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自然な表情
「私、在日韓国人なんです」。店長の口調は、ごく自然だった。例えば、日本人が「私、秋田県出身です」というのと同じように。たまたま出会ったばかりの人に、自分が在日であることを「告白」されたのは、初めてかもしれない。
私事ながら、念願叶って、6月中旬からソウル支局で勤務することになった。マイカーを売るため、自宅近くの中古車買い取り業者を訪ねた。私が韓国に転勤することを話すと、私より少し年上の店長は自分が在日韓国人であることを告げた。しばらく共通の知人の話に花が咲いた。
店長のように本名や自分が在日であることを堂々と明かしている人はどれぐらいいるのだろうか。身近に暮らしながら、自らのありのままの姿をさらけ出し合えないとしたら、なんと窮屈な社会だろう。
在日の人々の間では、自らのアイデンティティーをしっかりと持ちながら、地域社会に入り込んでいこうとの考えが根付いてきていると思う。おそらく、店長の自然な表情も、さまざまな葛藤や苦労を乗り越えた末、身に付いたものだろう。一方、日本人の側は在日の人々と自然と接しているだろうか。
「在日への差別意識もないが、在日がなぜ日本にいるかという歴史も知らない最近の日本の若者をどう思うか」。普段気にかかっていたことをある在日の男性にぶつけてみた。男性は「過去を恐縮ばかりされてもしょうがないが、過去のことを何も知らずに仲良くやっていこうと言われると、お前ちょっと違うだろうと言いたくなる。歴史を知った後だったら、何を言われてもしょうがないけど」と答えた。
日本人が、在日の人々と自然とつき合うためには、一人一人が歴史と向き合い、自らを正しく知るのが第一歩だと、改めて考えさせられた。
(2001.05.30 民団新聞)
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