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在日へのメッセージ

明珍美紀(毎日新聞記者)



大統領の過去

 「体を見せることで私にもためらいがありました。でも、大きな心の傷を乗り越えるヒロイン。演じるに値すると心を決めました」。

 ヤン・ウニョンさん(24)はさわやかに語る。金大中事件を題材にした阪本順治監督の日韓合作映画「KT」で、ヒロイン・李政美を演じた韓国人女優だ。

 牛乳配達や韓国語の家庭教師をしながら、日本で暮らす一見、地味な役どころ。だが、実は韓国で民主化デモに参加し、獄中で拷問を受ける辛い過去を持っていた。服を脱ぎ、胸の傷を見せるシーンが痛々しい。一体、韓国の何人が、このヒロインと同じような思いを味わったのか、私には想像もつかない。

 軍事国家の策略に、恋愛をまぶし、社会派とエンターテイメントを織り成す構成は、映画の娯楽性を思えば仕方のないことかもしれない。1973年の事件当時、救援活動に深く関わった在日コリアンの中には、「一切、協力しなかった」と複雑な表情を見せる人もいる。けれども、日韓ワールドカップが開かれる今年、大統領の過去の苦闘に光をあて、未解決の事件を突きつける。このことに何かを期待するのは、私だけだろうか。


◇◇◇

 「在日についてどう思うか」とヤンさんに聞いた。「正直、言って、在日のことはよく知らなかった。でも、撮影を通してたくさんの人と知り合い、同じ母国の人だと実感した」と答え、「二つの国の橋渡し役として引っ張って行ってもらいたい」とも。

 映画は5月、公開予定。ヤンさんは、「金大中大統領がこの映画を見てどう思うか、チョット心配」だそうだ。

(2002.03.06 民団新聞)



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