民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
永住外国への地方参政権

日本各界に意見を聞く
近藤 敦さん(九州産業大学助教授)



■□
「国民固有」を曲解…権利の性質で判断すべき

◆参政権は国民固有の権利という
  反対論がありますが…。

 日常用語で国民固有と言うと、「国民だけの」という意味に理解されるので、政治家や一般世論にある程度影響力を与えてしまったのだろう。

 しかし、憲法15条で言うところの「国民固有の権利」の意味は、「国民が当然に持っている、譲り渡してはいけない権利。国民から奪うべからざる権利」であると、通説や内閣法制局が明確に言っている。

 譲り渡すというのはこの場合、自分の権利(参政権)を他者(外国人)に渡して、自分の権利を失うということで、それをしてはいけないと言っているのである。

 外国人に参政権を認めても、自分(国民)が参政権を失う訳ではないのに、外国人の人権について研究していないごく一部の学者が、「外国人には譲り渡すことができない権利だから憲法違反だ」と説明する。

 このごまかしのレトリックを自民党の反対議員が取り上げ、憲法上の問題があると声高に叫びだし、参政権を認めたくないから、そのおかしさに気づかずに、反対のために使える議論に乗っかったという印象が強い。


◆憲法全体との関係を聞かせて下さい。

 憲法の中には人権の条文がたくさんあり、外国人にも認められる権利と国民に限る権利について、「何人も」という文言と「国民は」という文言を手がかりにする「文言説」という考え方が一時言われたことがあるが、今では権利の性質で判断するようになっている。

 15条の条文の「国民固有」を論拠に、外国人参政権を反対するのは、憲法学者はほとんど誰も言わなくなった「文言説」を焼き直したものに過ぎない。

 15条は国民主権と関係があり、「国民」とは、性質の上では日本国籍を有する者ということは、最高裁もそう理解している。

 ただし、日本国籍者だけを国民主権の対象とするのではなく、永住市民を含むとか、ナショナリズムよりも民主主義の要素が重要だという有力な国民主権の理解もある。

 先進的な国民主権の国は、地方の民主主義の不足を、一定の外国人の地方参政権により補充するようになっている。地方自治とか、住民自治の理念から、最高裁は永住外国人への選挙権を法律でつくることまで禁止しているとは言えないと、明確に判断しているのを忘れてはならない。


◆対抗措置としての「国籍取得緩和法」の動きをどうみますか。

 いろんな選択肢がある社会が望ましいと思う。「在日」が外国籍のまま地方参政権を行使できるというのが一つの選択肢、もう一つは日本国籍だけになるという選択肢。さらにはヨーロッパのように二重国籍への模索もありうる。

 しかしながら、参政権に対する各種の世論調査では、いずれも賛成が過半数を超えているのに、いまだ立法化されずに一部の反対論者によって、日本国籍だけになる扉を大きくするだけで、他の道をふさぎ、囲い込むことは、民主主義の不足が二重に問題となる。


□■プロフィル■□

近藤 敦(こんどう・あつし)

 1960年、愛知県出身。九州大学大学院博士課程修了。九州大学法学部助手、ストックホルム大学客員研究員を経て現職。専攻は憲法。主な著書に『「外国人」の参政権―デニズンシップの比較研究』『新版 外国人参政権と国籍』『Q&A外国人参政権問題の基礎知識』(いずれも明石書店)などがある。

(2001.06.06 民団新聞)



この号のインデックスページへBackNumberインデックスページへ


民団に対するお問い合わせはこちらへ