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スポーツと平和を考える




 今年、米大リーグ野球に挑戦したイチロー選手が、新人最多安打の記録を90年ぶりに塗り替えたというニュースが飛び込んできました。非凡な才能の持ち主とはいえ、生活環境の変化や記録へのプレッシャーをはねのけた末の快挙に、日本中が拍手喝采を送ったことでしょう。


■国境を越えた感動を

 パワー勝負の大男軍団の中にあって、線の細い選手がどこまで太刀打ちできるのか、ファンも野球関係者も心配がなかったとは言えません。ところが、「柔よく剛を制す」という柔道の精神を地でいくように、その活躍は1年目にしてアメリカのファンを魅了しただけでなく、アジア系の外国人にも大きな勇気と活力を与えました。この事実は何にも勝ると思います。

 かつて、同じように大リーグにデビューした野茂投手が、その独特な投法と三振奪取の活躍によって注目され、日米関係に一つのプラス評価をもたらしたように、スポーツは国境を越え、多くの人と感動を分かち合うことのできる人類の文化であることを改めて見せつけました。

 国家間の政治や経済や外交がゆきずまってもスポーツが風穴を開けてきたことは、米中の国交樹立がピンポン外交によって糸口を開いたことや、サッカーや卓球などで南北韓の単一チームが構成されたことでも知られます。

 また、多くの若い才能を受け入れるアメリカの懐の深さも称賛しないわけにはいきません。実力さえあれば誰でもアメリカンドリームをかなえることができることを証明してくれました。


■平和がスポーツの母体

 しかし、スポーツも平和な状態なくしてはありえないという現実にさらされていることも否めません。民族紛争や戦争によって歴代五輪が世界のスポーツ祭典とは呼べない事態がありました。ベルリン五輪のマラソンで金メダルを受賞したのはわが同胞の孫基禎氏ですが、日本の植民地支配という状況下で胸に日の丸を掲げ、耳には君が代斉唱の洗礼を浴びるという屈辱の時代もありました。

 今、私たちは9月11日に起きた対米同時多発テロとその報復行動の行方に強い危惧を抱いています。戦争の世紀と言われた20世紀に決別し、21世紀を人権の世紀として刻むべき時期に、またしても臨戦態勢へと移行するきな臭さがここ日本でも現実の問題として浮上してきたからです。

 2002年のサッカーワールドカップまで約250日に迫っています。史上初の世紀の祭典を韓日両国が共催し、無事に成功させるためにも、「目には目を」という感情的な対応を止揚するために人類の英知が今ほど求められている時期はありません。戦争の時代に翻弄され、平和の尊さをよく知る在日同胞として今、何をなすべきかをスポーツの秋に考えたいと思います。

(2001.10.03 民団新聞)



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