させていなければなりません。ところが事実は全く違いました。3・1独立運動は植民地下の抑圧に耐えかねた民衆が「反植民地・独立」を叫んで立ち上がった運動なのです。

 韓国併合の記述にしても、韓半島に「鉄道・灌漑の施設を整えるなど開発を行い」と日本が取ってきた行為を評価し、いかにも韓半島に恩恵を与えたかのように記述しています。ですが、鉄道施設や港湾の整備などは、速やかに植民地からの収奪をすすめるためであり、まったく日本自身のための整備であったのです。「つくる会」教科書では、このような表現が多用され、アジア太平洋戦争という侵略の歴史を正当化し、加害者としての視点は明らかに欠けているとしか言いようがありません。

 「つくる会」はそもそも、日本の歴史教科書が自虐的であると「慰安婦」の記述などに反発する人士たちが構成したものです。日本が国際社会に顔を出した明治以降の侵略の歴史を、都合のよい一側面を取り上げながらバランスを欠く歴史観を主張してきました。それは韓日併合について、検定前の教科書に記述していた「国際関係の原則にのっとり、合法的に行われた」とする文章に象徴的に表されています。


■教育現場で採択反対の声を

 一方、「つくる会」の教科書に対して厳しく抗議や再検定を求める韓国や中国に対して、「ごちゃごちゃ言われる筋合いはない」「内政干渉」という声が一部で聞かれます。本当にそうでしょうか。

 日本がアジアを侵略した時期から、まだ百数10年を経ておらず、まだ近代史の範疇です。そして韓国や中国でも、日本の侵略を体験した人たちが未だ多く生存しています。アジア侵略は、同時期に同地域で起きた歴史的な事実です。日本が侵略し、アジアが侵略を受けたという歴史の事実は同じなのです。それを「国が違えば認識が異なる」の一言で片づけ、侵略を正当化するかのような記述で良いのでしょうか。そうではありません。そのために近隣諸国を配慮する規定が設けられているのではないでしょうか。

 一部人士の間では、教科書検定は公正に行われたとする認識があるようです。ですが、良識ある人士からは、修正後もなお復古調の歴史を美化し、侵略を肯定しようとするアンバランスな教科書であるとの批判を受けています。

 急速な国際化が進む日本社会の中あって、なぜ今になってことさら過去を美化する方向に進むのか理解に苦しみます。過去に目をつぶるものは未来に対しても盲目になるという言葉の意味を深くとらえ、「つくる」教科書が教育現場で採択されないよう声をあげることが必要とされています。

(2001.04.18 民団新聞)



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